弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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【小説】嘘と恋のデジタル数値 5(1)

「あ、そうそう。ファインダーにこれつけてね」
 来楽奈は思い出したようにそう言って、彼の方へバンドのようなものを放り投げた。落っこちそうになるのを、彼はなんとかキャッチする。
「な、なんだよこれ」
「腕時計みたいに、そのバンドでファインダーを手首のところに持ってきて。それ握りながらトランプするのはやりにくいでしょ?」
 言われた通り、バンドをファインダーにとりつけ、手に通した。ゴムがキツイのかぴっちりと手首に張り付き、圧迫される。
「……こっちの方がやりにくい気がするがな……」
 彼がぼやくと、彼女は自分もファインダーを手首につけながら言った。
「片手がふさがってる方がよっぽどやりにくいわ。それに試合でもこれでやるから、早めに慣れておいた方が良いしね。その位置でも十分、数値は出るから。──じゃあ、始めましょ。賭金はこれを、ひとり五十枚ね」
 来楽奈はプラスチック製のメダルを彼の方に置いた。
「……賭けるのか」
「当たり前でしょ。ベットとかレイズとか手順があるけど簡略化して、手札が確定した時点で互いが賭けたい額を言って、高い方の額をお互いが出して、勝ったほうが相手の賭金を頂くって方式でいいわね?」
「おう」
「それじゃあ、三回勝負でいきましょう」
(凄いノリノリだな。……そんなに嘘を吐くのが好きなのか?)
 彼は来楽奈の顔をちらちらと見ながら思った。職員室からこの部室に戻ってから、特に機嫌がいい気がする。嘘の吐き合い、腹の探り合いを心底から楽しみにしているような、そんな様子だ。
「どうせイカサマなんてしないでしょ? 各自で五枚取りましょう」
 来楽奈の言うとおり、彼は五枚、山から引いた。彼に続いて彼女が五枚引いた。
(ノーペア……。──でも四枚ダイヤだな。確か、五枚全部同じマークで役になった気がする……それに賭けてみるか)
「一枚交換する」
「私は二枚」
 山から一枚引いて手札に加えた。相手は二枚持っていく。
(クローバーか……ノーペアだ。……で、こっからが勝負なわけなんだろ?)
 彼はちらりとモニタの方を見た。
(俺が14で、大宮が……3だと……? こいつ、本当に血が通ってるのか?)
「さあ、賭けの時間よ。どうする?」
 来楽奈が言うので、彼の目はモニタから離れる。
(……ノーペアだと大した闘いもできないだろう。控えめにしよう……)
 彼はモニタに再び視線を戻す。彼の数値はまた伸びていて、17に達している。
(平静だ、平静……)
 自分に言い聞かせながら、彼はメダルを三枚掴んで場の中央に放り投げた。
「三枚だ」
「三十枚」
(ああん?)
 来楽奈は平然とした様子で、三十枚のメダルを場に置いた。彼はそれを呆然として眺める。
「ほら、あんたも三十枚置きなさいよ。私のほうが高いんだから。それとも賭金の額、変更するの?」
「……」
 彼は場に出した三枚のメダルを回収して、代わりに三十枚置いた。
(どんだけ強い役なんだ……こんな大胆に出して……)
「じゃあ、手札を開いて」
 来楽奈は言った。ほとんど二人同時に手札の五枚を表にして公開する。
(……は?)
 彼は目を細めて、来楽奈の手札を凝視した。
「ノーペアよ。あんたのもそうみたいね」
 彼女はしれっとそんなことを言ってのける。彼はひどく動揺したが、ふとモニタの数値を見て彼女の真意を悟った。
「……そうだった」
 彼女の数値は3のままだったが、彼の数値は三桁をゆうに超えていた。──この試合の勝ち負けはあの数値で全て決まる。彼女は点数稼ぎのために、はったりをかましてきたのだ。
(……こんな普通のハッタリに引っかかるなんてひどく単純だな、俺は……)
「引き分けだし、賭金の移動は無しね。じゃあ、次のゲーム行きましょ」
 来楽奈は淡々と二人分のカードを山に戻し、入念にシャッフルした。三十秒ほど切った後で、その山を卓上の中央に置く。
 彼は無言でその山から五枚引いた。
(──9が二枚とキングが二枚、ってことは……ツーペアか? ……じゃああぶれたこの7を切るか)
「一枚だけ」
 一枚だけ交換。その際、モニタを見てみると彼の数値はさっきとさして変わっていない。
(このくらい平穏にしてないとダメなのか……苦労するな)
 彼はそう思いながら交換した一枚を見た。キングだった。
(……お? なんか凄そうな手札になったな。二枚と三枚で……なんて言ったかな……、でも、とにかく強いことは確かだろう)
「二枚」
 来楽奈は二枚交換した。彼は、それら二枚のカードを確認する彼女の表情を探ってみたが、特殊マスクでも被っているのか疑うほどに何も感じられなかった。簡単すぎる筆記テストでも受けているような顔だ。
「二十枚出すわ」
 今度は彼女の方が先にメダルを置いてきた。
(……さて、今度は俺がハッタリをしてみるか。せっかく、こんな大層な役もできたことだし。さしあたり四十枚くらい──、いや、ちょっと待て。……逆だ)
 彼は一旦、三枚メダルを指で一瞬つまみ、すぐに離した。
「……くそ、三枚にしようと思ったんだけどな」
 渋々といった様子で二十枚メダルを差し出す。来楽奈は変わらぬ様子でそれを見届けた。
「じゃあ、良い? 開いて」
 二人同時に手札を公開した。来楽奈の手札は2と4のツーペア。
「えーっと、この役はなんて言うんだっけ?」
 彼は素で分からないので、素直に訊ねる。彼女の瞳が僅かに揺れた気がした。
「フルハウスよ。……全く、随分運が良いのね。……ツーペアじゃかなうはずがないわ」
「ビギナーズラックってやつか」
 彼は軽快に言い飛ばし、来楽奈の分も含め四十枚のメダルを手元に引き寄せた。その調子のままモニタの方を見てみると、彼の数値は僅かに伸びる程度で、来楽奈の数値は10程度に上昇していた。
(これであの程度しか伸びないのか……こりゃ、次のラスト勝負でひっくり返すのは難しいな)
「ちょっと提案があるんだけど」
 トランプをシャッフルしながら来楽奈が言った。自然、彼に警戒心が芽生える。
「……なんだ」
「お互い、配られて交換する前の手札を明かすことにしない?」
「どういう意味だ。それだとゲームが成立しないぞ」
「……そこで嘘の駆け引きがあることが重要なのよ。このままだと、ただのポーカーの試合になるわ。それだと嘘部の練習としては不十分じゃない?」
 来楽奈はトランプを卓上に置いてから、不敵な微笑みを彼へと向ける。
(……なんか違和感があるな。それなら最初から提案しておけよ、とかそういう類の違和感なのか……?)
「まぁ、構わないが……」
「もちろん、交換してからの手札は明かさないようにね」
「分かってる」
 二人は五枚カードを引いた。
(嘘の駆け引きってことは、つまり嘘を吐くのが目的なんだろう。このモニタにある数値は、動揺することで上下する……ってことは平凡な嘘なダメなわけだ。となると……?)
 彼の手札は9のワンペアだった。こういう場合、どのカードを切るのが定石なのか、彼には全く分からない。役が微妙すぎて次に言うべき嘘も思い浮かばなかった。
「どう?」
 来楽奈が訊いた。彼の方から手札を明かせと、暗に言っているようだった。
(どうする。何と言うか。……ここは奇を衒って本当のことでも打ち明けてみるか)
「9のワンペア、それだけだ」
「嘘ね」
 彼女は間髪空けず即座に言い放った。あまりの速さに彼は一瞬尻込みしたが、すぐに思索を巡らせる。
(カマかけだ。嘘だって確信を持ってるように見せかけてる……、こいつ相当な役者だ。本当に嘘を吐いてたら危なかった)
 モニタの方を見てみると、彼の数値はいくらか増えていた。だが、これでも抑えた方だ。もし、自身の無い嘘を吐いて今のハッタリをもろに当てられていたら、累算で200を超えていたかも知れない。
「嘘かどうかは後でのお楽しみだろ」
 彼は動揺をかき消すように、軽口を叩いた。来楽奈の表情は変わらない。
「そうね」
「お前はどうなんだ」
 来楽奈はどこか不貞腐れたような様子で答えた。
「私もあんたと同じよ。エースのワンペア」
(…………? かすかな違和感がある。さっきから何なんだ、この感覚は……)
 そう思ったと同時に、彼は半ば反射的に訊ねた。
「本当か?」
「……さぁね。それで、何枚交換するの?」
「一枚だ。お前は?」
「三枚」
 黙々とそれぞれが言った数だけ手札を捨て、山から引いた。
(お、俺はツーペアになったぞ。問題は大宮の方だが、こいつはワンペアと言って三枚引いてた……本当にワンペアだったのか?)
 モニタで来楽奈の数値を確認してみると、少しだが上昇していた。平静の状態ならほとんど伸びないのだから、何かしらに動揺しているのだ。
(となるとワンペア発言は嘘と考えていいかも知れない。俺の反問に驚いたんだ。そんでもって、三枚も交換したってことは……元はノーペアか。ワンペア以外で三枚変える必要は無いからな。──勝負に出るしかないな、これは)
「三十枚だ。お前、それしか持ってないんだろ?」
「……三十枚ね。分かったわ」
 来楽奈は歯切れ悪く言って、メダルをありったけ差し出した。彼もそれに倣うように、メダルの山を置く。彼はその最中、彼女の表情をちらちらと観察していた。
(どこか顔が堅く見える……、もしかして、役ができなかったのか? ……ウソ発見器の数字も少しずつだが伸びてる。ってことは俺、もしかして勝てるんじゃ……いやちょっと待て、別にポーカーに勝ったところで、嘘つき勝負で勝たなきゃ意味ないんだ。となると、ここで何かしないと俺はこのまま犬負けすることになる……、よし)
「ちょっと待ってくれ」
 彼は待ったをかけた。手札を公開しかけていた来楽奈はピタリと動きを止めて、彼を見る。
「な、何?」
「なぁ、このままじゃお前の圧勝で終わっちまうからさ……俺にチャンスをくれよ」
「……まぁ、私もさっき提案したから、あんたも何かしら提案しないと不公平よね。いいわよ、何?」
「このフェイズ、俺の役がお前の役に勝ったら、このファインダーの数値をリセットして最後の一戦をやってくれないか」
「……」
 来楽奈は沈黙にともなって少し表情を暗くしたような気がした。彼はそれを見て思わず緊張しそうになったが、平静になるよう務めた。彼女を見ているとそれは不可能な気がするので、狭い部室の壁や天井を見渡してみる。塗装も何もなく、むき出しのそれらを見るに、ここはちゃんとした部屋ではなさそうだ。
 やがて、来楽奈が口を開いた。
「いいわ。一戦だけよ」
「恩に着る」
 彼はささやかな安堵とともに言った。
(手札を交換した後のこいつの様子を見てると、どうも芳しくない手札みたいだから大丈夫なはずだ……が、さっきからちらついてるこの感覚はなんだ? ……何か不自然なところが?)
「じゃあ、手札を明けるわよ」
 来楽奈の言葉を機に、彼は手札を開いた。
「ツーペアだ」
 彼は勝利を半ば確信して言った。だが、彼の役を聞いた途端、来楽奈はふぅと安心したような息を吐き、自分の役を彼に見えるように卓上に広げた。
 五枚のカードの鮮明な赤が目に飛び込んできた。
「フラッシュ。私の勝ちね」
「は……」
「この六十枚は私のものになるから、ポーカーの勝負は私の勝ち。これの方も……見るからに私の勝ちね」
 来楽奈はファインダーをちらつかせて言った。モニタの数字は彼と彼女との歴然とした差を、淡白なデジタル表記で示していた。
(マジか……、ペアを作る以外にもこんな派手な役があったのか……忘れてた。それに、落ち込んでるように見えたから、てっきり良くない役なのかと思った……役者だ、こいつ)
「まだ動揺してるの? どんどん増えてるわよ」
 彼が黙っているところへ、来楽奈は静かに指摘した。彼女の言うとおり、モニタの数字は未だに上昇を続けていて、彼のものは200を越していた。
「あぁ、分かったよ。俺の負けだ」
 彼は観念してファインダーを手首から外した。途端にモニタの数字が動かなくなる。
「全く大した奴だな。お前の手の中で弄ばれてた気分だ」
「……そう」
 来楽奈は大して嬉しくなさそうに言った。視線もついと逸らされていて、彼の方を向いていない。なんとなく怒っているようにも見えた。
(……試合を始める前はあんな嬉しそうだったのに、どうしたんだ……)
「ねぇ……本当に、この部活に入るの?」
