弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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【小説】嘘と恋のデジタル数値 1(1)

第一章 緊張ヒアリング
 梅雨が近づいてきている。まだ涼しくて過ごしやすい季節ではあるが、確実に夏の到来を感じさせる時期になってきた。
 空腹も近づいてきている。授業はまだ終わらない。この英語の授業は彼の中で鬼門だった。担当は佐々木という名前の、白髪で健康そうな男を描いてくれと誰に頼んでも出来上がりそうな風貌の壮年な教師だ。授業の方針はすこぶるカタい。そのカタさと言ったらジョーク大好きなALTが冗談を慎んでしまうほどだ。
 しかし彼が気にしているのは、教師の性格ではない。授業のやり方だ。佐々木の授業は生徒をランダムで指すのが特徴である。一回指名されたからといって、もうその時間は安泰ということがない。連続で指されることもザラにある。そして答えられるまで延々と質問を続けるのだ。彼はそれがとても嫌で毎回、この授業になると下を向いてひたすら指名されないことを祈り続ける。
「ではこの文を訳してもらいましょう……、皆川君」
「……はい」
 彼は安堵した。皆川は予習をしていないのか、しどろもどろになってなかなか答えを口にできない。嫌な緊張が教室に満ちていく中、彼は時計を凝視してその気まずい時間がいつまでも続くことを願っていた。ここでしょうもない奴が時間を稼いでくれる方が嬉しいからだ。ちなみに、彼はもちろん予習などしていない。指名されたら皆川と同じ運命をたどることは目に見えている。これで次に彼の名前が挙がれば、皆川のような反応をすることになるだろう。そうなると、よりどす黒い汚名を被ることになるのは彼だ。
 二分ほどかけて皆川は解答を苦し紛れながら紡ぎだした。授業が再開される。今日は割と指名が少ない。このままいけば、授業の終了までに指名されるのはせいぜい一人か二人だ。
(これはいける……)
 彼は思わず上目遣いで佐々木の方を見やった。すると、佐々木もこちらを向いたような気がして、咄嗟に机に視線を落とした。
(今、目が合ったか……?)
 心臓を動かす筋肉が硬くなってくるような心地がした。
「……では、今日はこの例文を訳してもらっておしまいですね」
 指名の時間だ。佐々木がクラス名簿に目を向ける。彼は息を止めた。当てられたらどうするか、なんてことは一切考えない。ただ、別の名前が呼ばれる未来を待つだけだ。
「ええ……と、では、か……」
(か?)
 思わず彼は止めていた息を流した。冷たい空気が肺を突き抜けて臓腑に染みていくような気分だった。
(か、の次に、何を言う……し、は止めろ、ホントに……柏座瞳太とは決して、何が会っても言うなよ……そう、地球をぶっ壊しに超弩級の隕石が降ってきて「柏座瞳太を指名したら地球を救ってやる」って言ってきたら別に言っていいが、それ以外は、断じて……!)
 彼がそう祈念した一瞬の間に佐々木は唇を湿らせて、慈悲など知らないような声で言った。
「樫井さん」
 一瞬、どっと嫌な汗が流れたがすぐにホッとして机に静かに突っ伏した。心臓に悪すぎるが、これで何とか今日は怪我無しで生き延びられた。
(ちなみに運が悪かったらどんな事を言わされていたんだ、俺は……)
彼は思って教科書をちらりと見てみた。
(……俺が初見でも分かるくらい簡単だ……別にこれは当たっても問題なかったわ……)
 ひどく脱力してため息を吐いたのと同時に、チャイムが鳴り響いて授業の終了を告げた。

「そういうわけで、今日の英語は無事に幕を閉じたわけだ」
 彼がやけに得意げなので、聞き手の新島涼平は苦笑した。
「よくもまぁ、佐々木の授業でそこまで遊べるわな」
「何? 俺は遊びでやってるんじゃねえ、本気でやってる」
「じゃあ本気で遊んでんだわ、大したもんだ。俺だったら素直に予習していくけどな」
 新島涼平は彼と同じクラスではない。しかし、この学校、奈岸南高校に入って最初に知り合った友人ということで、こうしてよく昼休みに屋上やら中庭やらで会食している。今日はどこへ行っても人だらけだったので、人気のない剣道場近くにある階段の踊り場に、二人並んで地べたに座り込んでいた。
「予習してたら意味が無いだろ。あの緊張感を克服するだけの胆力が今の時代求められてると俺は見てる。いざって時に反吐が出そうな気分になってたらどうしようもないだろ」
「ふぅん……そのへんは割と考えて行動してるのな」
