弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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愛憎ラリーとその結末

即興小説。制限時間30分。お題は「愛と憎しみのサーブ」


 僕という人間は、あまり人から褒められたことがなかった。それは、僕があまりにも社会に不適合であるとか、浮世離れしすぎていたからではなく、ただ単に、「僕という人間」が褒められたことがないということである。
 こういう話がある。ある人物がコップを持ったとしよう。その一連の動作について、彼の脳波について調べてみた時、彼がコップを持て、と命令するよりも前に、彼の手はコップを持つ動作を始めていた、という実験の話。僕達の意識というのは、動作に追随して後付される程度のものでしかない、という科学的証明の話。
 暗い話だ。ある作家はそれを逆手に取って、自らの意識をフィクション、物語であると語った。あらゆる物語は後付で語られる。「いま、ここ」の現実は、全く以て僕らの意識の範疇外に存在する。あらゆる現実は、全てが済んでしまった後に、ゼラチンが凝固するような具合でぽん、と言語に落とし込まれる。そうして、「僕」が生まれる。それは、僕ではない。故に、褒められる僕はいつだってフィクションだった。
 まあ、そんな唯脳論的なことを言っていても始まらない。これは映画ではない、僕というテキストの話である。
 僕は、とある男に声をかけられた。ひどい身なりをしていた。まるでスカイダイビングを楽しんでいたが、パラシュートが開かずにそのまま墜落してひどい目にあった、とでも言いたげな服装だ。
「おれは脱走してきたんだ」
 と、その男は言った。中途半端なヘリウムガスでも吸ったのような、甲高い声だった。
「どこからですか」
「決まってるだろう、留置所だよ」
 そう言って、彼は自分の手首を包み込む手錠を、僕にチラつかせてみせた。
「はあ」
「最近の警察は手錠の使い方も知らねえ。ところで俺の前科は三つあるんだが、一つでも当てられたらお前の願い事を叶えてやるよ」
「はあ」
 僕はこの男が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、そのひどい身なりを見ている内に可哀想になってきてしまって、結局その話に乗ることにした。
「ヒントは……」
「ヒント? 例えば、トロッコが走ってくるだろう」
「トロッコ」
「お前は分岐器の前に居る」
「分岐器」
「トロッコはそのまま直進したら、線路修復作業中の五人を轢き殺す。だが、お前は分岐器によってそのトロッコの進路をズラスことができるが、ズラした先にはお前の彼女が線路に括りつけられている」
「なんで」
「でも、お前は分岐器をズラす」
「なぜ」
「トロッコの両輪に巻かれて、彼女は死ぬ」
「どうして」
「どうしても何もない。それがヒントだ」
 男は不潔な前歯を晒しながら言った。僕はどうしようもない胸焼けを覚えた。
「殺し?」
「違う。もっと根源的なものだ」
「……盗み」
「違うよ」
「分からないよ」
 僕はあっさりと降参してみせた。だんだん、この男が心配になってきたからだ。だって、随分汚い身なりをしているし、警察から逃げてきたと言っている、こんな悠長に話している暇はないだろうに。
 すると男は不満そうに鼻を鳴らした。
「クソ、じゃあもっとヒントを与えてやるよ。彼女をお前は殺したことになるな」
「殺ってない」
「さっきの話の続きだ。五人を助ける代わりにお前は彼女を殺した。そしたら、お前はどうする?」
「泣く」
「泣く。そして?」
「……自責の念に苛まれる」
「その通り。で?」
「で……」
「簡単だろう。愛と、憎しみは不可分なんだ。愛と憎しみが、ちょうどテニスのラリーをするみたいな具合で、おれ達は笑ったり泣いたり怒ったり愉しんだりする。どっちが先にサーブしたのか知らんけどな」
「僕は、誰を憎む……」
「お前さん自身だよ」
 男の汚い右手の人差指が、僕の鼻先を指さした。僕はおずおずと頷いて、
「……一理ある」
「だからお前さん自身の手で決着をつけるんだよ。その、汚い両手でな」
 そう言って、男は僕の首を両手で掴んだ。予想外の行動に、僕はひえっ、と情けない声を上げてしまった。
 男はげらげらと笑った。
「お前は大した奴だぜ。誰にも褒められたことがない、誰にも貶されたことがない、ということに気がついている。だが、気をつけろよ。そういう奴は俺みたいになりやすい。だが、俺みたいに脱走することはできない。神様がいいぞって言うまで、人に踏まれ続けるんだ。お前はお前のものではないが、お前の身体はお前のものだ。忘れるなよ」
 僕はその出来事を、20分後に言語化できた。
 そして、男の正体を知った。だからといって、どうしようもなかった。
 僕は「僕」が嫌いだ。「僕」というソフトフェアにオペレートされる僕という存在も、嫌いだ。僕というハードウェアも嫌いだ。
 そういう時、フィクションたりうる僕は簡単に「それ」を実行できる。そのことを、あの男は教えてくれた。不可逆の可能性を大いに含むことも。
 ただ、今はあまりにも人が多すぎる頃合いだ。それは、今すべきことではない。
 愛と憎しみは不可分。僕達の営為は、彼らの織り成すラリー。どちらからサーブを切るのか。
 僕はどちらの側に立っているのか。どっちでもいいか。いま、僕は分岐器の前に立っているのだから。
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  1. 2015/08/13(木) 00:23:51|
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竜の眼差し(後編)

http://ncode.syosetu.com/n9282cs/)でも同内容を掲載。

 そういうわけで、俺はホーコとフタマさんと共に生まれ育った街エルージャを出ることになった。
 俺達はすぐに出る準備ができたが、割とこの街の行政に入り込んでいたフタマさんは、その引き継ぎやらがあるということで、一週間ほど待たされた。その間にすることと言ったら、ホーコが勝手に借りてきて延滞しまくっていた図書館の本の返却、……はまあ、いいとして、地元の冒険仲間(卒業してからはただの友達だが)に別れを告げることだった。連中はある程度手に職をつけて、家族ごっこみたいな家庭すら持っている奴も居たが、誰一人としてハンターなる職の存在は知らなかった。だから、俺がハンターになる、と言ったところで目を点にして、
「漫画の読み過ぎか?」
 と、訊いたものだった。それからさっさとハンターなる漫画じみた職には興味を失って、ホーコについて根掘り葉掘り訊いてくる。こういう奴らには、「親が秘宝と称して準備した許嫁」とか適当なことを説明しておいたが、桃色髪のミステリアスな(少なくとも外聞では)少女は、興味の的となるに決まっている。
 旅立ちの前日、飲みから帰った俺を出迎えたホーコは、今までずっと着ていた服を脱いで、バスローブなんぞを着てブランデーなんぞを飲んでいた。別段色っぽくも艶っぽくもないが、初めてそんな洋風かぶれな姿を見たので、俺は呆気にとられた。
「リアルだな」
「文明開化ってやつさ」
 ホーコはおどけたように言ったが、呂律が回っていないので却って真面目に見えた。
[竜の眼差し(後編)]の続きを読む
  1. 2015/06/25(木) 21:06:25|
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竜の眼差し(前編)