「ん? なんだよ今更。入部届も出してきたばっかりじゃねえか」
「そうよね……」
 来楽奈は呟きながらメダルを一枚つまんで指先で転がした。
(……いじけてるようにも見えるが……どうしたんだ、いきなり。……もしかして、俺が妙な提案したからへそを曲げたのか? 本当は部活に入ってほしくないんじゃないのか……?)
 そう考えて彼はぞくりとした。凄まじい幸運に導かれて、来楽奈と二人でこの部屋に常駐できる権利を得たというのに、ここで追放されては一生後悔して生きることになるだろう。
「あー、も、もし何か俺の言動が気に障ったんなら謝るんだが……」
「動揺しないためには、あらゆる可能性を想定し尽くすことよ」
 彼の言葉を全く無視して、来楽奈は独白するように言った。
「予想外だから動揺する。あんたは自分が望んだとおりにことを動かそうとして、そうならなかった時に落ち着きをなくしてる。もっと想定をした方がいいわ」
「あ、あぁ……わかった……」
「じゃあ、今日はこれで解散にするわ。また明日の放課後、この部屋に来て」
 来楽奈はそう言いながら荷物をまとめて、ファインダーを卓上に置いて立ち上がった。それを見て何故だか彼は焦燥に駆られた。このまま黙って見送ったら、明日の放課後にまた彼女と会えないような気がした。
(この様子だと生半可な言葉じゃ立ち止まってくれないような気がする……こいつが思わず足を止めるようなこと……そういえば、さっき職員室で……)
「ちょっと待った!」
「……何?」
 彼女は振り返りもせずに言った。
「さ、さっき言ってたろ。試合には三人必要って……、もう一人、いなくないか?」
(我ながら相当苦しい引き止め方だな……──)
 彼はぐっと返答を待つ。心臓にも冷や汗が流れているような心地だった。
「……大士戸高校との取り決めで、どちらも正式部員数が二人以上いないと、公式戦として認められないってことになってるの。でも、あんたが来てくれたからもう十分、あとは適当に助っ人でも連れてくればいいわ」
「そのあてはあるのか?」
「……あてなんて頼るものじゃなくて見つけるものよ。なんとしてでも承諾してくれる人を見つけてみせる」
「あぁ、いや、俺のほうにあてがあるんだが……、早ければ明日にでも話をつけてこれるぞ」
 彼は恐る恐る、だが内心を知られないように言うと、来楽奈は振り返った。
「本当に?」
「このタイミングで嘘を吐く意味なんてないだろ。勝負は終わったんだ」
 宥めるように説得すると、彼女は歯切れ悪く言った。
「……そう、じゃあ、……お願い」
「まあ、心当たりってだけだから、過度な期待はするなよ」
「もともとしてないわよ。……でも、ありがとう」
 言い終えると、来楽奈は表情を見せないまま扉を開けて出ていった。扉が閉じる堅い音が室内に響く。彼は一人残されてしまった。だが、気分は最高だった。
(ありがとう……か。やばい、たかだか五文字だけなのにこんなにうれしくなるとは……このまま飛び跳ねて大気圏外まで行けそうだ……)
 彼はポーカーの勝負中に来楽奈が座っていた場所をぼんやりと眺めた。だが、数十秒後にとある事実に気づく。卓上には散らばったトランプと二人分のファインダー、百枚のメダル、そしてつけっぱなしのノートパソコンがそのままに残っていた。
「本当にどうしたんだ、あいつ……」
 彼は呆然として呟いた。後始末をすべて新人の彼に任せていくなんて。
 まさかそのままの状態で帰るのもはばかられたので、トランプを片付けメダルも元の配置に戻し、シャットダウンしたノートパソコンと一緒に収納ケースのそれらしい場所に戻しておいた。色々と試してみたかったので、ファインダーは一つだけ借りていくことにした。来楽奈がしていた方のものは箱にしまって収納ケースへ戻す。
 遠くの部室では、まだ談笑が続いているようだった。来楽奈がこの部屋を出ていってから十分ほど経って、彼も部室を後にすることが出来た。
(明日も会えるのか? 明日またここに来たら、嘘でしたー、とかおどけて言われてもおかしくない……まぁ、それでも構わないが。いい夢見れたと思って……諦めがつくのか、俺は……)
 彼は立て付けの悪い戸を開けて廊下に出た。扉は来楽奈がさっき出ていった時と同じように、堅い音を立てて重く閉まった。彼は戸締りが気になった。鍵穴はあるが、鍵など受け取っていない。
(……鍵、開けっ放しで良いのか。ノーパソとか貴重品、中にあるよな……まぁ、立て付けがいい具合に鍵がわりになるのか。俺も最初は開けられなかったしな)
 その時、廊下の向こうから、誰かが歩いてきた。体格のいい男子生徒。ラグビー部員とも思えるが、ここは文化系部活の集う部室棟だ、運動部がここに訪れる用はない。なんとなくこの場所の雰囲気になじまないその男子生徒を、彼は思わず観察してしまった。身長は百八十センチをゆうに越しているだろう。体格はがっちりしている割に顔の輪郭はすらりとしていて、少し彫りが深い。
(…………ちょっと待て、どこかで見たぞ、そんな男をつい最近……)
 凄まじい引っ掛かりを感じて、彼はその男子生徒を凝視した。彼の立ち位置は廊下の一番奥突き当りである。そんなところに立っている人間から凝視されたら、誰だって気になる。自然、その男子生徒と彼の目があった。
 そのどこか愛嬌のある視線を真正面から受けて、彼はぱっとひらめいた。
「そうだ、どこかで見た顔だと思ったら……、一昨日あいつから告白を受けてたヤツだな、あんた!」
「……あぁ?」
 相手はあからさまに顔をしかめた。男子生徒としては精一杯不快な気持ちを顔に出したつもりだったが、その柔らかな目によるフィルターがかかったのか、彼はそれを困惑の表情として理解した。
 彼はずかずかとその男子生徒に近づいていった。相手の身長の方が高いので、自然と彼の方が見上げる形になる。
「あんた、一昨日、告白をされただろう」
 別段、問い詰める意味など無いのだが、彼はとにかく確認せずにはいられなかった。
「何で知っている」
 堅い口調で男子生徒が答えた。
「たまたま見てたんだ。あんたがそれを断るところもな」
「……だから何だ。逮捕でもするのか」
「いや、そのことで訊きたいことがある。……何で、断ったんだ?」
 彼は自分で何故そんな質問をするのか分からなかったが、もしかしたら断った理由を聞くことで、自分自身の気持ちでわかっていない部面を埋め合わせることができると思ったのかも知れない。
「……振った理由?」
 男子生徒は静かに、だがどこか嘲笑するように言った。
「あの女、大宮来楽奈が所属している部と、彼女に関わる話を聞いていれば、あんな誘い容易く承ける輩なんざおるまい。──大宮は嘘部に所属していて、嘘を吐きまくっている、そう考えれば、あの告白も例の部活動の一環だと分かるだろう?」
「あの告白は本心からの言葉じゃないって、分かってたから断ったのか」
「そういうことだ。おそらくは自らの嘘の精度を上げるために、緊張感の高いシチュエーションを作り上げたのだろう。何故、俺に白羽の矢が立ったのかは知らんがな。──ところで、お前、あの奥の部屋から出てきたようだが……嘘部の関係者か?」
「ああ、今日入部したんだ」
「何故」
「…………成り行きだ」
「成り行き……、大金でも絡んだんじゃあるまいな」
 真顔でそんなことを言われたので、彼はムッとした。
「んなわけあるか。俺の意志で入ったんだ」
「そうか。俺なら大金を積まれても入ろうとは思わんがな。それでもお前が入ったというのなら、余程の理由があったんだろう。この学校の生徒なら、俺以外の誰だって同じ事を言うだろう。そんな部活に入るのはやめろってな」
(何だか、全校生徒が嘘部の存在を知っているような口ぶりだな。俺は、全く知らなかったのに……)
 違和感こそ感じないものの、そんな疑問がふと浮かんだ。
「事情があるんだ。あんたにどうこう言われる筋合いはない」
 そんな疑問を押し潰すように、彼は突き放すように言う。相手は大した反応を示さなかった。
「俺も人の行動にとやかく言うつもりはない。話が済んだのならそこをどいてくれないか」
(完全に嘘部をナメてるな、コイツ……なら、嘘部流のやり方で思い知らせてやるか)
 彼はその場で思いついた嘘を披露してやることにした。きっと、この男子生徒の憶測は当たっていて、来楽奈は告白を作業的に行ったはずだ。嘘の精度を上げるというよりは、嘘を吐いた時の動揺の具合を調べるために。それに倣って、彼も自分の嘘がどれほどのものか試してみることにした。先ほど借りることにしたファインダーをこっそり手の中に忍ばせて、スイッチを入れる。極小さな、彼でしか聞き取れないような電子音が鳴った。
「おい、話はこれからだ。たったこれだけの話題のために、見知らぬ奴を呼び止めたりはしない」
「……何だ」
 相手は眉をひそめた。
「告白の話だ。さっき、その部室であいつの話を聞いたんだけどな……あれはガチだったらしいぞ」
「何だと?」
「本気だったんだ。誠心誠意だったんだよ。でもあんたはあいつが嘘部に所属してるって知ってたから、あんたは振った。どうせ嘘なんだろうって思って、そうなんだろ? あいつは、今でもあんたに恋心を抱いてる。これは事実だ」
「……」
「それが言いたかったから呼び止めたんだ。俺だって人の行動をとやかく言うほど暇じゃ無いが……、ちょっと考えてもらいたくてな」
「……なるほどな」
 相手は言った。どこか疲れたような口ぶりだった。彼の嘘を信用したかは分からないが、彼は自分が屈託なく嘘を吐けたことに達成感を抱いた。
「それだけだ。悪いな、こんなことで呼び止めて」
「……問題ない。部室に忘れ物を取りに来ただけだ。時間には余裕がある」
「部活、何やってるんだ? パッと見、ラグビー部かバスケ部に見えるが……」
「軽音楽だ。ギターをやってる。部員にはそちらと同じく飢えている、ブームはとうに去ったようだ」
 相手はそう言って彼の脇をすり抜け、とある部屋の扉を開けた。戸には「軽音楽部」と躍るような文字で書かれていた。あまり、あの男子生徒に似つかわない字体だった。
 程なくして、軽音楽部員は部室から出てきた。ギターケースを背中に担いでいる。それが忘れ物だったらしい。彼の体格が大きいせいで、ギターがひどく小さく見えた。
「お前も帰宅か?」
「あぁ……」
 彼はぎこちなく頷く。
そのまま流されるように、その軽音楽部員と一緒に下校することになった。相手は横須賀文と名乗った。「文」と書いて「ぶん」と読む。二年生にして軽音楽部の部長。バンドもののマンガやアニメが流行っているのだから、部員もそれなりに居るものだと思っていたが、どうもこの学校に限っては軽音楽部は活発ではないらしい。
「部活でやるよりも、プライベートでやりたい奴の方が多いみたいだ」
 文は残念そうに呟いた。
 その後は、彼が自分のことを語る番になった。といっても、語れるほどの経歴があるわけではない。とりあえず名前から教えることにした。
「柏座……、お前があの柏座瞳太か」
 意外にも、名乗っただけでそんな反応をされた。
「なんだよ、俺の名前ってそんなに有名か?」
「……有名ではないだろう。俺がたまたま何度か耳にして、気になっていただけだ」
 それ以上、彼の名前についての話の発展は無かった。
 別れ際になって、彼はずっと気になっていたことを訊ねた。
「なぁ、俺は嘘部員なのに、こんなに会話とかしても良いのか」
「嘘部なんてレッテルに惑わされる役は、テレビの安易な情報にすぐ流されるような奴にやらせておけばいい。お前は嘘を吐けそうにな顔だからな、信用できると思っただけだ。……それじゃあな」
 文はそう言って去っていった。彼はその後姿を少しのあいだ眺めていたが、すぐに振り返って歩き始めた。
(……さっきと言っていることが逆だ。『嘘部だから嘘を吐いてるだろうと思って告白を断った』って言ってたよな、横須賀のヤツ……ってことは、俺の吐いた嘘は効果てきめんだったってことか? 凄まじい裏話を聞かせてくれた俺に心を開いたのか? ──大宮が本当に、自分を好きになっていると知って、機嫌が良くなったのか? …………何にせよ、微妙な違和感があったのは事実だ)
 彼はさっきから手に握っていたファインダーを見てみた。
 212。嘘を吐くのに慣れていないからか、それとも来楽奈の恋心をダシにした嘘を吐いた罪悪感が、動揺を生んだのか。
(嘘部に入ったのは成り行き……でも、俺が大宮に惹かれて入ったのも、事実だ。……これが恋だとは思えないがな……、端的に言えば下心、ゲスい男が抱くような感情だ)