「当たり前だ、俺は目的無しに物事をしようとしない」
 彼はやたらと自信に満ちた風に断言したが、新島は乾いた笑いを上げるだけで本気にしなかった。
「そうかい。じゃあ、将来俺がゲロ吐きそうになったら代わってくれよ。──そういえば瞳太、例の話は聞いたか?」
「例の話っていうと」
 彼は朝に拵えてきた焼きそばパンを包みから取り出しながら呟いた。
「横坂の件か」
「そりゃまあ、誰でも知ってるか」
「当たり前だ。ファッション雑誌からスカウトを幾度も喰らったことがあるほどの容姿を持つ人物が、誰かと恋をおっ始めたなんて噂はすぐ広まるに決まってるだろ」
「……やけにぶっきら棒だな」
「女子がやたらとその話題で持ちきりにしてたからな。教室に隅っこで耳塞いでても聞こえてきやがる。もううんざりだ」
 彼は語尾を吐き捨てながら、焼きそばパンに思い切りかぶりついた。
「なるほどね」
「俺が気に入らんのは『リア充』とか言ってやたら騒ぐところだ。たかだか恋愛してる程度で、リアルが充実しているかどうかのバロメーターにするなんて価値観がいくらか狭すぎやしないか? 恋が始まったところで、すぐに行き詰って悶々とするカップルがどれだけいると思ってるんだ。そういう奴らにリア充って呼称は皮肉以外の何でもないだろ。要するに、自分とそういう話題の対象とを比較して、嫉妬してるんだよ、連中は」
「ははっ、やけに饒舌だなあ。心底ではお前も嫉妬してるんじゃないのか?」
 新島が面白そうに言ったので彼は飲み込んだ焼きそばを飛ばしそうな勢いで反論した。
「アホかっ。どうして俺が嫉妬しなきゃならん。リア充なんて俗っぽい称号なんてこっちから願い下げだ」
「だからその食いつき具合がまた却って意識してる証拠なんだよ。全く興味が無いんならさらっと話題を受け流しちまえばいいものを」
 新島がそう言うと彼は真顔になった。
「……たしかに」
「目的なしに物事をしないって言ったのはどこの誰だったかな」
「……まぁ、横坂の性格を見るいい機会になるだろ。どれだけ続くかっていうバロメーターでな」
「お前の性格が悪いことはこれで十分分かったよ。ついでに恋に無関心ってこともな」
「おお、よく分かってくれたよ」
 彼はパンの最後の一片を呑み込んで言った。何故だか自分に言い聞かせているような響きを帯びていたが、彼は全く自覚していなかった。

(涼平が妙なこと言ったからか、更に意識しちまった……)
 終業のホームルームが終わった頃には、彼はすっかりげんなりとしていた。
(しかも考えをはじめるたびに、最終的に『恋とは何ぞや』とかいう疑問に至る。堂々巡りで授業がいつも以上に疲れたぞ……)
 しかしながら新島の言っていたことは妙に的を射ていて、そこが尚更苛立たしくて悔しいところであった。まず、新島はそこまで知らなかったらしいが、彼自身横坂とある程度の交流を持っていた。彼が高校に入学してすぐの部活見学で、親しくなったのが横坂だった。それ以来、会うごとに挨拶をする程度の仲に落ち着いたものの、それでも彼は彼女のことを意識していたのだが。
(まぁ、何もしなかったんだから何の進展もないのは当然で、何かした奴のところに何かご褒美があるのも当然のことで……、俺が何もしなかったということは、ただ横坂は俺の中でその程度の人間だったということで……)
 そんな言い訳じみた独白を頭の中で繰り返している。
(第一、俺が行動に駆り立てられるようなエネルギーを生み出す恋って何なんだよ。そこからだな、まず。……またこの題目に戻ってくるのが腹立たしいが)
 腹立たしさを誤魔化すように彼はカバンを持ち上げて教室を出た。ちなみに彼は部活に入っていない。部活見学に行ったことこそあるものの、横坂と知り合った陸上部のそれしか行ってない上に、一回きりしか顔を出していない。あまり彼は先輩というものが好きになれない性質ので、運動部ではそりが合わなさそうだと判断したのだ。とはいえ、文化部に入るような性格でもないので、自然無所属ということになった。
 帰宅時の廊下は割と混雑している。その中を彼は淡々と歩いていった。
(しかし、恋なんぞについて一切触れようとしないのは、逆に俺がとてつもなく好きになるような相手が居ないからなんじゃないのか。横坂については、あわよくばなんて感じで、たまたまでも顔を合わせられれば良いようなもんだったからな)
 もうなんといっても言い訳じみてくる気がして、彼は半ば開き直ってきた。
下駄箱に到着した。別段、早く家に帰るのが喜ばしいわけではないが、それでも部活に向かう生徒を後ろ髪を引かれるような思いを抱いたことはない。彼は靴を投げ出し、突っかけるように履いて外に出た。