また短編を書きました。50枚を想定してたけど、出来上がったら100枚になりました。あたかも錬金術。
小説家になろうさん(http://ncode.syosetu.com/n9282cs/)にも掲載していますが、こちらにも載せるので、読んでくれる方はお好みの場所で。感想もお好みで。



 昔々あるところに、ひとりの青年がいた。俺である。
 昔々、と言っても別に今が特に昔なわけではないが、物語は基本的に過去形で語られるわけだから、確実に過去のものなわけで、昔というのも、「時間的にさかのぼった過去の一時期・一時点。時間の隔たりの多少は問わずに用いるが、多く、遠い過去をいう」と辞書では言っているので、昨日の出来事でも、一分前の出来事でも昔々である。
 俺はエルージャと呼ばれる一つの都市に育った。
 この世界が唐突にファンタジーと拮抗を始め、リアルとファンタジーという両陣営の狭間で生きることを余儀なくされてから半世紀、エルージャは比較的新興の都市であるから、伝統というものがない。伝統というのはファンタジーであるから、リアル陣営が勝っている何よりの証拠だ。ただ、別にどちらが勝てば良い、という価値判断を人間は持ち合わせていなくて、リアルが勝とうがファンタジーが勝とうが、大きな違いが出ることもないので、大して興味はない。
 そう思っていたわけだから、俺の一族にのみ伝わる秘宝というものがあると聞いた時は驚いた。そんなものはまるきりファンタジーであって、いわばファンタジーのゲリラであった。ゲリラファンタジーだった。その時、俺は15歳で、青年というよりは少年だった。
「なんだよ秘宝って! 聞いてないぞ!」
「いや……俺も最近知ったんだよな」
 親父はそう言って頭を掻く。「うちには代々受け継がれる秘宝があるってことになっているらしい」
「趨勢がファンタジーに傾いてるって本当なのかしらね」
 母親はもう若くもない顔を鏡に突き合わせ、化粧を施しながら言った。つまりまあ、ファンタジーのほうが優勢になってきてるということだ。
 親父も親父でこの件については本当にわからないようで、困ったように身体を揺らしながら、
「一応、お前が18歳になった時に引き継ぐ段取りになってるから……まあ、その時までに身体でも鍛えておけ」
「何それ、重いの」
「重いかも知れない。人と同じくらいの重さだと思うが」
 そりゃ大変だ、ということで、俺は高校に通って冒険部に入部して、それまでぬるま湯に使ってきた身体を鍛え直すことにした。
[竜の眼差し(前編)]の続きを読む
  1. 2015/06/24(水) 19:41:11|
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ひとりに佇む薄暮