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  1. 2012/11/30(金) 20:16:34|
  2. フィクション小説(妄想)
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楕円形の皿

順を追って書いていこう。
まず月曜日の記憶が無い。何してたんだっけ。
……ガチで思い出せないからいいや。

火曜日は2限から5限まで授業だからそれで一日が潰れるわけだ。
スキマ時間の大半は雑談で潰れた。流れていくとりとめのない話。手に入れたのは日払いバイトの情報メルマガ。

水曜日は記憶が無い。きっとやんややんややったら終わってた。

木曜日はまず、午前中に色々と必需品の買い出しに行った。
といってもイヤホンとマイクなもんだが。必需品とは言えない。しかしまあ、平日の昼間の店というのはガラッガラでこれなら暇で良いんだろうな、とか考えたりするけど、めんどくさそうなおじさんばっかりなのを知って考えを改めた。
ついでにゲーセンに寄って、弐寺をやった。へたくそすぎて店員に内心で笑われてた気がする。きがする、よ。
午後は地元の友達と遊んだ。
久々だった気がするけど今思えば久々じゃないな。たかが二、三ヶ月ぶりではないか。
人生ゲームをやったよ。あれ、地味だけど割と面白いよね。ブラック&ビターをやりたくなった。
そのあと、サイゼリアに行って22時くらいまで駄弁って、帰宅して就寝。

金曜は俺四回目のバイトォ……。
楽しかったよ。思い出すと腐るほどエピソードがあるが割愛する。とりあえず、俺のコートでネコが熟睡しそうになっていたのを追い出したのがハイライト。

土曜日。
速報、寝坊して授業を再びぶっち。
最悪な気分で4限に赴いた。ボイストレーニングがあったからね。もともと上手かった訳ではないけど、最近また劣化が激しいので、ちょっとブルーな気分だったけど、なんともまあ、彼らはどうしてそうもうまくいいとこを指摘してくれるのかな。ちょっとうまくなった気がした。
そのあとはサークルの練習。なんかあっという間だったな。気でも失ってたのかな。
そして、その後は!! 友達の家で鍋パ!!!!!
俺の大学生活二回目の大学生らしいイベントですごくウキウキしてたけど、なんかこんなにふてぶてしい考えだったのは俺だけだったみたいね。すんません、でもそんなふてぶてしくなれるほどあなたには気を許しているのですよ(暗黒微笑)。
………。
それから一晩中語り合っていたよ。
サークルの人間事情、恋愛事情、人間関係、イベント、過去話………………。
人間関係怖すぎてもう嫌だってなる、ごちゃごちゃし過ぎててもうアレ。
でも逆にここまで気を許せる人間がいることはまた僥倖なことなのだな。というわけで、永遠にそんな生活したいわ。それが家族というものか? いや、そういうことを考える時間ではないな、うん。
それから家に朝帰り、いや昼帰りをキメて午後はいっぱいに睡眠。
そしたら友達と夕飯を食いにでかけて、ビックカメラでぶらぶらして帰宅してきた。

自分の人生ながらめっちゃ濃かったわ。
ぬん。

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  1. 2012/11/26(月) 00:31:56|
  2. 尋常の日記・雑記
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【小説】嘘と恋のデジタル数値 4(1)

「……この志望理由、なんなの? 『知見を広げるため』って」
「『暇だから』よりは数倍もマシだろ。いちいち突っ込むなよ。ほらよ」
 彼は早速、来楽奈が用意した入部届に必要事項を記入して、彼女に手渡した。
「……ありがとう。じゃあ、先生に出しに行くわよ」
「先生……? 顧問がいるのか?」
「当たり前でしょ。正式な部活なんだから。同好会にですら居るのに、部活動に居ないはずがないわ」
 来楽奈は立ち上がって上履きを履き、さっさと部屋を出て行こうとする。彼はその後を追うべく急いで腰を上げた。
 長い部室フロアの廊下を抜け、渡り廊下を渡って職員室へと向かう。
「失礼します」
「……失礼します」
 来楽奈は手慣れたふうにノックをして、入室する。彼ものっそりとそれに続いた。
(どうも苦手なんだよな、職員室の雰囲気って。言うなれば、先公っていうのは生徒の監視者みたいなもんで、そいつらが根城にしてる部屋に踏み込んでるんだから当然なのかも知れない)
 彼は極力、来楽奈の背中を見るようにしながら歩いて行く。すると自然、揺れる髪が目に付いた。艶やかな黒髪が動くたびに、仄かに甘い匂いが漂ってきている。
(いかん、理性は保てよ俺……)
 彼は慌てて視線を更に下へ落とした。
「黒凪せんせ──きゃっ」「うおっ」
 すると来楽奈が突然立ち止まったので、彼はその背中にぶつかった。
 彼女は慌てて彼の方を振り向いて抗議してくる。
「ちょ、ちょっと……!」
「わ、悪い悪い……ってお前も突然立ち止まるなよ!」
「突然じゃないわ、あんたがぼーっとしてたんでしょ」
「あら、ようやく新入部員が見つかったのね」
 二人のちょっとした言い合いの最中に、柔らかな女性の声がかけられた。来楽奈ははっとしたように、その声の主に向き直る。
「そ、そうなんです。入部届持ってきたついでに、紹介しておこうかと思って」
「……えっと、二年一組の柏座です。よろしく」
 彼は来楽奈の横に立って挨拶した。
「柏座君ね。私は黒凪って言います。よろしくね」
 ふわんとした雰囲気の女教師だった。ゆったりとイスに腰掛けており、その前の机の上には書類が広げられている。
(何だか、この人の授業を聞いてると眠くなりそうだな……)
「先生、これでなんとかギリギリで大士戸高校との試合へ参加できますね」
 来楽奈はいつも通りの落ち着いた口調ながらも、どこか興奮を隠せない様子で言った。
「そうね、三人集まったほうが良いけど……二人なら人数合わせで助っ人を呼べる範囲内だから大丈夫だと思うよ」
「……試合って三人必要なのか」
 彼が呟くと、来楽奈が頷いた。
「そうよ。そのあたりのルールは対戦相手の大士戸高校が提案してきたものなの」
「大士戸高校の方で行われてるローカルルールを、そのまま親善試合に使うみたい」
 黒凪が彼が先ほど書いた入部届に目を通しながら言った。
「それに勝てば満を持してこの部活も存続できるってことね」
 黒凪は視線を彼らの方に向ける。
「頑張ってね、大宮さん、柏座君」
「はい、頑張ります」
 来楽奈は静かに言った。彼はそんな彼女の顔を横目で見やる。
(見た目は落ち着いてるが、内心は浮わついてるみたいだな。部活熱心なヤツらしい。──それよりも……なんだか今の会話、どこかに違和感があったような……)
「じゃあ、部室に戻るわよ。これから、あんたに色々と教えなくちゃいけないから」
「お、おう」
 彼はどこかもやもやとした気分のまま、職員室を後にした。

