弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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さなぎ

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 夏休みも間近なある日、俺が移動教室でとぼとぼと廊下を歩いてる時だった。
「きゃあっ!」
 穏やかに歩いていた俺の背中にくらげのように体当りしてきたヤツが居た。
 その女の子は、今まで漫画やアニメでしか出さないような悲鳴を出して倒れこみ、目薬を無理やり点されたような潤った目をして俺を見上げている。どうやったら油断の塊であるような俺に体当りして、その反動で倒れ込めたんだか知らんが、この体裁だといかにも俺が背面アタックでこの子をノックアウトしたように凡下の者共に早合点されかねない。
「……どうした?」
 とりあえず、口実を手に入れようとして話しかけた。その子は「あー……」とエクトプラズムが出てきてもおかしくない風にポカーンと口を開けて俺を呆然と見上げていたが、
「そうだっ!」
 スタートシグナルが消灯したかのように瞬時に立ち上がると、俺にその鼻先を近づけてきた。俺は少しのけぞる。
「な、なん、ど、どういう……」
「告知です! 今日の放課後三階のトイレに来てね! そんじゃあ!」
 それだけを家電量販店の店員並な強引さで言いつけると、町火消のような素早さで去っていった。


 晩飯がハンバーグでなければ約束を必ず守る男だから、俺は大人しく放課後にトイレに向かった。約束といっても、一方的な呼び出しだが。
 果たして確かに待っていた。……だからこそ、何かを言われる前に俺が先手を取る義務がある。
「でもね、ここは男子便所なんだよ」
「いやあ、相手のことを考えたらこっちで待つほうがいいかなあって」
「……ま、いいけどね」
 俺のことを慮るなら場所をもっと考えろと。体育館裏とか職員室前とか学校前のローソンとか、もうちょっと理知的な場所を選べと。いや、トイレが非理であるといったわけじゃないが、それにしたって初対面の相手と対談するのにトイレを選ぶというのは、いささか俺の常識を斜め横断するような判断だな。
「それで、一体俺に何の用なんだ」
「あ、えーっとお願いごとがあって」
 背筋の温度が上昇した。はは、昔から誰もが高校に上がったら自然と彼女ができて自然と勉強もできるようになって、密度が高まっていくんだと思っているものであって、俺とてその例外であるはずがないのだが、而してその願望が急ピッチで叶えられる可能性をちらりと思い浮かべたとなると、どうして本能がうずかないことがあろうか。
「な、何だよ」
 俺はそんな筈はない、と治安維持法っぱりの強引さでそんな本能を抑圧して言った。
 彼女はあどけなく腕をトイレの奥に向けてにつきだして、
「ちょっとこっちきて」
 と、つきだしてない逆の手で手招きした。そして、歩き出す。俺は何も言わずについていった。くたびれた灰色のタイルを踏みつけて、一番奥の個室の扉を開けて中を指さす。俺促されるままにその中を見やる。
「おぉ……」
 更にその奥の角っちょの付近に、アゲハチョウのサナギがぶら下がっていた。身体をグイッと逸らして緑色を鮮やかに俺の目に届けている。サナギなんぞ見たのは、小学校の自由研究以来だ。何故この場所を選んだのかは知らんが、なんとも好奇心をくすぐるような発見だ。
「毎日、写真を撮ってブログに上げようと思うんだけど、一緒にやらない?」
「えっ?」
 思いがけない提案に、俺は高速で駆け巡る想像と共に振り向いた。少女との距離が近い。
「結構楽しそうでしょ! 自由研究じゃないけど、童心に戻るっていうかさー」
「……まぁ、そりゃいいかも知れないけど……、何で俺?」
 たいして説明してないが、初対面だ。どういうつもりで、俺なんかにそんなプロジェクトを持ちかけてくるんだ。
 すると、彼女は照れたように頭を掻いて、
「いやあ、廊下を適当にほっつき歩いて、適当にぶつかった人に頼もうかなーって思って」
 すっげえ適当だ。そんなのにぶつかる俺も、すっげえ適当だ。
 俺は魂を二割ほど抜かれたような心持ちになったが、それでも見ず知らずの人にトイレに来いと言われて、文句も言わずに来るほど暇だということは最早歴然の事実、そして断るのにはあまりにも勿体ないような提案──この子との交流という点で。荒涼とした俺の心に、一滴の栄養ドリンクの如く慰めをくれればと思う。うん、あっちの要望に答えてやるんだから、これくらいのリリースを望んでもいい。うん、キモくない、俺!
「……うん、まあ良いけど」
「え、良いの! ありがとう!」
 それから、とりあえず一日目の写真を撮って解散した。即刻解散だった、トイレから出た瞬間に解散だった、電気磁石の電流を止めたようにパッと解散した。しかしまあ、段々とその距離が長くなっていくに相違ない。いつしか、帰り道のちょっとお茶でも、と言えるような距離になると相違ない。
 帰りの電車に揺られると、自然と物思いになる。俺の初恋なんてのはいつだったか知らんが、恐らく中学の頃にあっただろうと思う。そう、ラブレターと下駄箱に仕込んだんだ。内容は月並みな言葉だったが、一生懸命考えたんだ。次の日に返信が来た。
『この電話番号は現在使われておりません』
 せめてメールアドレスにしてくれよ、と必死に突っ込んだな、淡い日の自分よ。
 しかしながら、さっきの子の素性をからきし知らないとは、俺の他人に対する無責任さがここまで顕著に影響してくるとはな。多少知ってりゃ話の種にでもなりそうなもんなのに。あー、体育祭で100m走ってたでしょー、あー、文化祭でカネゴンのコスプレして募金活動してたでしょー、あー、選択授業隣のクラスだねー、あー、結構近くに住んでんじゃん──いや、一緒の電車じゃない時点で地元が同じということは無いが、とにかくもこんな会話ができたに違いない。まあ、知らなかったということは、だいぶクラスが離れてるからだろう。仕方ない。
 明日は何をするんだ。放課後にあのトイレに行って、男子トイレへの不法侵入を助長して、アゲハ君の成長過程を盗撮して、誰にも見られずすたこらさっさと帰れば良いのか。うん、きっと今日はトイレを出た時点で会話が無かったから、あんな神速で解散しちまったんだ。会話をしながらなら、もっとあがけるに違いない。あわよくば下駄箱……いや、一階の廊下までならなんとか行けるに違いない。そうだな、まずは文系か理系かについて質問をする。これだけで第一関門トイレの入り口を抜けるのは問題ないはずだ。
 いや、ちょっと待て、何故俺はこんなことを考えている。明日、どの授業にどのタイミングで寝るか、とか、宿題をいかに最低限の努力で済ますか、とかそういうことを考えるのが俺じゃなかったのか。
 でもなよく考えてみろ、と俺の知らない脳内の誰かさんに語りかけられた。お前さん、この学校に入ってから異性に関してまともな経験をしたことがあるかい。むしろ、今日の今日まで忘れてただろう、あのさなぎを見るまで童心を忘れていたように。
 なるほど、そういえば俺は思春期だ。いやはや、あの行き先を間違えたラブレターにすっかり殲滅されてしまったと思ったが、残党がここまで増殖していたとは。そうかそうか、でもこれは一目惚れではないんだな。一目惚れなんぞしたことないが、それの衝撃がいかほどかくらいは想像がつく──いや、こんなちゃっちい衝動とは比べものにならないくらい、という想像はつく。
 なんなのかよく分からんけど、お近づきになりたい心があることは否定できない。これは久しく女性に触れて来なかったために生じた、病気みたいなものなのか。
 しかし、それが何にせよ、明日もまたあの子と会える、また明後日も、今後も、毎日。激しく胸の躍ることだ。ここに来て人生の契機、女の子と接触できるチャンスが来るなんて。こういう俺は俗にいう草食系男子というものなのか。そんなレッテルを貼られようがどうだって良いぞ、とにかくワクワクしてきた。
 待望の続編発売の前夜に布団に入る童心の様な心境で俺は電車を下りた。