昨日の夜、「即興小説トレーニング」(http://sokkyo-shosetsu.com/)で書いたものです。
制限時間は60分。お題は「穏やかな絵画 」。



 そのジジイは孤独だった。
 俺も孤独だったので、すぐさまシンパシーを覚えた。俺が中学二年生の頃だ。まあ、いわば厨二病だったわけで、それでも俺の孤独は一級品だった。なにせ、友達はおらず、グループにも所属せず、家族とはおざなりな挨拶だけしかかわさない人間だったからだ。そして、そういうオタク人間にありがちな、ネットでのコミュニティにも所属していない。大地震とかが来て、俺だけが瓦礫に閉じ込められても、きっと俺は助けを呼べない。だから、そういう時はひっそりと死んでいくんだ、とか思っていた。
 そういう病を抱え込んでいた俺に、そのジジイが会いに来た。もちろん、あのジジイにそんな意思は無かっただろうし、俺も素直に会ってやる気持ちなんて無かった。
 土曜日の午前中、両親不在のうちの庭に、そのジジイが唐突にのそのそと入り込んできたのだ。それから、脇に抱えていたカンバスを置き、その正面に木製の折りたたみ椅子を開き、恐る恐るという風に座り込むと、画材を取り出して絵を書き始めた。
 あのじいさん、頭がおかしい。俺はすぐにそう判断した。けれども、何もしなかった。俺は孤立無援の一匹狼であって、噛み付いた相手が猛獣であったらひとたまりもないクソザコ狼である。喧嘩にふさわしい体力とか地位があったら、すぐさま噛み付きに行っただろうが、俺は精神的にもぼっちだったから、部屋にたてこもってそのジジイを観察していた。
 俺は絵を描くことに知識がなかったから、そのジジイの手つきがすごいのかヘタなのかよく分からなかった。ただ、一点の迷いなく、点線をなぞるように描いていく流暢な手つきはやけに目に残った。そのジジイはうちの庭にない風景をカンバスに描きつけていた。真っ暗な夜の町並みを、遠くの高台から眺めているような構図で、上には流れ星のように幾多もの黄色い線が引かれていた。俺は小学生の時に買ってもらった双眼鏡から目を離して、その絵の難解さに首を傾げた。
 そのジジイはうちの親が居ない日に、毎回来た。きっと、大人二人でこの家に住んでいると、あのジジイは思っているに違いない。俺はじっと、双眼鏡越しにジジイの絵を眺めていた。ジジイはたまに物思いに耽るように、ぼーっと遠方を眺めて、それから不意にスイッチが入ったように筆を動かし始める。夜の町並みがカンバスに出現する。夜空には赤い線が引かれる。或いは青い線が引かれる。それか、黄色い線が引かれる。だいたいその3色のローテーション。
 あまりにも親の不在を周到に狙って現れるものだから、俺は必然的にジジイに漂う孤独を嗅ぎとった。あれは、ひとりぼっちなのだ。俺とおんなじように。
 だから、俺もその孤独を模倣し始めた。絵を描き始めたのだ。夜の町並み、そして上空に迸る黄色い線。何なんだろう、これは。よくわからないが、描く。こうすることで、俺は更に孤独の深みに入り込んでいけるような気がした。孤独に耽って、それからどうしようなどとは考えていない。俺は厨二病だったから、孤独の味を知ってみたかったのだ。それからというもの、俺とジジイのコミュニケーションは一方的に、カンバスを通して行われた。
 中学三年生になった。俺の模写は相当上手くなっていて、ほとんどあのジジイの筆致に劣るところは無かったと思う。というか、あのジジイは絵心の欠片もなかったものだから、中坊である俺にも用意にトレースができたんだろう。
 俺はこの絵画の持つ意味を読み取ろうとしていた。他人の家の庭を訪れて、一日一枚、同じような絵を書いていくのだから、それなりに意味があるに決まっている。暗い町並みの上空に光る、赤、青、黄の筋。ジジイの、この光の筋の書き方は綿密で、毎回淀みがない。まるで、そうと決まっているものを当たり前のように出力しているような。
 フラッシュバック、という単語を知ったその日、俺は遂に合点がいった。
 あのジジイは、空襲に遭ったことがあるんじゃないかと。あの光の筋は曳光弾だったり、焼夷弾だったり、或いは原子爆弾だったりするんじゃないかと。そのトラウマが網膜に張り付いて離れず、その光景を、ひたすらカンバスにぶちまけているんじゃないか、と。
 俺は模倣を続ける。暗い町並みに、死の臭いが漂い始める。空には、無数の爆撃機が、無数の投擲された火薬が、ぷかぷかと浮かんでいる。爆弾は、永遠に街へ落ちることがない。そこに住む人々を、睥睨し、監視し続ける。
 次に俺が思い至ったのは、どうしてうちの庭でそんな風景を再生するんだろうか、という問題。
 うちの家の歴史など知らないから、ここら辺が空襲で焼けたことがあるかなんて、知らなかった。俺は図書館に行ってこの土地の歴史を調べてみたが、空襲にあったような記述はなかった。それとなく親に訊いたが、土地自体に問題があるわけでも無い。そこで俺は学校から帰って、家に入る前にいつもジジイが居座る場所に立ってみた。なんてことはなく、塀越しに近所の風景が見えるだけだった。
 ジジイがまた庭に来た。今日こそ、今すぐ庭へ出て行って、どうしてうちの庭なのか、訊いてみようじゃないか、と思ったが、どうしても足が動かなかった。ただ手だけが動き、今日も同じ絵を模写し続ける。
 ……親に進路のことを訊かれて適当な公立高校の名前を挙げた頃から、そのジジイは庭に来なくなった。大体、月に二回程度で来ていたに過ぎないから、その間隔が広まっただけかと思っていたが、俺が高校に合格するまでついぞ、そのジジイは現れなかったから、その後もうちの庭を訪れることはなかったんだろう。
 俺は俗に言う高校デビューを果たした。勇気を出したらクラスでは友達ができ、美術部に入ることによって活動すべきグループが生まれた。そこで1から絵の書き方を学んで、あのジジイが相当ハチャメチャな筆致をしていたことを思い知る。街を描くことと、流線を綺麗に描けることが取り柄の普通の美術部員として、二年間を過ごした。
 野心が働いて、三年目の最後のコンクールに出店する作品を、例のジジイが描いていた絵画にしてみた。俺は中学時代の絵を引っ張りだして、それを今の俺の技術を以ってして、カンバスに模写してみせた。まあ、それはパクリなのであって、あのジジイがあの暗い街並みの絵をどこかに出品していたのなら問題になるだろうが、そのことによってジジイと会うことができるのなら、それはそれでいい気がしたから。
 出来上がった暗い街並みと、黄色の筋は、どこか穏やかだった。なんというか、ここに帰ってくるために、俺は高校生活を送っていたんじゃないかと思える、ふるさとのような絵画が出来上がった。
「コンクールに出すやつ、出来上がったぞ」
 そう言って、俺は部員たちにその絵画を見せた。すると、誰もがビクリと身を震わせてこの絵を眺めた後、恐る恐る俺の方を見て、言うのだ。
「なんだよ、コレ……」
「なにコレ……」
「なんですか、コレ……」
「何をモチーフにするかは個人の自由だが」
 顧問は困った顔で俺の絵を見て、「何なんだ、これは一体」
 困惑の嵐をくぐり抜けた俺は、うちへ帰る道すがら、あのジジイのことを思い出していた。あのジジイは、確かに孤独だった。だから、孤独だった俺はあのジジイを身近に感じることが出来たんだ。シンパシーを抱くことができたんだ。
 でもそれは思い違いだった。中学生の時の俺は、孤独なんかじゃなかった。だって、ジジイと一緒に居たじゃないか。ずっと一緒に絵を描いてきた。でも、今の俺は違う。ジジイを失って、本当に孤独になっちまった。あの絵が本当に俺のルーツだとしても、あれを見たところで誰も共感なんかしてくれない。誰も、俺の描いた絵を見ようとはしてくれない……。
 唐突に、孤独の冷たさを喉元に突きつけられたようで、寒気がした。
 学校を出る頃は薄暮だった空も、今では暗い色に沈んでいる。近所の町並みも、等しく闇に溶けている。その上空に飛び散る星の群れ。そこを、赤い光を放つ飛行機が通り過ぎて行く。遠くに一筋、光線が宇宙へと伸びていく。
 そんな、本物の孤独の前に俺は立ち竦んでしまった。
  1. 2015/06/21(日) 12:14:18|
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そう遠くない未来の話

久々に短編を書きました。
小説家になろうさんの方にも掲載してて、こっちのほうがSFぽくルビ振ってあるので、こっちでみるのがオススメです(一応、こっちにも全文掲載しますが)
http://ncode.syosetu.com/n4833cr/