「嘘部の活動にはこの装置を使うわ」
 部室に戻るなり、来楽奈は収納ケースから手のひら大の箱を取り出して彼に渡した。
「何だこれ……防犯ブザーか?」
「それ真面目に言ってるの? 開けてみれば分かるわ」
 そう言われたので彼はその箱を開けてみる。中にはストップウォッチを分厚く、無骨にしたような機械が入っていた。
「……開けてみたけど分かんないぞ」
「そうだと思った。ごめんなさい、今、嘘吐いたわ」
(相変わらずしれっと嘘吐きやがるな……)
 彼はほんの少しむっとしながら訊ねる。
「で、これは何なんだよ」
「端的に言えば嘘発見器よ」
「……本当か?」
 彼の今まで抱いていた嘘発見器といえば、人間が嘘をついたら針が揺れるアナログ表示の古めかしいものであったが、今手に持っているそれのデジタル表示のディスプレイとしなやかなボディを見ると、むしろ高機能ストップウォッチと見た方が良さそうな見た目である。
 彼の怪訝そうな呟きに、来楽奈はむっとしたように言う。
「そんな嘘吐いてどうするのよ。携帯からボタンが消えて薄っぺらになっちゃう最近の技術の発展を見れば、嘘発見器がこれくらい進歩しててもおかしくないでしょ」
「まぁ、そりゃそうだが……まぁ、そりゃそうだな」
 何と返せば良いか分からず、彼は適当な相槌をうった。
「それで……この嘘発見器、どう使うんだ」
「人は嘘を吐く時に、嫌でも身体のどっかしらに変化が起こるの。緊張して握る手がかたくなったり、心臓の動きが速くなって脈数が上がったりね。それを数値化してくれるのがこの装置なわけ」
「……だから、どう使うんだって俺は訊いたんだよ」
「本格的に使いたかったら、もっと周辺機を身体につけなくちゃいけないんだけど、大士戸高校との試合のルールでは手に持ってるだけでも十分よ」
 彼は試みにその装置を握ってみると、すっぽりと手の中に収まった。これなら来楽奈が持っても十分手に収まりきるだろう。
「ちなみにこれの商品名は『アンチライヤー』って言うらしいわ」
「──それじゃあ、略して『アイヤー』とでも呼んでんのか?」
「そんな訳ないでしょ。……私はずっと『ファインダー』って呼んでるわ」
(嘘『発見』だから『ファインダー』なのか? ……へぇ)
「じゃあそれで良いんじゃないか? 『アイヤー』よかマシだ」
 彼は半ば投げやりに言った。この際、呼称にはこだわらない方が良さそうだ。
「それでね、色々と設定はあるんだけど、とりあえず一番シンプルなモードでやっていくわ。『動揺加算』ね」
「……そんな『何だか分かる?』って顔しないでいいから、さっさと説明してくれ」
 彼がそう言うと、来楽奈は目を丸くした後、決まりが悪そうに続けた。
「…………さっき、嘘を吐くときには知らず知らずのうちに身体が反応するって言ったけど、それをこの装置が感知して、数値化して蓄積していくの。つまり、平静でいればいるほどここに表示される数字は小さくなるし、動揺すればするほど大きくなる。今度やる試合も、この数字の大小で競うの。小さいほうが勝ちって言うことね」
「なるほどな。全体を通してより冷静でいる側が勝利ってことか」
「……そういうこと。飲み込みがいやに早くてちょっと腹立たしいわ……」
(……そんなことで機嫌を損なわれてもな)
 彼は内心苦笑しながら、ファインダーの電源スイッチと思しきものを押した。ピッ、と軽い電子音が鋭く鳴る。
(ん、この音、どこかで聞いたことが……)
「……あぁ、あの時のか」
 彼は思わずぼやいた。思わぬところで探し物を見つけたような気分で意外だったのだ。
 彼が口にしてしまったことに気づいてハッとした時には、もう遅かった。
「何よ? それ、どこかで見たことでもあるの?」
 当然、来楽奈は訝しげに訊ねてくる。
「あ、いや……どっか街に遊びに行った時に聞いた気がしてな」
「……ふーん」
 しどろもどろに彼が言うと、彼女は目を細めて鈍い反応をした。無論、彼が口にしたのは嘘であって、実際は昨日の放課後──来楽奈を目にして尾行を開始する直前に聞いたのだ。おそらく、彼女がポケットの中かどこかでスイッチを入れた音を彼が聞き、そして彼女を発見してあの気持の脈動を感じた。
彼は押し黙って手の中でファインダーを軽く握った。
(……こいつがきっかけだったのか。こいつがこんだけ甲高い声で鳴いてくれたおかげで、結果的に俺がこいつと同じ部活に『ふたりきり』で所属するなんて偉業を──)
ふいに、来楽奈が彼の手からひょいとファインダーを奪い取った。
「お、おい!」
 彼は慌てて声を上げたが、意に介した様子もなく彼女はディスプレイを覗きこむ。
「52も溜まってるわ……どれだけ動揺してるのよ。嘘吐くの慣れてないの?」
「……慣れたいとは思わんけどな」
 彼はぶっきらぼうに言った。
(動揺すると数字が溜まるのか……こいつの呆れようからすると、今の数字はなかなか燃費が悪いみたいだ)
「まぁ、どこでこの音を聞いたのかは訊かないでおくわ。私、しょっちゅう学校の中で鳴らしてるしね」
 来楽奈はそう言いながらファインダーを彼に返した。彼は、自分の手が彼女の手に触れ合わないように注意して受け取る。何故か無闇に触れることが憚られた。
(学校の中で鳴らしてる……か。素直に学校で聞いたって言ったほうがまだ良かったのか)
 彼はファインダーのディスプレイを覗き込みながら思った。画面上には『52』と、デジタル表記で表示されている。桁数は最大で六桁まであるようだ。
(十万とかいう数字に行ったりするのか? 銃撃戦のど真ん中で立ち往生してたら、そのくらい行くかもな……)
「じゃあ、ちょっと対戦してみましょ」
 来楽奈はそう切り出して、卓上にトランプの山を載せた。
「対戦?」
「そう。大士戸との試合は、これをつけた状態でトランプをするの。それで、試合が終了した時点での全員の数値を合計して、低い方が勝ちってわけね」
「……なるほど。それで……その、大士戸高校が相手なんだな」
「そうよ。あの県下最強の私立高ね」
(大士戸といえば、究極の文武両道を実践してるとんでもない高校だ。部活はどれも全国クラスの実力を持ち合わせてるし、進学先も大部分が有名大学とかいう化物高校……でも、そんなところにも嘘部があるとはな)
「大丈夫。勝算はあるわよ」
 来楽奈は言った。
「本当か?」
「ファインダーを向こうはまだ持ってないらしいの。だから、これを使って徹底的に練習をしていけば、少なくとも相手よりも優位に立てるわ」
「……なるほどな」
(大士戸だからといって無条件で強いわけじゃない、か)
「その為の、これよ」
 来楽奈はトランプを指差した。至極シンプルな絵柄のトランプで、だいぶ使い古した感じがある。それから、彼女は収納ケースの中からノートパソコンを取り出した。
「それ切っておいて」
「あいよ」
 ノートパソコンに向かい、起動を始めた来楽奈の指示にしたがって、彼はトランプをシャッフルし始めた。
(割とあのノーパソ、新しいヤツだぞ。……こいつの私物か?)
「それ、何に使うんだ」
「ファインダーの数値をリアルタイムでこのモニタに映すの。実際の試合もこの形式で行われるわ」
「……何で映す必要があるんだよ」
「嘘の効果を視覚化できるようにするためね。まぁ、数値を見られるのは本人だけで、最後に一斉にオープンにするルールもあるみたいだけど、少なくとも大士戸とやる時はリアルタイム表示よ。──はい、このUSBケーブルをあんたのファインダーにつないで」
「お、おう」
 彼は来楽奈からケーブルを受け取ると、ファインダーの側面にある端子に挿しこんだ。彼女がその反対がをノートパソコン側の端子に挿れる。
 彼はディスプレイを覗きこんだ。色々とややこしそうな表示があちこちにあるが、一番肝要な部分、それぞれのファインダーが示す数値はひと目見れば分かる位置に大きく表示されていた。
「なるほどな。これで嘘をしらばっくれるのも難しくなるわけだな」
「そう、嘘を完遂するには、自分の身体まで騙さなきゃいけない」
 来楽奈はそう言って、彼が切ったトランプの山を手に取り、念を押すためか少しシャッフルをした。
「二人でできるトランプでの遊びは限られてるから……、今回は手っ取り早くポーカーでいい?」
「ああ、構わん。……正直、ルールは曖昧だがな」
「それは困るわ。役の強さがわからないんじゃあ、駆け引きが成立しないじゃない。ちょっと待って、ルールを見せるから」
 来楽奈はスマートフォンを取り出して、慣れた様子で操作を始めた。
(……あれって、最近CMでよくやってるスマホの最新機種じゃねえか。このノーパソといい、流行の最先端が好きなのか、こいつは……)
「はい、このサイトで確認して」
 彼女は卓上を滑らせるようにスマートフォンをこちらに渡してきた。彼は慌てて落とさないようにそれを受け取る。
(せっかくの最新機種をこんな乱暴に……危ないな。えっと、手札は五枚で、役はとりあえず数字を揃えればいいのか。弱い順から、二枚同数字のペアが一つでワンペア、ペアが二つでツーペア……同じ数字が三枚でスリーカード、五枚連番がストレートで五枚同じマークがフラッシュ、スリーカードとワンペアでフルハウス──って、こんなパッと見で覚えられるかよ……)
「どうせ出ないから、役はフラッシュまで覚えておけばいいわ。別段、これから本格的なポーカーをしようってんじゃないんだから。ゲームの主旨は嘘を吐くことだから」
「……おう。カードの配り方はどうするんだ?」
「シンプルに一回五枚配られたものから、何枚か入れ替えて勝負」
「……承知」
 彼はスマートフォンを来楽奈に返した。

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  1. 2012/11/18(日) 22:13:54|
  2. フィクション小説(妄想)
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レベル限界に達した後は劣化するのみ

昨日は模試監督のバイトで朝から夜までぼーーーっとする仕事をして壱万稼いだものの、もうへろへろになって帰宅して呆然としてたら今日半日くらい寝てたので割にあわないな。
というかお金全然足りなくない?
他の遊びまくったり飲みまくってる人たちのお金がどっから湧くのか。バイトしてても足りなくない? 趣味が他にない? 
人生最大の謎のうちのひとつ。

アサシンクリードⅢ買った!!
が、しかし!!
主人公のアサシンがまだ出てこない!!!!!
パイレーツオブカリビアンの東インド会社のエライ人みたいなかっこしたおっさんイギリス人をひたすら操作してるよ。……そう、実はまだあんまりやっていないんだ。プレイ時間は三時間半くらいか。
トロコンはマルチが鬼畜らしいのでまあ、出来る範囲でやろうかな。Ⅱは簡単で良かったのになあ。

というか周りから太った太った言われまくってその精神的ストレスで痩せそうなレベルなんだけど、自分でもやべえなと思い始めているので、というか最近の食事事情がおかしかったんだと今になって思い返したわけだ、内訳は2日に一回すた丼喰って、こないだはスイパラで死ぬほど食ったからだろうが、それにしてもまぁ、口では拒否していても身体は正直だなとしか感想が出てこないからなあ。
そういえば最近、ビートマニアを始めたよ。
面白いんだけどさ、新参だからアレだよね、隣の人がAAAとか取ってるのを見ると引け目を感じる。
でもこれが役に立つ場面っていつなんだろう、って考える。
まぁいいかそんな詮ないこといってもしゃーない。

小説はあとでのせときます。
  1. 2012/11/18(日) 21:18:50|
  2. 尋常の日記・雑記
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【小説】嘘と恋のデジタル数値 3(1)