 放課後にトイレに向かった。なんとも味気ない文だが、そこに含まれる感情の量は気球を浮かすことができるほど凄まじいエネルギーを持っているのは容易に察しがつくだろう。
 SHRが終わって、即刻トイレに向かったというのに、あの子は既にトイレに居た。うちのクラスは遅いから仕方が無いのだが、それにしても早い。
「悪い、待った?」
「うん、待った、二十秒くらい」
「……じゃあ後で腕立て0.2回やっておく」
 今日は俺がリードして、奥の個室へ向かった。
 そして、扉を開ける。一瞬、部屋の中を見渡して、やがて時が止まった気がした。
「うん? どうしたの?」
 彼女が俺の肩口から顔をのぞかせて、中身を伺った。
 充填されたトイレットペーパーホルダーの近くにぶら下がっていたのは、空っぽのさなぎだった。先っぽが破けて黄色くなっている、最早必要性を無くした住居。
「あー、もう生まれちゃったのかあ。残念ながら、私たちの冒険は終ってしまったようだ」
「王様に会わないうちに終わったな……」
 俺は些末な動揺を隠しながら冗談に乗ってやった。
「なんだあ、じゃあ、ブログももうやんなくていいかー、一日だけ載せてもしょうがないし」
 彼女はそう言いながら俺に背中を向けて、トイレの出口へと向かい始めた。俺は遠ざかる声を聞いて、急いで振り返った。
 ま、マズイ、これを逃したら、もう二度と────
「あ、付き合ってくれてありがとね! じゃ、またね!」
 ああああああ! 逃げられたあああああああああ! 少しも気配を残さずに、痕跡を残さずに、影も匂いも声もハンカチも思い出も落としていかずに、いなくなったああああああ!
「お、おい!」
 慌てて声をかけたが、あの子のほうが速かった。俺がトイレの入口に立ったときには、もうあの子の姿はなかった。
 俺は口を鳥小屋みたいにぽかんと開けて、佇んでいた。
 ──かの乙女は、我が童心を盗みぬ。盗まるる跡に残るは、虚ろの喜色のみ。
 ……なんちて。



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いやだって、作家志望だし……。
キモさを求めました。キモイキモイ。

受験勉強、平日と勉強時間が変わんないw 
というか、モチベーションが下がり気味だ、流石に継続厳しいなw

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  1. 2011/10/01(土) 20:17:03|
  2. フィクション小説(妄想)
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
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プロフィール

可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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