 バズる、という単語がある。ネットとかSNSで、ある事柄とか物事が爆発的に話題になることを表す言葉だが、元となった「buzz」という単語は本来、虫とかが飛び回るぶんぶん言う音のことを示していた。つまりまあ、虫とかが集まってわんわんと唸るのと同じように、人々がわんわん騒ぎ立てるという、比喩のことだったわけだ。その言葉が出回り始めた当初、ネットでは文字が使われていたのだから、実際にそんな騒がしいはずがないのだから。
 でも、それはずうっと昔の話だ。石油が枯渇するとかしないとか、あと20年で尽きると思っていたらあと25年分ありました、良かったね、みたいなことを繰り返していた時代は、歴史の教科書でも一瞬で通りすぎてしまうほど短い。政治的には色々とあったんだろうけれども、百年単位で見てしまえば大したことのない時代だ。
 いまはどうかというと、本当に「バズ」る。何かがネットで話題になると、本当に耳がざわつくような……いや、全身の五感がそわそわするような騒々しさを体感する。抽象的でわかりにくいかもしれないが、実際にこれは抽象的な問題なのだ。というのも、ぼくたちを取り巻くソーシャルネットワークは大きく前進して、「感覚」をシェアすることができてしまったのだ。つまり、言葉とかのあらゆる表現用メディアを使わなくても、ぽあっ、と他人の感情が流れこんでくる。その「気分」を読み取ってこちらも「気分」として受け取ることができ、ぼくたちは文字や画像や音を用いずにコミュニケーションが取れるようになった。
 これが「Dexy」と呼ばれる、最新のSNSの名称だ。口にするときはデキシーと読む。
 そういうわけで、ぼくの自己紹介に移ろう。ぼくはテキストコンバータと呼ばれる職に就いている。全世界で文字を頻繁に読むと答えた人口が、昨年とうとう0.1%を切ったらしいが、ぼくはその貴重な0.1%のうちの一人だ。そう、誰もが「感覚」と「言葉」だけで過ごせるようになったので、文字というものの利用価値はすっかり低下してしまったのだ。ほぼ、思ったら即伝えたいことが相手に伝わるインフラが出来てしまった現在に於いて、写真ですらも読み取ることが面倒なメディアになってしまった。写真ですらそうであるのだから、文字を読みその意味内容と連なりから、文章描写が何を示しているのかを汲み取るなんて、面倒くさいにも程があるだろう。
 でも、やっぱり何かを創造するのに文字というものは欠かせないし(これは他の表現手段についても言えるけど)、義務教育でも習うものだから興味を持って文字に親しみ続ける人は居る。ぼくだってそうだし、ぼくの担当する教授だってそうだ。でも、そうじゃない人達は文字を全然読もうとしない。学校では流石にずっと文字ベースで過ごしているが、卒業してしまえば看板の文字とか、案内板、値札とかが読めればすべて事足りるのだ。面と向かっていれば声に出して交流できればいいし、離れていてもDexyで一瞬にして会話できる。対面していてもDexyで話すという人達も居るくらいで、こういう人達はデキシー廃人、デキ廃とか呼ばれたりする。
 それでも、そういう人達の中でも読書を趣味にしたい人がいるわけだ。だが、今の御時世で文字を使って本を書く人なんて、本当の本当に狂気じみたようにあらゆる古典を読み尽くし、レベルの高すぎる事を書く人しか居ないし、それを好んで読むのだって一握り(ぼくみたいなの)しかいない。文字に親しくないけど教養として何かを読みたいという人達にとっては、昔のライトノベルと言われたものすら読むのは大変らしいから(何しろ時代が違いすぎるし)、まあ文字を読む人は減っていく。若者の読書離れどこか、人間の読書離れというわけだ。
 そこでぼくみたいなテクストコンバータの出番なわけで、教授の書いたいかめしい論文とか、昔に出版された物語なんかを、いまの人達にでもわかりやすく書きなおして提供するのだ。一定のニーズがあるから、わりと安定した職業とも言われているが、なにぶんスキルが求められるので人数は少ない。ぼくは本の虫だったし、作家も目指していたからある程度文章は書けた。まさにうってつけだというわけで、この天職を全うしている。
[そう遠くない未来の話]の続きを読む
  1. 2015/05/20(水) 22:20:23|
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悪人笑気説

大昔に書いて、どっかに投稿する予定だった短編の存在をすっかり忘れていたので、掲載します。



 石留は自他共に認める、悪人だ。
 自他共に、とは言っても「他」の方に含まれるのは姉の秀子だけだった。その他には両親は勿論友人もいない。この身寄りの少なさが更に「悪人」という属性をリアルにしてみせるのだが、もちろんそれを誇って議員バッヂの様に扱っているわけではなく、ある意味職人に似たような響きで以って、慎ましくその言葉を使うのだった。
 石留の朝は大して早くない。昼過ぎに起きてきて、ぼけっとして過ごす。睡眠時間が異常に長いのは、それほど活動しなくても生きていけるからで、平均十二時間は眠っている。長く睡眠を取り過ぎても身体に悪い、という研究もあるらしいが、それが本当かどうか確かめてやろう、くらいの気負いで毎日いびきも忘れて眠っている。
 ようやく起きて居間に向かうと、姉の秀子も欠伸をしながらトースターの前に佇んでいた。彼女は石留と違って真っ当な社会人である。フリーランスのイラストレイターとして朝も夜もない生活を送っているので、たまにこうして起床の時間がかぶったりした。
「おはよう」
「おはよう。これ食べたら、すぐ出るから」
 姉弟二人暮らしをずっと続けてきたのだから、これくらいの会話だって大分充実しているほうだ。果たして挨拶をきちんとする姉弟が全国にどれほどいるものか。『行けたら行く!』と言って本当に来る人間ほどの希少さがあるんじゃないか。石留はそんな風に思いながら、焼きたてのトースターを受け取るとそのまま咥えた。
 秀子はさっさとトースターをたいらげると、出かけて行ってしまった。石留はちぎったパンの欠片をのんびりとひとつひとつ飲み込む。身内贔屓というわけではなく、おそらく一般的に見て秀子は美人だと思う。それも、服装や髪型に左右されることのない、石留の思うところの本質的な美しさを持っている。絵も上手い。アニメ等のポップなイラストを専門としているが、そこにもどこか美しさが内在している。なんというか、美に愛された人だな、と石留は決して口にはしないが、そう姉のことを評価していた。
 美人と悪人。……なんとなく、その取り合わせにも美学を感じてしまう。
 石留は十七時過ぎになって、少しだけ高価なスーツを着こみ、中身の入っていない黒地の鞄を持ち、特注の革靴を履き、最新のiPhoneをポケットに入れて、家を出た。仕事だ。
[悪人笑気説]の続きを読む
  1. 2015/03/25(水) 23:36:26|
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【小説】嘘と恋のデジタル数値 8(2)