 まずは下駄箱に入って上履きを履いた。それから階段を上って、渡り廊下を通る。その先の校舎の一階には部室が多く並んでいる。まさか、とは思ったが彼女は一階へと降りていった。
(これは新手の部活勧誘なのか。面倒なトコ連れて行かれたら厄介だな)
 この校舎の二階より上のフロアは普通の学校と同じつくりなのに、この部室フロアだけすべての部屋が引き戸でなく外開きの開き戸になっている。そう新しい校舎ではないのだが、最初から部室フロアにするために建設したのかは謎である。運動部の部室はグラウンドの隅に置かれているので、ここにあるのは文化部の部室たちだけだ。明かりのついている部屋からは談笑の声が聞こえてくる。何かの作業でもしているのか、妙に静かな場所もある。そうした部室を悠々と彼女は通過していく。突き当りの壁がどんどん近づいてくる。
(俺が知ってる部活は全部通り過ぎたぞ……どこに連れ込もうっていうんだ)
 結局、彼女の足は突き当りにたどり着くまで止まらなかった。校舎一番端っこの部屋の扉の前で彼を振り返る。
「ここよ。入って」
「入ってって……、俺が入るのか?」
「うん。大丈夫、鍵はあいてるから」
 彼は言われた通り、扉の前に立った。やや緊張しながらノブを掴み、ひねる。言の通り、鍵はかかっていないようだ。
 彼はそのまま扉を手前に引っ張った。開かない。鈍い音がするだけで動こうとしない。
(……引いてダメなら)
押してみたが結果は同じ、むしろ手応えは悪くなった。
「おい、開かないじゃないか」
 彼が抗議すると、彼女は予想どおりと言った風にあっけらかんとして対応した。
「まぁね。立て付けが悪くなってるの。ドアをちょっと浮かすようにしてみて」
「そういうことは先に言えよ!」
 言われた通り、扉を上方へずらすように力を入れて引っ張ってみる。しかし、さっきよりも大きい音を立てるだけで全く開く気配が無かった。
 彼が無言で振り返ると、彼女は横を向いて静かに言った。
「引いてダメなら、どうするの?」
「クソっ……」
 毒づきながら体重をかけると、さっきまであれほど抵抗していたドアが拍子抜けするほどあっさりと開いた。
「なんで、ここだけ内開きなんだよ!」
「この部屋だけ、元々は用途が違ったらしいの。何に使われていたのか知らないけどね。さあ、入って」
 彼女はするりと彼の脇を抜けて、部屋に入っていった。彼は釈然としない気分でそれに倣い、後ろ手で扉を閉める。
「なんだここは……部室なのか?」
 彼は室内を見回して言った。広さは教室の四分の一ほどしかない。他の部室でも小さいところで教室の半分はあるのだから、この部屋はとくに狭い。窓は扉の向かいの壁にトイレにあるような小さなものしかなく、照明も電球がひとつしか無いので室内はやや暗い。床はコンクリートむき出しになっており、床面積の半分にはゴザが敷かれていた。そのゴザの上には小さな円卓が置かれていて、座布団が隅に積み重なり、そのとなりには大きな収納ケースが鎮座していた。
(部屋自体はかなり粗末なつくりだが、わりと綺麗だな。こいつが掃除したりしてるのか?)
「上履き脱いで、上がっちゃって」
 彼は言われたとおりに上履きを脱ぎ、ゴザの上に載った。彼女も彼に続く。
 二人は適当に座布団を敷いて座った。部屋の中は時が止まったかのように静かで、遠くの部室での会話が雑音となって聞こえてくる。
(……この狭い部屋に二人っきりか。あれからとんだ成り行きになったもんだ)
 彼がしみじみとそんなことを思っていると、彼女は静止した空間を裂くように口を開いた。
「さっきの質問に答えると、ここは部室よ。一応、正式な認可を受けてるわ」
「一応、ねえ。それで、俺をここへ勧誘しようとしてるわけかい」
「まぁね。入ってくれる?」
「いいぜ、入ってやるよ……って言うとでも思ったか?」
「言ってくれれば楽だったのに」
 彼女はついと視線を逸らした。彼はため息を吐く。
「何にも教えてもらってないのに、二つ返事ができるわけがないだろ。部活名どころか、あんたの素性どころか俺は知らないんだ。『献血研究会』みたいな場所だったら俺はさっさと帰るぞ」
「献血は嫌いなの? 人間の血液は常時飽和状態にあるから、定期的に血を抜くのは身体にいい事なのよ?」
「……流石にそれは信じねえぞ」
「初対面だったらころっと信じたかもね」
(──否定出来ない)
 彼は一瞬心中で苦い顔をした。
「じゃなくて! 情報を教えろって言ってるんだよ!」
「普通はここに連れてこられる前に、訊いておくものなんだと思うけどね。キャッチセールスにつかまりやすいタイプよ」
 彼女は呆れたように言った後、少し真面目な顔になった。
「いくら鈍い人でももうわかると思うけど、昨日教えた名前は嘘だから。私の名前は大宮来楽奈、二年三組よ。よろしく」
「お、おう」
 彼は戸惑いつつ応えた。昨日のプロフィールは全くのデタラメだった。初対面であそこまで派手な嘘を吐くとは、肝の据わり方が一般人と違うらしい。
「そして、この部屋を部室として持つ部──、嘘部の部長でもあるわ」
「……嘘、部?」
 彼は思いっきり怪訝そうな顔をした。
「そう、嘘を吐くことを活動の中心とする部活。分かるわよね」
「……いや、さっぱり分からん」
「またこれも嘘かと思うかも知れないけど、お生憎様なことにきちんと書類も整ってるのよ」
 来楽奈は収納ケースのフタを開け、中から幾枚かのプリントを取り出し円卓の上に広げてみせた。彼はそれを引き寄せて内容を確認してみると、なるほど、学校から『同好会』としてでもなく、正式に『部活』として認められているらしい。
「凄いな。嘘を吐くための部活が認められるなんて……」
「ここに至るまで、歴史があったみたい。でも、今では部員が私一人の超弱小部活よ」
「……それで、俺をこの部活に引き込みたいのか?」
「そういうこと」
 まっすぐ彼の目を見て、来楽奈は頷いた。さっきから適当なことを言われっぱなしだったが、何故か今、彼を見つめる彼女のことだけはこの上なく信用できるような気がした。
(ズルいな、こいつ。表情の使い分けがなってやがる。だが、大宮の言ったことで気になるところがあるぞ……)
「訊きたいことがあるんだが……」
「どうぞ」
「別段、人数が少ないから集めようとするのは不思議じゃないが、どうして同学年の俺なんだ? 部活を存続させたいのなら一年生から取って来る必要があるだろ」
 すると来楽奈は目を少し細めた。
「あんたは偶然そういう成り行きだっただけで、きちんと一年にも勧誘はしているわ。全くと言っていいほど引っかからないけどね」
「ぐ、偶然って……ていうか、何で俺のことも誘ったんだよ。成り行きってなんだ、成り行きって」
「部活やってないっていうから誘っただけよ。……ちょっと強引だったと自分でも思ってるけど、でも全く情報を教えないでもついてきてくれたあんたって、結構な物好きよね」
(確かに、お前じゃなきゃついていかなかっただろうな……って、何考えてんだ俺は)
 急に高まり出した脈動を彼は露呈しないように抑えつける。
「そ、それは置いておいてくれ。んで、活動は何やってんだよ」
「上手な嘘の研究よ」
「上手な嘘、って言われてもなぁ……」
「上手な嘘と下手な嘘ってあるでしょ? その言葉が真実かどうか分からなくても、発言者の態度とか表情とかで『あ、この人嘘吐いてるな』って分かるのは下手な嘘だし、そういうことが伺えないのは上手な嘘。後、うちの部ではリアクションまでがその評価の範疇に入ってるわ。まぁ、これに関しては言葉の選び方とか演出とかも考えなくちゃいけなくなるから、主に鍛えるのは前者の方、バレないように嘘を吐く方ね。これが自然とできるようになれば、良いリアクションも出しやすくなるしね」
(ポーカーフェイスがバレないように、相手にえっ、と言わせるような嘘が理想的ってことか)
「あんたは見た目からして単純そうだから、そういう人が嘘を吐くほど相手は騙されやすいし驚きやすいから、あながち私の人選も間違ってないと思ってるわ」
「……それは心からの本音ってことにしておくぞ」
「ご自由に。……それでね」
 来楽奈はふいに視線を落として言った。
「この部活、今崖っぷちなの」
「……崖っぷち?」
「そう。私が一年の時は、三年の先輩たちが割と多くいたから平気だったんだけど、今年に入って先輩たちが卒業していった途端、学校からの圧力が強くなって……、それはそうよね、嘘を吐くなんて反社会的な活動をしてるんだもの」
「自覚はあるんだな」
「もちろん。……なまじ正式な部活として認められてるから、この高校のパンフレットとかにもこの部活を載せなくちゃいけないでしょ。そうなると……印象が悪くなるからって学校側としてはこの部活を取り潰したいと思ってるの」
(そんな部活がよくぞまあ、公式に成立できたもんだな)
 彼は名も知らぬ先輩たちに感心した。
「っていうことは、学校から何か警告でも来たりしたんか?」
「そう。『奈岸南高校として、公式に記録が残る試合で勝利を収める』、さもなければ部活停止、そのままいけば廃部……そういう通達がされてるの」
 そう言う彼女の顔は強ばっていて、さっきまでの飄然とした面持ちが嘘のようだった。本気で嘘部が廃止されるのを恐れているらしい。
 彼はこめかみのあたりを人差し指で掻いた。
「公式の試合ねえ……、この部活にそんなものができるのか?」
「……私も一度は絶望したけど……、県内にもここの他に一つだけ嘘部がある高校があるらしいの。そこと親善試合をして勝ちさえすれば、公式記録になって部存続の理由にすることができる……だから、何としてでも私はそれに勝ちたいの」
(……こいつ、この部活によほど愛着があるらしいな。俺だったら、すぐに諦めちまうところだ)
 淡白に嘘を吐き続けるだけの人間ではない、こんな人らしい感情も持ち合わせている。それを突きつけてくれている。こんな、単純な自分に──。
 彼はもう、この言葉を言わずにはいられなくなった。
「いいよ、入ってやるよ」
「えっ?」
 来楽奈は大きく目を見開く。彼はもう一度言ってやる。
「嘘部、入ってやるって言ったんだ」
「えっ、でも、いいの? その……こんなあっさり決めちゃって……」
 急にしおらしい口調になった。まるでイタズラをした子供が言い訳をしているようだった。
(これは素の反応だよな? だとしたら……このギャップはとても素晴らしい)
「さっき自分で言ったろ、俺は暇なんだ。練習は大してキツそうでも無さそうだし、それに──……」
「それに?」
「いや、何でもない」
 彼はでかかった言葉を何とか飲み込んだ。
(お前と一緒に居られるなら何でもいい……っていくらなんでもクサ過ぎだろう)
 ──半分は同情からで半分は下心だった。別段、彼にとって嘘部の存続はどうでも良かった。嘘部が生き延びようと滅びようと、彼と来楽奈が知り合えたことに変わりはない。もう、この事実だけで彼は満足だった。
 逆に言えば、嘘部について不真面目だったから、ここまで軽く入部を承諾することができたのだろう。真面目な人間ならば、大人しく断ってこの部屋を後にしていたはずだ。
 来楽奈にとっての幸運は、彼のタイプが彼女にそのまま当てはまることだった。

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  1. 2012/11/13(火) 21:41:22|
  2. フィクション小説(妄想)
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【小説】嘘と恋のデジタル数値 2(1)

「きゃっ!」
 彼女は高い声を出して驚き、振り向いた。
(まずったな、思わず声をかけてしまった。相変わらず俺は思慮が浅いというか……)
 彼は驚愕に染まった彼女の顔を見て、背中に嫌な汗が湧いてくるのを感じた。──それと同時に、胸のあたりが疼くような感覚も覚える。
(今、俺ドキッとしたのか……)
 近くで見るといっそう、彼女の可愛らしさは際立って彼の目に映った。背丈は女子の平均くらいだろうか、自然と背の高い彼を彼女が見上げる形になる。そんな上目遣いに晒されて、この娘の前で失態を晒したくない、という思いが彼に勢いを与えた。
「あああっと、俺は別段全く怪しくもない、偶然帰宅途中に遭遇してしまった者なんだが、その、たまたま一部始終を目撃してしまってだな……えっと、思わず慰めの声をかけたくなってしまって……その、ドンマイ、ってことで」
「はぁ……それは親切にどうも……」
 彼女は警戒するような目で彼を見ながら、両手を背中に回した。
(印象悪くしたか? でもここで突撃してしまった以上、心象が悪くなるのは避けられないはずだ……俺はよくやったよ)
「今の、全部見てたの?」
 気を取り直すように、彼女は質問をしてきた。
「ま、まぁ行きずりで」
「どうしたらこんな人気のないところを通りすがれるのか不思議なんだけど……」
(……全くもって、その通りだな)
「まぁいいわ。──これだけは言っておくけど、くれぐれも口外しないで。相手もバカじゃないからベラベラ話すような人じゃない。この噂が広まってたら、あんたがバラしたって考えるから、そのつもりでいて」
「あ、あぁ……」
 彼は呆気に取られて頷いた。
(なんかフラれた割には全くこたえてなさそうだな……もしかして──)
「……そういえば、どこかで見た顔だと思ったら」
 彼の思索がとある可能性に行きつく直前で、彼女が彼の顔を凝視して言った。
「もしかして、あんたって柏座って言う人だったりする?」
「俺の名前を知ってるのか?」
 彼はひどく驚いて反問した。
「すごくバカそうに見えるのに実は頭が良いとかって評判じゃない」
「なんだよ、その評判は。初めて聞いた」
「本人が噂を知らないのは当然でしょ。噂なんだから。……まぁ、絡んだのはこれが初めてだけどね。よろしく」
「お、おう、よろしく……って、俺の方はあんたのことを知らないんだが」
 彼が言うと、彼女は一瞬だけ目を少し見張って、沈黙した。
(う、何か琴線に触れるようなこと言ったか? でも、あんまり心外そうでもないな。何か、ディスクがデータを読み込んでる最中みたいな、必然的な間って感じだ)
 沈黙はそう長く続かなかった。
「……私の名前は、堺洋子」
「堺さんか。クラスは?」
「クラス? クラスは、七組よ」
「七組、か」
(……どうりで知らないわけだ)
 彼は一組に属しているのだが、彼の行動範囲は二組までなので、それより先のクラスのことをよく知らないのである。──ちなみに、親友の新島は二組だ。
 ふと気がつくと、洋子がじっと彼の顔を見つめていることに気づいた。その視線に、彼はぐっと息がつまるような心地になる。
「な、何か?」
「何、って?」
 彼女は首をかしげた。
「……いや、そんな俺のことを見るから何かなーって」
「ごめんなさい。ちょっとしたクセなの。気にしないで。ところで、今の時間こんなところにいるってことは、あんたって部活してないの?」
「部活? やってない。あんたは?」
「……私もやってないわ。奇遇ね」
 洋子は薄い笑みを浮かべた。彼もつられて頬を緩める。
「まぁ、この学校じゃ珍しいことじゃないだろ」
「それもそうね。──ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、あんたって結構昼休み暇してるの?」
「ん?」
 彼はパッと、新島の顔を思い浮かべた。昼休みは大概、新島と過ごすことが多いからだ。
(でも、あいつの付き合いはお互いが暇だっていう前提で成り立ってるんだよな……。おい、今俺の目の前に居るのは、どういう人物なんだ? ……俺がもしかしたら一目惚れして、思わず尾行しちまった人物だぞ)
 彼の天秤は洋子の方に大きく傾いた。
「暇だ」
「そう。ちょっと込みいって話したいことがあるの。明日の昼にうちのクラスまで来てくれない?」
「話? 話って一体何の──」
「私は今、ここに長居したくないの。だから、仕切りなおして話がしたいわけ……、ダメ?」
(マジかよ。棚ボタってこういうことを言うのか……)
 彼は状況次第では小躍りを始めそうなほど、心中で歓喜していた。まさか、自分の軽率な行動がここまでの発展に至るとは思いもよらなかった。
(やっぱり人生、行動したモン勝ちなんだな)
 無論、そんな内面など微塵にも感じさせないように、彼は言った。
「あぁ……まぁ、構わないぞ。昼休みに、七組に行けばいいんだな?」
「そう。堺を呼んで、って誰かしらに言ってくれれば大丈夫よ」
「分かった」
「それじゃあ、また明日ね」
 洋子はさらりと別れの告げ、彼の脇を抜けて去っていった。そういえば、彼女は手ぶらだった。荷物をどこかに置きっぱなしにしてあって、それを取りに校舎へ戻るのだろうか。
(……帰るか)
 洋子が傍に居なくなって、徐々に興奮も冷めてきた。彼女を目撃してからの自分の一恋の行動を思い返すと、あれは、下心を否応なしに抱かせるようなアブセッションがそうさせたのだろうか。だとしたら、彼自身が定義したように、彼は洋子に恋心を抱いた、あるいは抱きかけているといってしまっていいのだろうか。
(……それにしても)
 彼はふっと、頭の中で話題を転換した。
(あいつと話してる最中、なんか時々違和感があったんだよなあ。なんだったのか、結局分からずじまいだったが……)
 言動、しぐさ、表情。できるだけ頭の中で再現してみたが、それでも違和感の正体ははっきりしない。
 彼は考えこんだが、少しすると合点がいく答えが見つかった。
(そうだ。失恋直後にしては、やけに普通だったんだ……飛び入り参加の俺にまで対応できるくらいの余裕がおかしい。確かに大人しそうではあったが、そこまで感情の起伏が薄いようには見えなかった。……明日、会ったら問いただしてみるか)

翌日の昼休み、彼は真っ先に七組の教室へ向かった。
どこのクラスも同じ様に教室内は昼食陣形になっていて、七組も例外ではなかった。そんな他者を締め出すような空気を感じないかのように、彼は教室の入口に立って付近の適当な男子生徒に話しかけた。
「ちょっと、堺さんを呼んでくれないか」
 すると、その生徒は怪訝そうに顔をしかめた。
「ん? サカイ?」
「あぁ、堺洋子って女子がいるはずだ」
「……そんな女子、うちのクラスにいたっけ?」
 その生徒は隣の生徒に訊ねる。質問を受けた方の生徒も反応は鈍かった。
「いないと思うけど……」
「そんなハズがあるか。そいつ本人が、ここに来いって言ったんだぞ」
「そんなこと言ったって、いないもんはいないし……」
 その二人は困ったように顔を見合わせた。
(どうせこいつらは知らないだけなんだろう。俺だって、クラスの女子はどれも同じ顔に見えるからな。だとしたら、誰か女子に聞けるのが一番良いんだが……)
 そう彼が考えた矢先に、声がかけられた。
「あれ、柏座君、何してるの?」
「ん? あぁ、横坂か」
 振り向いた先には横坂夕子が佇んでいた。小さな体躯とぱっちりとした瞳が、小動物の様な印象を抱かせる少女だ。そして、可憐という形容がふさわしいかも知れない。件の恋人ができたことによって、何故かこの学校内で有名になりつつある当人である。もっとも、彼はその相手の名前も容姿も知らないのだが。
「こんなとこで何してんだ?」
「何してるって、ここわたしのクラスなんだけど」
「マジでか! それは知らなんだな」
「今まで知らなかったの? 流石、柏座君だね」
(流石ってな……)
 彼は堺洋子の「すごくバカそうに見える」という発言を思い出す。
(本当に俺はバカキャラとして認識されてんのか?)
「それで、こんなとこで何してるの?」
 夕子は彼の言ったセリフをそのまま返してきた。
「あぁ、俺か……俺はクラスの奴に用があってきたんだ──あ、そうだ、お前さ、そいつを俺のとこに呼んできてくれないか?」
「ふぅん、いいよ。誰を呼べばいいの?」
「堺洋子って奴なんだが」
「サカイヨウコちゃん?」
 語尾にあからさまな疑問符がついていた。それを聞いて、彼の頭にパッととある良くない可能性が浮かんだ。その悪い予感を押し流すような勢いで慌てて彼は口を開く。
「ほら、いるだろ、髪が長くってちょっと生意気そうな顔した女子が」
「えぇ……、でも、うちのクラスにはいないよ。その子がここって言ってたの?」
「あぁ、間違いない」
「……んー、いないって証拠見せないとダメみたいだね。ちょっと待ってて」
 意固地に主張する彼に、夕子はいささか呆れたような素振りを見せて教室へ駆けていった。彼一人がそこに残される。周囲にいる生徒たちの大半はそんな彼の様子を遠巻きながらに眺めていた。その視線に耐えるように、そしてじれったく思いながら彼は待った。
 夕子はすぐに戻ってきた。
「はい、コレ見ていいよ」
 そう言って手渡してきたのは『七組』と書かれた名簿。彼はすぐさまそれを開いて、ずらりと並んだ名前に目を走らせていった。
 だが、どこにも堺洋子の名前は載っていなかった。
「……い、いい加減諦めなよ」
 と、夕子になだめられるまで、十分あまり彼はその名簿を睨みつけていた。
「と、すると……俺はハメられたのか……」
「ねえ、その、堺さんっていう人がどうしたの?」
 落胆しているところへ夕子が訊ねてきたので、彼は素直に事情を話した。
「うーん、きっと、柏座君に因縁付けられたと思ってその場凌ぎで偽名を使ったんだよ」
「そうか、確かにあの状況を振り返って見れば、俺は突然絡んできた謎の男だもんな。よく分からない変人だと思われて、咄嗟に嘘を……」
(なるほど、それならあいつが早々に話を切り上げようとしていたのも頷ける)
「残念だったね。割と楽しみにしてたんでしょ?」
 夕子のイタズラっぽい上目遣いに、彼は目を丸くした。
「な、何を言うかっ。俺は頼まれたから仕方なく来てやったわけで──」
「その割にはすごいがっかりしてるみたいだし……、少なくとも嫌じゃなかったんでしょ?」
「……まぁな」
 彼は恥じらいを隠すように、ぽつりと言った。