 瑠子があまり嘘部に与していることを知られたくないと言ったので、来楽奈は人に見られにくい部室への行き方を伝授してくれた。嘘部部室の向かい側が空き部屋なので、そこにある外に通じる扉から入れば良いという。その外扉は校舎の裏側に位置しているので、他の生徒に見られにくいらしい。嘘部室は校舎の端っこにあるため、校庭側から回りこんでいけば他の部室にいる生徒からも目撃されない。
「でも……向かいが空き部屋なら、そこに移ればいいじゃねえか」
 彼は部室のドアを後ろ手で閉めながら言った。女子二人は既に座敷に腰を下ろしている。
「嘘部は昔からこの部室を使ってたの。それに、うちは部活として存在するけど、あまり活躍していない分、正規な部室を手に入れたら却って教師陣に目をつけられるわ。波風立てないためには、ここで我慢するのが最善なの」
 来楽奈は滔々と説明した。
「なるほどな。あ、そうだ、こいつを借りっぱなしだったんだ、返しておくぞ」
 彼はファインダーを取り出すと、円卓の上に置いた。それを見て来楽奈が目を細める。
「持って帰ったの?」
「あぁ。色々と試したかったからな」
「……別に良いけど、絶っ対になくさないでよ。凄い値段するんだから、それ。もし壊したり失くしたら弁償してもらうから」
「……分かったよ」
 彼が頬を強張らせて返事をしたところで、会話に瑠子が入ってきた。
「あの……それって、何ですか?」
「そうね……、いちから説明していきましょう」
 来楽奈は瑠子に、今の嘘部の現状について話した。廃部寸前とその挽回方法、大士戸高校との公式練習試合のこと、そのルール、使用される嘘発見器──。
「え、えっと、その嘘発見器……、ファインダーって呼んでるんですか?」
 瑠子は嘘発見器のくだりで首をかしげた。来楽奈は意外そうな顔をして言った。
「私の中ではね」
「えと……、嘘発見器を英語でポリグラフって言うんじゃ……」
「……そのくらい知ってるわ。でも、ファインダーって言った方が……、語呂が良いでしょ?」
「ご、ごろ……ですか……、でも、カメラでピントを合わせるのに使うのもファインダーですよね……、ご、ごっちゃになりませんか?」
「…………じゃあ、あんたはポリグラフって呼べばいいじゃない」
「ええっ、わ、わたしだけですかっ?」
 おどおどする瑠子。来楽奈はそれ以上、ファインダーについての話が発展しないようにか、口をつぐんで黙りこんだ。──知識で瑠子に上回られたのが悔しかったのか。
(大宮って、嘘を吐く以外は割と普通の女子だよな……、普通っていうのは、いたずらに頭がキレまくるわけでもなければ、相手を貶める冷徹なことをしようとしないっていうことで……、ごく普通の女子高生って感じだ)
 二人を観察しながら彼は思った。嘘部という単語を聞いて、畏怖するような態度をとった新島や明瞭な拒絶な意思を見せた夕子たちは、こんな彼女の姿を見たことがあるのだろうか。嘘部という、世間から白眼視されがちなレッテルが、来楽奈の勝手なイメージを作り上げているのではないか。
(ま、それはそれでいいけどな)
「あと、最後になるけど、基本的なルールを教えておくわ。部則みたいなものね。柏座君もちゃんと聞くのよ」
 来楽奈が気を取り直すように言った。
「今後、嘘部の活動の一環で、部外者に嘘を吐くことになるかも知れないわ」
「……そんなことするのか?」
 試合のことを第一に考えていた彼は思わず問うた。
「仮定の話よ。現時点ではその可能性はほとんど無いわ。これは、嘘部創設以来のお決まりごとなの。だから平田さんはともかく、部員のあんたはきちんと頭に叩きこんで欲しいの」
「なるほどな」
「その部則っていうのは、もし誰かが誰かに嘘を吐いたとして、嘘を吐いた方か吐かれた方に甚大な損失が出るような場合は、素直に謝ること。『ごめんなさい』ってね」
「甚大な損失って具体的になんだよ」
「それは各自で判断してよね。嘘部はただでさえいっぱいいっぱいなんだから、部員それぞれの責任を負いきれないの。もちろん、軽めの嘘は嘘部の名前で帳消しになるけど、人間関係が壊れたりするようなものはダメよ、素直に謝って」
 淡々と語る来楽奈を見てると、彼はどうも彼女が謝罪というものをする光景が思い浮かばなかった。
「お前は、する予定は無さそうだな」
「……まぁね。実際、嘘部の権威は落ちるところまで落ちてるから。それはあんたも身を以て知ったでしょ?」
 来楽奈は彼に向かって言いながら、横目と瑠子の方を見た。彼が瑠子に嘘部の勧誘をした時、瑠子が全力疾走で拒否したことを言っているのだろう。瑠子はその視線に狼狽えたようで、慌てて弁明した。
「ち、違いますよぉ……、さ、最初から、嘘部がそこまでひどくない部活って知ってれば、そ、そんなことしませんでしたよぉ……」
「別に責める気はないわ。あなたのあの時の反応は、この学校の全校生徒の気持ちを代弁したようなものだから」
(俺が嘘部にはいったことを知っていた奴らは、全員関わりを絶つように奨めてきた。……それは、大宮が半年くらい前に手酷い嘘を学校中の生徒に吐きまくったからだ。何でそんなことをしたのか、こいつに後で問い質しておく必要がありそうだな。それはそれで良いとして、だな……)
「要するに、吐いた嘘が度を越したと思ったら、謝れって話だろ?」
 彼はぶっきらぼうな口調で話を戻した。
「俺は謝るつもりはないぞ。そもそも、部活外の人間に嘘を吐くつもりなんざ無いからな」
「それもひとつのスタンスだと思うけど……、くれぐれもあんたの責任でやってよね」
 来楽奈は彼の言葉を受け流すように言った。
「さて、じゃあ早速練習に入りましょう。これが平田さんの分のファインダーよ」
「あ、ありがとうございます……、あの、やっぱ、ファインダーって呼び続けるんですね……」
「……」
「ご、ごめんなさいっ……、そ、それもひとつのスタンスですよね……、すみません……」
(瑠子のヤツ、早くも大宮をいじってる……。こういうのを意図せずにやってるんだから、恐ろしい奴だな)
 その日行ったゲームは大富豪だった。弱いカードから順に捨てていき、最も速く手札を無くした者が勝利となるものだが、もちろんルールは嘘部仕様、ファインダーが表示する数字が最も低い者が勝ち。
 彼は自分の手首に装置を付けながら考えた。
(……こいつのことを、ファインダーと呼ぶべきか、ポリグラフと呼ぶべきか……、いっそのこと俺オリジナルを作るのもいいかもな。……ライディテクターとかか?)

 数十分後に、彼は愕然とした呟いた。
「…………………負けた」
 決着は着いた。もちろん、一位は来楽奈だったが、彼は今日入ったばかりの瑠子にも敗北を喫してしまったのだ。
(……本当に俺は動揺しやすいな、クソ……っつても、相手も相手で卑怯だろ、あれは……)
 例えば、一度彼が富豪になり、来楽奈が貧民となった。貧民は一枚、富豪に手持ちで最強のカードを与える必要があるのだが、彼女が渡してきたのはハートの6だった。
「おい! これは嘘だろ!」
「……そういえば、あんたが大富豪だったんだっけ」
 来楽奈はしれっとそう言って、さっさと彼にあげたハートの6を取り上げて、乱雑に渡してきたカードはジョーカーだった。
(あそこまでルールをガン無視してくるとは……、そんな可能性想定できるかよ!)
 瑠子も瑠子で、全く手の内が読めなかった。というのは、ずっと例の自信が無さそうな落ち着かない様子でいるからである。いかに強い手を持っていようと、どんな勝負の局面であろうと、その様子が変わらない。だから、余計に驚くのだ。
 そんな風にしてどんどん数字に差が開いていくを見ていっそう動揺し、それが更に数値の上昇を助長していく。
 結果、彼はボロ負けした。罰ゲームは部屋の片付け。前回と同じように、彼は女子二人が残していった散らばったカード、嘘発見器、開きっぱなしのノートパソコン──それらを一人で片付けるハメになった。今日は、ファインダーを持ち帰る気になれなかった。適度に片づけが済んだと思い、彼は部室を出た。
「……おう」
 廊下に出た彼は思わず声を上げた。その声に反応して振り向いたのは、軽音部の横須賀文だった。
「またお前か」
「そりゃこっちのセリフだ。今日はギターなんて背負ってどうしたんだ」
 彼は文の背中にある黒いケースを指さした。文は無愛想な声で応えた。
「これから音楽室で練習だ。……一人だけだがな、金がかからないだけマシだ」
「ふぅん。大変だな」
「他人ごとのように言うが……、正直言って、うちの部活よりもお前の部活の方が大変だろう」
「まぁな。次の公式戦で勝てばこの部もめでたく存続だが、負けたら……、あの部屋が空くことになる」
「公式戦だと?」
 文は眉をひそめて言った。
「あぁ。相手ももう決まってる……が、どうかしたか?」
「……いや。それで、その公式戦、お前も出るのか?」
「当たり前だ。その為に、勧誘されたようなもんだしな」
「……」
 文は横を向いて不自然に黙った。彼はその微妙な表情に嫌な感覚を抱き、なんとか問い質そうとする。
「な、何でそこで黙るんだよ。何かあるなら言えよ」
「……気をつけろ。嘘部がターゲットにした相手は完全に無差別だった。中にはひどく恨みを持ってる奴も居るはずだ。……連中がもしどこかで、嘘部復活の話を聞きつけたら……、お前の身が危なくなるかもしれない」
「……脅しか?」
 文の真に迫る口調と表情に彼は戸惑った。
「脅しじゃない。警告だ。くれぐれも気をつけろよ」
 文はそれだけ告げて、去っていった。彼はその背中を睨むようにしばらく見ていたが、やがていつの間にか入っていた肩の力を抜いて、真向かいの空き部屋に入った。中を通り抜けて、窓側の壁に取り付けられている外への扉を開く。
 校舎の裏側を出てすぐ、彼の目に瑠子の姿が映った。
「待ってたのか」
「……う、うん……、だって、……来楽奈先輩が待っててもいいって言うから……」
「なるほどね。じゃあ、帰るとするか」
 彼はのんびりと言って、瑠子と一緒に帰路についた。──文が言った警告は、彼の頭の隅でまだ点滅をしていたが、家に着く頃にはすっかり消えてしまった。

 基本的に嘘部の活動は毎日だった。来る試合の日は6月の中旬、その日までにできることはやっておかなければならない。もちろん、やっていることは部室にこもっての心理戦で、外に繰り出して嘘を吐いたりはしていない。純粋に、トランプでのゲームでの騙し合い。ちなみに瑠子は、合唱部の活動がないとき、嘘部の方に参加した。
 来楽奈は動揺が極めて少ない。彼がどんな手で攻めたところで、眉一つ動かさない。表情はもちろん、ファインダーが感知した動揺値もほとんど動かない。そして、時たま行う奇抜な行動。あるときは完全にゲームのルールを無視してまで、数字を稼いでくる。攻撃しても手応えが全く無く、隙を見せるとどこからともなく襲い掛かってくるのだ。 
瑠子は凄まじい道化をする。外を見ると常時ひどく狼狽えたような様を見せるのだが、ファインダーが表した数値はほとんど動きがない。この現象については来楽奈がこう解説した。
「この装置が感知するのは、身体の状態の変化なの。つまり、一気に血流が速くなったり体温が上がったりすると、大きく数値が変化するけど、いつでも緊張したような状態だと、数値はあまり変わらないの」
 平静の状態から興奮したり、逆に興奮が冷めてきたりすると、その感情の起伏を単純に数値化する。だから、瑠子の常時不安定な様子はコストの要らないカモフラージュとなっているのだ。瑠子と対峙すると、全くその手が読めなくて困る。来楽奈は鉄壁の無表情だが、瑠子はまるで濁った水面を見ているように底が見えない。カマをかけても嘘を吐いても、効果があるのかが解らない。
 ──この二人を前にして、彼は翻弄されてばかりだった。
(……今日も負けた。昨日も負けた。一昨日も負けた。一昨昨日も負けた。というか、勝てた記憶が無い…………ぐうううううう、ぐうの音しか出ないぞ、くそったれ……)
 競馬で負けた呑んだくれのような気分で、彼は一人で帰り道を歩いていた。青空に真っ黒なフィルムをかけたような空が真上に広がっている。今日は、もう梅雨の季節だというのに、清々しいほどの晴天だった。さっきまで鮮やかな橙の光を届けていた夕日は沈みかけている。
(嘘部に入部してから一週間半程度か。俺の実力で、どこまで大士戸とどこまでやりあえるんだか……つっても、俺は別に嘘を吐きたいが為にこの部活に入ったワケじゃないからな、そりゃ、嘘が下手くそでも仕方がない。むしろ、あんな上手くやってる瑠子がおかしいだけで……)
 彼はふと立ち止まって、空を見上げた。
(……俺は、何の為に嘘部に入ったと言ったっけ? 自分のため……って本当にそうなのか? ……ただ、大宮来楽奈という奴に惹かれて、たったそれだけの理由で、自分のためとか、何のためとか関係なしに入ったんじゃないのか? 目の前にニンジンをぶら下げられた馬みたいに、何も考えずに、あいつの目の前に、傍らに立ちたいがためだけに、プライドを捨ててまで……ん、プライド? 俺にプライドなんてあるのか……、誰に見せるための?)
 疑問が渦となって音を立てているようだった。こんな脳内禅問答をいつしか、したことがあった。あれは、横坂夕子に恋人ができたという話を新島とした時──、来楽奈を『初めて』目撃する直前だ。
 来楽奈は、彼が思い描いた理想像にぴったり重なる女子だった。だからこそ、彼女を尾行した。嘘を吐かれたことも知らずに違う教室に直行して、そんな手酷い嘘を吐かれても彼は全く憤慨を感じなかった。そればかりか、再会を喜んでいた。
(大宮がいれば、嘘部じゃなくても良かったんだ。だから……、俺は悪くはない。…………でも、悔しいよな……、こんなダサイ姿ばっかりあいつに見せて……って、何を考えて……、いや……、でも、少しばかり良い恰好見せたいよな……、あいつの、絶対の信頼の視線が……、欲しいよな)
 あの無愛想な少女が、自分に期待の眼差しを向けている。想像するだけで、彼は気力が湧いてくるような気がした。止めていた足をまた動かし始める。
(でも……、大宮って、普通に美人だよな。何しろ、この俺が突き動かされるレベルだぞ。男なら、誰だってそう認識する筈だな。……もしかしたら、彼氏なんて普通に居るのかもしれないな。この学校じゃ無理だろうが、外部かどっかにでも……)
 そんな風に考えていた彼の目の前に、立ちふさがる人影があった。
  1. 2013/01/02(水) 22:05:24|
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【小説】嘘と恋のデジタル数値 7(2)