「……待ってたわ」
「…………」
 彼は唖然として立ち止まった。目の前に現れたのは他でもない、あの堺洋子だったからだ。ただ、昨日と同じく大人しい風のように下校しようとして、通りかかった校門の陰から彼女がぬっと出てきたのだ。
(これで驚かないのは無理ってもんだぞ……、もう二度と会うことなんて無いと思ったのに、あっちから会いに来てくれるとは……)
「な、何の用だ」
 彼はなんとか口を開いた。洋子の顔を目の前にしてしまうと、騙されたことを毒づこうという気すら起こらない。
 彼の質問に彼女は素っ気なく答えた。
「昼休み、本当に七組に行ったそうね」
 彼はぐっと喉に何かが詰まるような心地がした。
「あぁ、まんまと騙されてやったぜ──、って何でそんなこと知ってんだよ!」
「噂で聞いたの。昼休みに、あの横坂夕子に詰め寄ってた輩がいたって話題になってたわ。彼女は七組だから、十中八九、あんたのことだろうと思った」
(別に詰め寄った覚えはないんだが……)
 彼は心のうちで弁明した。
「それで、成功したドッキリのターゲットの前に、何しに来たんだ? バカにしにきたのか?」
「そうよ、バカにしにきたの」
 さらりと彼女は答えたので、却って彼の方が困惑した。
「は、はぁ? あ、あんたも暇だねえ」
「……嘘に決まってるでしょ。どこまで単純なのあんたは……」
(クソ、なんなんだよこいつは……)
 思えば初対面であんなひどい偽情報を掴ませてきた相手なのだから、その言葉を鵜呑みにするのは愚かしいというものだ。
(見た目どストライクだからすごく惜しいが、ここはさっさと逃げるが得策だな……)
「本気で冷やかしに来ただけなら、帰るぞ俺は」
 彼はそう宣言して、彼女の脇を通りすぎようとした。すると、彼女は半ば慌てたように彼の腕を掴んだ。二の腕に制服の上から少しの温もりと共に圧力がかかる。
「なっ──」
「待って」
 彼女はそのまま彼をぐいと引き寄せた。急に彼女の顔が近づいてきて、彼は息が詰まる。
「昨日、私が色々と嘘を吐いたのは分かる?」
「あ、あぁ、昼休みの件だけで嫌というほど分かった」
「今になって、あれが嘘だって分かるのは当然よ。問題は、昨日私と話してる時点で、私が嘘を吐いてるって少しでも思った?」
「……いや、お、思ったら七組なんかに行ってないだろ」
「本当に? 少しでもおかしい、とか思わなかったの?」
「だから思ってないって──いや、ちょっと待て……」
 彼は、昨日彼女と別れた直後に覚えた僅かな違和感を思い出した。未完成のパズルをそのままゴミに出してしまったような、もやもやとした感覚が仄かに彼の胸の中に芽生えていた。
「かなり微妙にだが……違和感はあった」
「そう、良かった。それはそうよ、私は意図的に嘘を吐いた部分を不自然に仕立てたんだもの」
「……は?」
 彼が綺麗な疑問符を浮かべたところで、彼女は彼の腕を離して言った。
「今、暇なんでしょ? 部活やってないんだから」
「……まぁな」
「ちょっと、来て欲しいところがあるの。一緒に来てくれない? ……ダメ?」
 少し首を傾げて伺うような目付きで彼のことを見る。
(こういう頼みごとをする場面で、いきなり引いてくるあたりが狡いっ……)
 彼はほとんど二つ返事で了承した。まだ、さっき掴まれた二の腕に温もりが残っているような気分だった。

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  1. 2012/11/11(日) 20:03:24|
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DID

今日は二週間ぶりにサークルの練習に顔を出した。
サボってたんじゃなく! 行けなかったんだ!
まあそこまで厳しいとこじゃないからね。厳しかったら行ってるからね。
一年とはいえ、来年の役職を決める会議があった。
僕は無職希望を出した。アリらしいから。世話役に言われたので希望していた。
しかし! それは罠だった!
逆に言えば壮大で面倒くさい余った役職に突っ込まれるという罠だったのだ!!
どうなる、私の未来……。
まあ割と開き直ってるけどね。別に大変でも今じゃないしいっか、って思ってる。
問題先送りの俺!

今日は疲れたので小説の更新はあしたします
  1. 2012/11/10(土) 23:17:43|
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【小説】嘘と恋のデジタル数値 1(1)

第一章 緊張ヒアリング
 梅雨が近づいてきている。まだ涼しくて過ごしやすい季節ではあるが、確実に夏の到来を感じさせる時期になってきた。
 空腹も近づいてきている。授業はまだ終わらない。この英語の授業は彼の中で鬼門だった。担当は佐々木という名前の、白髪で健康そうな男を描いてくれと誰に頼んでも出来上がりそうな風貌の壮年な教師だ。授業の方針はすこぶるカタい。そのカタさと言ったらジョーク大好きなALTが冗談を慎んでしまうほどだ。
 しかし彼が気にしているのは、教師の性格ではない。授業のやり方だ。佐々木の授業は生徒をランダムで指すのが特徴である。一回指名されたからといって、もうその時間は安泰ということがない。連続で指されることもザラにある。そして答えられるまで延々と質問を続けるのだ。彼はそれがとても嫌で毎回、この授業になると下を向いてひたすら指名されないことを祈り続ける。
「ではこの文を訳してもらいましょう……、皆川君」
「……はい」
 彼は安堵した。皆川は予習をしていないのか、しどろもどろになってなかなか答えを口にできない。嫌な緊張が教室に満ちていく中、彼は時計を凝視してその気まずい時間がいつまでも続くことを願っていた。ここでしょうもない奴が時間を稼いでくれる方が嬉しいからだ。ちなみに、彼はもちろん予習などしていない。指名されたら皆川と同じ運命をたどることは目に見えている。これで次に彼の名前が挙がれば、皆川のような反応をすることになるだろう。そうなると、よりどす黒い汚名を被ることになるのは彼だ。
 二分ほどかけて皆川は解答を苦し紛れながら紡ぎだした。授業が再開される。今日は割と指名が少ない。このままいけば、授業の終了までに指名されるのはせいぜい一人か二人だ。
(これはいける……)
 彼は思わず上目遣いで佐々木の方を見やった。すると、佐々木もこちらを向いたような気がして、咄嗟に机に視線を落とした。
(今、目が合ったか……?)
 心臓を動かす筋肉が硬くなってくるような心地がした。
「……では、今日はこの例文を訳してもらっておしまいですね」
 指名の時間だ。佐々木がクラス名簿に目を向ける。彼は息を止めた。当てられたらどうするか、なんてことは一切考えない。ただ、別の名前が呼ばれる未来を待つだけだ。
「ええ……と、では、か……」
(か?)
 思わず彼は止めていた息を流した。冷たい空気が肺を突き抜けて臓腑に染みていくような気分だった。
(か、の次に、何を言う……し、は止めろ、ホントに……柏座瞳太とは決して、何が会っても言うなよ……そう、地球をぶっ壊しに超弩級の隕石が降ってきて「柏座瞳太を指名したら地球を救ってやる」って言ってきたら別に言っていいが、それ以外は、断じて……!)
 彼がそう祈念した一瞬の間に佐々木は唇を湿らせて、慈悲など知らないような声で言った。
「樫井さん」
 一瞬、どっと嫌な汗が流れたがすぐにホッとして机に静かに突っ伏した。心臓に悪すぎるが、これで何とか今日は怪我無しで生き延びられた。
(ちなみに運が悪かったらどんな事を言わされていたんだ、俺は……)
彼は思って教科書をちらりと見てみた。
(……俺が初見でも分かるくらい簡単だ……別にこれは当たっても問題なかったわ……)
 ひどく脱力してため息を吐いたのと同時に、チャイムが鳴り響いて授業の終了を告げた。

「そういうわけで、今日の英語は無事に幕を閉じたわけだ」
 彼がやけに得意げなので、聞き手の新島涼平は苦笑した。
「よくもまぁ、佐々木の授業でそこまで遊べるわな」
「何? 俺は遊びでやってるんじゃねえ、本気でやってる」
「じゃあ本気で遊んでんだわ、大したもんだ。俺だったら素直に予習していくけどな」
 新島涼平は彼と同じクラスではない。しかし、この学校、奈岸南高校に入って最初に知り合った友人ということで、こうしてよく昼休みに屋上やら中庭やらで会食している。今日はどこへ行っても人だらけだったので、人気のない剣道場近くにある階段の踊り場に、二人並んで地べたに座り込んでいた。
「予習してたら意味が無いだろ。あの緊張感を克服するだけの胆力が今の時代求められてると俺は見てる。いざって時に反吐が出そうな気分になってたらどうしようもないだろ」
「ふぅん……そのへんは割と考えて行動してるのな」
「当たり前だ、俺は目的無しに物事をしようとしない」
 彼はやたらと自信に満ちた風に断言したが、新島は乾いた笑いを上げるだけで本気にしなかった。
「そうかい。じゃあ、将来俺がゲロ吐きそうになったら代わってくれよ。──そういえば瞳太、例の話は聞いたか?」
「例の話っていうと」
 彼は朝に拵えてきた焼きそばパンを包みから取り出しながら呟いた。
「横坂の件か」
「そりゃまあ、誰でも知ってるか」
「当たり前だ。ファッション雑誌からスカウトを幾度も喰らったことがあるほどの容姿を持つ人物が、誰かと恋をおっ始めたなんて噂はすぐ広まるに決まってるだろ」
「……やけにぶっきら棒だな」
「女子がやたらとその話題で持ちきりにしてたからな。教室に隅っこで耳塞いでても聞こえてきやがる。もううんざりだ」
 彼は語尾を吐き捨てながら、焼きそばパンに思い切りかぶりついた。
「なるほどね」
「俺が気に入らんのは『リア充』とか言ってやたら騒ぐところだ。たかだか恋愛してる程度で、リアルが充実しているかどうかのバロメーターにするなんて価値観がいくらか狭すぎやしないか? 恋が始まったところで、すぐに行き詰って悶々とするカップルがどれだけいると思ってるんだ。そういう奴らにリア充って呼称は皮肉以外の何でもないだろ。要するに、自分とそういう話題の対象とを比較して、嫉妬してるんだよ、連中は」
「ははっ、やけに饒舌だなあ。心底ではお前も嫉妬してるんじゃないのか?」
 新島が面白そうに言ったので彼は飲み込んだ焼きそばを飛ばしそうな勢いで反論した。
「アホかっ。どうして俺が嫉妬しなきゃならん。リア充なんて俗っぽい称号なんてこっちから願い下げだ」
「だからその食いつき具合がまた却って意識してる証拠なんだよ。全く興味が無いんならさらっと話題を受け流しちまえばいいものを」
 新島がそう言うと彼は真顔になった。
「……たしかに」
「目的なしに物事をしないって言ったのはどこの誰だったかな」
「……まぁ、横坂の性格を見るいい機会になるだろ。どれだけ続くかっていうバロメーターでな」
「お前の性格が悪いことはこれで十分分かったよ。ついでに恋に無関心ってこともな」
「おお、よく分かってくれたよ」
 彼はパンの最後の一片を呑み込んで言った。何故だか自分に言い聞かせているような響きを帯びていたが、彼は全く自覚していなかった。