(……だとしたら、引っ掛けるしかないか)
 彼は上がった息を整えてから、騒音にならない程度の声で叫んだ。
「あっれ、ここで曲がったんじゃないのか」
 そして、足音を立てて角を曲がり、道から見えない位置で立ち止まって壁に背中から張り付いた。単純に、気付かずに行ったふりをしたのだ。二分ほどすると、行き止まりの道の方から人の気配がした。彼は息をひそめてその気配が寄ってくるのを待つ。
 やがて、ひょっこりと瑠子が角から姿を現した。すぐに彼の姿を認めて、愕然とする。
「よう、どこ行ってたんだ」
 彼がそう言うと同時に、また瑠子は駆け出した。
(なんでまた行き止まりの方に入っちゃうかね……、まあ、あいつらしいっちゃあいつらしいな)
 瑠子を追って行き止まりの道に入ると、彼は律儀に彼女の背中を追った。自然と、行き止まりへ追いつめることになる。瑠子は行き止まりを背に、悲嘆に暮れた顔を彼に向けた。
「何で逃げたんだよ」
 彼は声をかけた。瑠子は自分を殺そうとする殺し屋に命乞いするように応えた。
「だ、だって、……嘘部に入れって、とーたが言うから……」
「……やっぱり嫌だったのか。それなら、そうと言えば良かったじゃねえか」
「ぜ、絶対に強引にいれられると思ったんだもん……、でも絶対に嘘部なんて入りたく、なかったから……」
(こいつが全力でダッシュするほど、強烈に拒絶を示したのは初めて見た……、よほど入りたくないのか……)
 彼は、さっきの来楽奈の言葉を思い出す。『嘘部が、どんな目で見られているのか』。だから、来楽奈は確認してきたのだ。本当に彼が嘘部に入るのかどうか。あの質問は新島や夕子が示したような典型的な嘘部に対する軽蔑のまなざしに、耐えるだけの覚悟があるかどうかを確認したかったのだ。
(でも、俺にしたらそんな人様の意見なんざどうでもいい。大宮がたまたま居た部活に俺が入った……それだけだ。でも……こいつはそうはいかない)
 彼は泣き出しそうな瑠子の顔を見て思った。彼女が、それに耐えられるかどうか。
(いや……逆に考えろ。入ってやりたくなるような言葉をつきつけるんだ。悪い局面でアピールなんかできないからな……)
「何で、そんなに嘘部を拒むんだよ。なんか噂でも聞いたのか?」
「え……、だって、嘘を吐くんでしょ? 嘘を吐いて人を困らせるのが目的の部活なんでしょ……? そ、そんな部活……入りたいなんて思わないよ……」
「人を困らせる、ねえ。そいつは違うぞ」
「……そうなの?」
 瑠子は言った。どうやら話を聞いてくれるらしい、彼は安堵した。
「あそこが磨いてるのは、自分が騙されないようにするための技術なんだよ。人を困らせるためじゃない、自分が困らないようにするんだ。お前が思ってる嘘部のイメージは全くの誤解で、それがすっかり学校に浸透してる。そのおかげで嘘部は廃部寸前で、部長はただならない思いをしてる。わかるか?」
「……」
「なんとか自分が青春を捧げてる部活を存続させようと必死で頑張ってるんだ。嘘部が廃部にならないためには、次の公式戦で勝たなきゃいけないことになってる。でも、その公式戦に出るために三人必要なんだ。だが、今の嘘部は俺と部長しかいない。一人足りないんだ。このままじゃ、部長の努力も虚しいまま廃部になっちまう。だから、その空き枠に、お前に入ってほしい」
「で、でも……」
「周りの目のことならなら大丈夫だ。誰も口外しなければわかりっこない。活動もおもに部室でやるから、目撃されることもないしな。そのあたりは、うまく立ち回れば平気だ。……どうだ、協力してくれるか?」
「えぇ…………、うぅ……」
 瑠子はせわしなく視線を泳がせていた。それでも逃げ出そうとする気配はない。今、ここで答えを出そうと考えあぐねているのだ。彼は言いたかったことを言い尽くしてしまったので、ただ、その答えを待つほか無かった。
「えっと……、その……」
 やがて瑠子は何か言いたげに、だがその先がつながらないかのように言った。
「何だ?」
「あの……、け、兼部でも大丈夫なら……」
「兼部? お前、どっか部活入ってたか?」
「…………うんと、合唱部に……」
 恥ずかしそうに瑠子はぼそりと言ったのを聞いて、彼は内心愕然とした。
(が、合唱……だと、こいつが……? 似合わない……なんて、このタイミングで言うのは絶対ダメだ、そういうのは後回しだ……)
「こちとら、兼部云々でとやかく言える状況でもねえ。平気だ」
 実際のところはどうだか知らないが、彼は断言した。
「な、なら……、……わ、わたしで良ければ……」
 瑠子はおずおずと、頷いてくれた。
(……まったく、お人好しだな。昔っから変わらない。ここまで素直だと、それを利用しただなんて思いたくないな……、実際そうなんだけどさ)
「そうか、ありがとな。もしも、キツくなったりマズくなったりしたら言えよ」
 そんな罪悪感を拭うように、彼は言った。瑠子は悪戯を許された子供のように、表情を和らげる。彼も釣られて安堵したが、すぐに校門のところで瑠子に逃げられた後、来楽奈に遭遇していたのを思い出した。
「えーっと、お前、今日は大丈夫か? できれば、これからまた学校に戻って手続きをして欲しいんだが……」
「…………うん、大丈夫、だよ……」
「……無理してないよな」
「し、してないよ! これから暇、だよ」
(……本当にコイツを嘘部に引き入れて大丈夫なのか……、なんて考えるのは今更遅いか……)
 二人は学校への道を引き返し始めた。どんな雑談をすれば良いのか彼は迷ったが、その前に瑠子の方から話しかけてきた。
「あのさ……、とーた、変わったよね」
「あぁ?」
 途方もなく意外な言葉だったので、彼は大きな疑問符を浮かべた。
「あっと……、だって……とーたって前から、他人にすごい無関心だったのに……、人のために嫌われてる部活に入るなんて……すごいね」
 照れるような笑顔で瑠子は言う。その純粋な表情に彼は思わずその笑顔から目を逸らした。
(……どっか勘違いしてるぞ。俺は一度も、大宮のために部活に入ったなんて言ってない……自分のためなんだがな……。まぁ、さっきこいつに言った内容を考えれば、そう勘違いしても無理はないか……)
「……あいつと俺の利害が一致しただけだよ。俺は別段、人助けのために入ったわけじゃないぞ」
「りがい? 人助けのためじゃないの……?」
「ああ。まぁ、お前は助っ人って感じだから、人助けでいいが……、俺の場合はちと違う。ま、いつか分かるだろ」
 彼は肝心なところをぼかして言った。瑠子はまるきり信じたのか、こくりと頷いてそれ以上言及して来なかった。
「それにしても」
 彼は話題を変えるべく言った。
「この辺の住宅街を見ると、昔を思い出すな」
「……うーん、わたしたちのほうが、もっと家の形は古かったと思うけど……、そうだね。懐かしい」
 彼らが小学生の頃は、ちょうど家庭用ゲーム機が普及し始めて、外で遊ぶ子供が減りつつある時代だった。だが、彼の幼馴染たちはバリバリのアウトドア好きで、しょっちゅう集まっては遊び歩いた。幼馴染たちといっても割と大きなグループになっていて、学年も関係なく男女合わせて十人を越していた。もちろん、毎回遊ぶ際は全員出席、なんてことはない。今考えると、柔軟に遊び回っていたものだ。
 彼と瑠子の縁もその頃からのものである。
「な、なんか、あれくらいはしゃいでたわたしたちは珍しいみたいだね……、周りの友達は女の子とかだけで固まって、家でばっか過ごしてた人も多いんだって。わたしが男の子と平気で話せるのもよくびっくりされるし……」
「ま、お前が割と社交的っていうのもびっくりされそうなもんだけどな」
「そ、そんな社交的じゃないよっ。で、でもそこまで人が苦手なふうに見えるかな……」
「口調が安定してないからな……おどおどしてるような感じで」
「こ、これは色々考えながら言ってるから……、その、こんなふうになるの……」
「あ、そういや、ハンドサインなんて考えたよな。五十音のひらがなそれぞれに、腕の形をあてただけのヤツだけど、お前、覚えてるか?」
「お、覚えてるよ、あれを最初にマスターしたの、わたしだもん……」
「そうだった、お前なんかやたらと記憶力が良いんだったな。よくつるんでた奴らの電話番号も全部覚えてたよな」
「うん、そうだね……よく、電話帳代わりにされてたよ……」
「しかも地理も覚えちまうから、他の女子と違って方向には強いしな。その記憶力を勉強に活かせりゃよかったのに」
「うーん……、日常生活に活かせないものは覚えられないのかも……」
 そんな風に、久しぶりに会った幼馴染同士の会話をしていた。うっかりしているとこのまま自宅に帰ってしまいそうだ。彼は努めて学校へ戻る道を選んで歩いた。
(あと少しで学校だな)
 と、、彼が思った時、目の前にふらりと現れた人影があった。落ち着かない様子で、キョロキョロと辺りを見渡している。すぐにそれが来楽奈だと気づいて、彼はぎょっとした。
「な、何してんだよ、こんなところで」
「えっ……?」
 瑠子がきょとんした顔をする。
「な──何って……、あんたがどっかに行っちゃうから、散歩して暇つぶししてたのよ」
 来楽奈はそっぽを向いて言った。嘘部というステータスを差し引いても、彼は怪訝に思った。
「本当かよ……、もしかして俺を追って来ようとして、この辺で迷ってたんじゃ──」
「んなわけないでしょ!」
 思い切り彼の言葉をぶった切って来楽奈は吠えるように言った。
(どう見ても図星じゃねえか)
 彼は、ポーカーで自分を手玉にとった来楽奈が、さりげない苦手分野でここまで焦った様子を見せるのを面白く思った。
「まぁ、偶然出会えて良かった。ほら、話をつけてきたぞ」
「……本当に?」
 来楽奈の視線は瑠子の方を向いた。瑠子は、目に怯えの色を浮かべて怖気づいたように首をすくめる。
(そういうリアクションするんだもんな、非社交的に見られてもしょうがない……)
「兼部らしいけどな、手は貸してくれるらしいぞ」
「ね、ねぇ……この人が……、その、嘘部の部長さんなの?」
 瑠子は彼の腕をぐいと訊いて訊ねた。ひどくおどおどした顔をしていて、なんだか瑠子の父親になった気分だった。
「ああ、そうだ」
「え、えっと……よろしくおねがいします……、い、一年の平田瑠子です」
「二年の嘘部部長、大宮来楽奈よ。──ねえ、本当に嘘部に協力してくれるの?」
「ふえっ……、え、えと……、人が足りなくて困ってるって聞いたから……、そ、それで……入部しても、良いかなって……」
 もじもじと瑠子は言う。来楽奈は少し考えるように手で口を覆った。
「……入部の必要は無いわ。もう、柏座君がもう入部届を出して、正式に部員になってるの。公式戦に必要な正式部員数は三分の二……、あなたは助っ人として出ることができるから、入部までしなくていいのよ」
「まあ、当然、兼部もオッケーだよな?」
 彼は横から訊いた。来楽奈は即、首肯した。
「そうね。出席するのはできるだけで良いわ。できるだけ、私と柏座君で対戦相手に対応できるようにしておくわ。あなたは……そうね、最低限、嘘に振り回されない訓練が必要になるかしら」
(……まぁ、こんだけおどおどした様子を見れば、そう思うよな。まぁ、こいつのことを教えるのはまた後で良いか)
 そこで一旦、来楽奈は話を中断して辺りを見渡した。
「こんなところで立ち話もなんだし、部室に行きましょう。……平田さんに説明したいこともあるしね」
(試合のルールだとか、あの嘘発見器とかか……そういえば、ファインダー一個借りっぱなしだったな、後で返しておかないと)
 彼はそんなことを思いながら、来楽奈が歩き出すのを待ったが、一向に動き出す気配がなかった。彼は怪訝に思って言った。
「あれ、学校に戻るんじゃなかったっけ?」
「…………あんたが先に行ってよ」
「あれ? 散歩に来たんだから、道くらい分かるよな?」
「………………そういう気分じゃないの。お願いだから、さっさと先に行ってよ」
(あんまりからかうと後で倍返し以上にされそうだから、そろそろ『お願い』を聞いておくか)
「分かったよ。じゃあ、行くか」
(それにしても)
 学校までのそう遠くない道で、彼は女子二人を引き連れながらふと思った。
(瑠子のヤツ、ハンドサイン覚えてんのか……、……俺も勉強し直すか、アレ。確か、対応表も作ったよな──)

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  1. 2012/12/16(日) 14:03:52|
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プロフィール

可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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