(涼平が妙なこと言ったからか、更に意識しちまった……)
 終業のホームルームが終わった頃には、彼はすっかりげんなりとしていた。
(しかも考えをはじめるたびに、最終的に『恋とは何ぞや』とかいう疑問に至る。堂々巡りで授業がいつも以上に疲れたぞ……)
 しかしながら新島の言っていたことは妙に的を射ていて、そこが尚更苛立たしくて悔しいところであった。まず、新島はそこまで知らなかったらしいが、彼自身横坂とある程度の交流を持っていた。彼が高校に入学してすぐの部活見学で、親しくなったのが横坂だった。それ以来、会うごとに挨拶をする程度の仲に落ち着いたものの、それでも彼は彼女のことを意識していたのだが。
(まぁ、何もしなかったんだから何の進展もないのは当然で、何かした奴のところに何かご褒美があるのも当然のことで……、俺が何もしなかったということは、ただ横坂は俺の中でその程度の人間だったということで……)
 そんな言い訳じみた独白を頭の中で繰り返している。
(第一、俺が行動に駆り立てられるようなエネルギーを生み出す恋って何なんだよ。そこからだな、まず。……またこの題目に戻ってくるのが腹立たしいが)
 腹立たしさを誤魔化すように彼はカバンを持ち上げて教室を出た。ちなみに彼は部活に入っていない。部活見学に行ったことこそあるものの、横坂と知り合った陸上部のそれしか行ってない上に、一回きりしか顔を出していない。あまり彼は先輩というものが好きになれない性質ので、運動部ではそりが合わなさそうだと判断したのだ。とはいえ、文化部に入るような性格でもないので、自然無所属ということになった。
 帰宅時の廊下は割と混雑している。その中を彼は淡々と歩いていった。
(しかし、恋なんぞについて一切触れようとしないのは、逆に俺がとてつもなく好きになるような相手が居ないからなんじゃないのか。横坂については、あわよくばなんて感じで、たまたまでも顔を合わせられれば良いようなもんだったからな)
 もうなんといっても言い訳じみてくる気がして、彼は半ば開き直ってきた。
下駄箱に到着した。別段、早く家に帰るのが喜ばしいわけではないが、それでも部活に向かう生徒を後ろ髪を引かれるような思いを抱いたことはない。彼は靴を投げ出し、突っかけるように履いて外に出た。
(言い方を変えると、万人を惹く魅力を持った横坂に完全に負けていたわけだ、俺は。つまりこれは恋なんかじゃない。愛玩動物を見て和みたいっていう欲求と似たもんなんだ)
 帰宅する生徒に部活に向かう生徒でごちゃごちゃしている中を、彼は淡々とした足取りで歩いて行く。
(恋って言うからには、下心を否応なしに抱かせるようなアブセッションがあるに決まってる。ストーカーだってその強烈な誘惑に負けた奴の末路じゃないか。そんでもって、その異性に強く惹かれる何かっていうのは、自分の中にあるに違いない……それがタイプというものか)
 彼は眉根にシワを寄せた。
(俺のタイプ……冷静に分析したことがなかったな。どんな女性が好みかって……まず髪は長め……セミロング以上で色は別段どうでもいいか。幼い顔つきはダメだな、すっとした顔立ちがいい。でも目元にはどこかあどけなさが残るような風貌。性格的には前傾気味な方がいいな、引っ込み気味はいまいち好きになれない。でもどこか命綱を持ってやんないと危なっかしいような……──)
 彼はそこまで考えてから、不機嫌そうにため息を吐いた。
(そんな理想の女がいるわけないよな、常識的に考えて)
 どうしてここまで恋愛について考えこんでしまうのか、彼は自分自身でよくわかっていない。それ故に、いっそうこの分析は苛立ちを膨らませた。
(……くそ、こんな気分になったらさっさと家に帰って──って、ん?)
 彼が足を早めようとしたその時、どこかで電子音のようなピッという音を聞いた。彼は思わず立ち止まって周囲を見渡す。
(……気のせいか)
 彼はそう思って前を向き直そうとした──が、そうする前に一人の女子に目が留まった。彼と同じ学校の制服を着ていて、黒い艶やかな髪が長く背中の真ん中ほどまでに流れている。丸顔よりも少し細いなめらかな輪郭にすっとした目元はどこか大人の雰囲気を漂わせているが、その表情は歳相応のあどけなさが残っていた。
(……あ、あれは……)
 瞬間、雷鳴のような衝撃が走って思考が彼の頭の中から消え去った。視線はものの見事に彼女へ釘付けになってしまった。
彼女はまさに、先ほど彼が考えた「どストライク」な女性像とマッチしていたのだ。
その女子生徒は彼に目も暮れず、彼とは違う方向──校庭の方へ歩いていく。帰宅ではないらしい。部活でもあるのだろうかと思ったが、手ぶらだ。
(何で手ぶらで外を歩いて──痛っ!)
完全によそ見をしたまま歩いていたので彼は校門にぶつかった。帰路を急ぐ生徒たちが何事かと彼の方を見る。その視線を浴びる恥ずかしさとしこたま打った鼻の痛さに、そこはかとない怒りが湧いてきた。彼は好奇の視線を寄せる生徒たちに鋭い視線をぶつける。
(……彼女はどこへ行った?)
 だが、突然彼の脳内にそんな疑問が湧いて、理不尽な怒りは消え去った。踵を返してあの女子を探す。数瞬後、遠くに彼女の背中を発見した。彼は何も考えずその後を追うように歩き出す。
 校庭ではサッカー部がアップを始めていて騒がしかった。彼女はその脇を悠々と通り過ぎる。彼はその後ろを、バレないようについていく。
(学年カラーが俺と同じだ。つまり同学年だが……でもあんな女子居たか?)
 彼は内心首を傾げたが、そもそも彼が認知している人間は学年でも三分の一程度しかいない。彼女がその範疇に入っていないのも無理はない。
(……どうして俺はそんな見も知らぬ女子のあとをつけてるんだ?)
 そう自問してから、すぐに彼はひとつの可能性にいきつく。
(……俺は、あいつに惚れたのか?)
 一目惚れ。
 そんな言葉が脳内で点滅した。
(そんなバカな。……そんなはずないよな? 俺はあの女子とは関係なしに、自分の意志でこの道を通ってて、あの女子はたまたま俺の前を歩いてるだけ、だよな……?)
 ちょうどその時、彼女は曲がり角に消えていった。彼はぎょっとする。
(この角、体育館の角じゃねえか……。つまり、この角の先は体育館裏……)
 放課後の体育館裏に一人で手ぶらの女子が向かっていった。
この事実が端的に示す可能性、それはあの女子が『告白』の現場に向かった、ということになる。受ける側なのか、する側なのかは分からないが──。
そんな想像が浮かんでから、彼の身体は勝手に動き始めた。彼女が曲がっていった角に張り付き、向こう側を覗きこんでみる。すると果たして、彼女は少し先で立ちすくんでいた。まるで、誰かを待ちわびるように。
彼は、無性にこれから起こる展開を見たいと思った。ここでおとなしく帰ってしまったら一生後悔することを神様に確約されたような気分だった。
少しばかりすると、彼が居る反対側の角から男子生徒が現れた。あの女子よりも頭一つ分背が高い。百八十センチ以上ありそうだ。顔は細く少し彫りが深い。制服から判断するに、学年は彼と同じ。遠目で観察できる特徴といえばその程度だった。
(まぁ、割とイケてる顔だな……)
 彼はぼんやりと思った。
 やがて、女子生徒の方から何かを切り出した。彼の居る位置からでは何を言っているのか分からない。
「問題ない。それで、用というのは?」
 男子生徒の方が言った。声の主が彼の方向を向いている上に、元々声が大きいのだろう、聞き耳を立てずとも聞き取ることが出来た。
(用……女子の方が呼び出したのか)
 彼はなんとなく緊張した。これから何が始まるのか、大体察しがついてしまった。
第三者の彼が硬くなっているのに、当事者二人には緊張している様子が無かった。
女子生徒が何かを言った。少しばかり長いセリフだった。言い終わってからの沈黙も少しばかり長かった。
やがて男が返答をした。
「悪いがそれはできない。俺は君のことを少しは知っているが実際に会話したのは初めてだ。よく知らないままに付き合うというのは、俺の中ではタブーだ」
(知らないままに……付き合う?)
 彼は呆然とした。本当に、これは告白の場面だったらしい。そう確信すると同時に、彼は自分が安堵している事に気づいた。
(……何でほっとしてるんだ、俺は)
 男子生徒の答えが『否定』だったからだろうか。
 現場では、女子生徒は肩を落として何かを言っていた。ごめんなさい、といったことだろうか。男子生徒は「悪いな」とだけ返し、背中を向けて去っていった。
 その場には女子生徒だけが残される。うつむいて立ちすくんでいた。
(あいつ、フラれたのか……)
 そう考えると、あの後ろ姿がひどく不憫なものに思えてきた。実際に会話したことがないのに懸想し続け、いざ告白に踏み切ろうとするのに、どれほどの勇気を要するのか。罰ゲームでも断固お断りなのに、ましてや本気ともなるとそれは凄まじい意志が必要になるだろう。
(それが、あんなあっさりフラれたら……)
 気の毒に感じた直後には、彼の身体は動いていた。
 彼はずんずんと歩み寄っていき、彼女の肩に手を置いて言った。
「ドンマイ」

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  1. 2012/11/08(木) 22:51:31|
  2. フィクション小説(妄想)
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※作品を営利目的で発表していなければ平気らしいので。

このブログに先日、新人賞に応募したものを載せようと思ってまんもす。
自己評価としてはアマゾン形式になぞると☆2つ。色々と後で反省しよーっと。

何でこのブログに掲載するかっていったら……予約者限定特典みたいな感じでさ☆
数年ぶりだなぁ、ここの長文が載るのも。一年ぶりくらいか。
何が一番面倒臭いって、目次づくりが……。
題名は変えて載せます。ググられても困るので。取り越し苦労かもしれないけど。
数時間後にまた来てみてください。たぶん、もう用意してありますよ。

  1. 2012/11/08(木) 19:53:39|
  2. 尋常の日記・雑記
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お久しぶりです!!!!!!

3日と4日は早稲田祭!!
僕は何をしていかというと!
家でゲームだよ!!!!!!!!!!!!!
めでたく我がサークルは抽選に落ちたために何の催しもすることなく現在に至る。

だから、なんとなく新しいサークルに入りたくなってきた。
最近サークルの練習行ってないしなぁ。いやサボってるだけn
まあ機会がなければ機会がないでいいんだけど。
うん。今日は疲れた。

昔はよくあんなにネット上で人間関係作れたなぁとおもう。
最近はもっぱらリアルうちわですし。
最近はどうやってネット上に人脈を広げるんだろう。
其れがコミュ力かッ。

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  1. 2012/11/06(火) 21:45:08|
  2. 尋常の日記・雑記
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プロフィール

可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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