(言い方を変えると、万人を惹く魅力を持った横坂に完全に負けていたわけだ、俺は。つまりこれは恋なんかじゃない。愛玩動物を見て和みたいっていう欲求と似たもんなんだ)
 帰宅する生徒に部活に向かう生徒でごちゃごちゃしている中を、彼は淡々とした足取りで歩いて行く。
(恋って言うからには、下心を否応なしに抱かせるようなアブセッションがあるに決まってる。ストーカーだってその強烈な誘惑に負けた奴の末路じゃないか。そんでもって、その異性に強く惹かれる何かっていうのは、自分の中にあるに違いない……それがタイプというものか)
 彼は眉根にシワを寄せた。
(俺のタイプ……冷静に分析したことがなかったな。どんな女性が好みかって……まず髪は長め……セミロング以上で色は別段どうでもいいか。幼い顔つきはダメだな、すっとした顔立ちがいい。でも目元にはどこかあどけなさが残るような風貌。性格的には前傾気味な方がいいな、引っ込み気味はいまいち好きになれない。でもどこか命綱を持ってやんないと危なっかしいような……──)
 彼はそこまで考えてから、不機嫌そうにため息を吐いた。
(そんな理想の女がいるわけないよな、常識的に考えて)
 どうしてここまで恋愛について考えこんでしまうのか、彼は自分自身でよくわかっていない。それ故に、いっそうこの分析は苛立ちを膨らませた。
(……くそ、こんな気分になったらさっさと家に帰って──って、ん?)
 彼が足を早めようとしたその時、どこかで電子音のようなピッという音を聞いた。彼は思わず立ち止まって周囲を見渡す。
(……気のせいか)
 彼はそう思って前を向き直そうとした──が、そうする前に一人の女子に目が留まった。彼と同じ学校の制服を着ていて、黒い艶やかな髪が長く背中の真ん中ほどまでに流れている。丸顔よりも少し細いなめらかな輪郭にすっとした目元はどこか大人の雰囲気を漂わせているが、その表情は歳相応のあどけなさが残っていた。
(……あ、あれは……)
 瞬間、雷鳴のような衝撃が走って思考が彼の頭の中から消え去った。視線はものの見事に彼女へ釘付けになってしまった。
彼女はまさに、先ほど彼が考えた「どストライク」な女性像とマッチしていたのだ。
その女子生徒は彼に目も暮れず、彼とは違う方向──校庭の方へ歩いていく。帰宅ではないらしい。部活でもあるのだろうかと思ったが、手ぶらだ。
(何で手ぶらで外を歩いて──痛っ!)
完全によそ見をしたまま歩いていたので彼は校門にぶつかった。帰路を急ぐ生徒たちが何事かと彼の方を見る。その視線を浴びる恥ずかしさとしこたま打った鼻の痛さに、そこはかとない怒りが湧いてきた。彼は好奇の視線を寄せる生徒たちに鋭い視線をぶつける。
(……彼女はどこへ行った?)
 だが、突然彼の脳内にそんな疑問が湧いて、理不尽な怒りは消え去った。踵を返してあの女子を探す。数瞬後、遠くに彼女の背中を発見した。彼は何も考えずその後を追うように歩き出す。
 校庭ではサッカー部がアップを始めていて騒がしかった。彼女はその脇を悠々と通り過ぎる。彼はその後ろを、バレないようについていく。
(学年カラーが俺と同じだ。つまり同学年だが……でもあんな女子居たか?)
 彼は内心首を傾げたが、そもそも彼が認知している人間は学年でも三分の一程度しかいない。彼女がその範疇に入っていないのも無理はない。
(……どうして俺はそんな見も知らぬ女子のあとをつけてるんだ?)
 そう自問してから、すぐに彼はひとつの可能性にいきつく。
(……俺は、あいつに惚れたのか?)
 一目惚れ。
 そんな言葉が脳内で点滅した。
(そんなバカな。……そんなはずないよな? 俺はあの女子とは関係なしに、自分の意志でこの道を通ってて、あの女子はたまたま俺の前を歩いてるだけ、だよな……?)
 ちょうどその時、彼女は曲がり角に消えていった。彼はぎょっとする。
(この角、体育館の角じゃねえか……。つまり、この角の先は体育館裏……)
 放課後の体育館裏に一人で手ぶらの女子が向かっていった。
この事実が端的に示す可能性、それはあの女子が『告白』の現場に向かった、ということになる。受ける側なのか、する側なのかは分からないが──。
そんな想像が浮かんでから、彼の身体は勝手に動き始めた。彼女が曲がっていった角に張り付き、向こう側を覗きこんでみる。すると果たして、彼女は少し先で立ちすくんでいた。まるで、誰かを待ちわびるように。
彼は、無性にこれから起こる展開を見たいと思った。ここでおとなしく帰ってしまったら一生後悔することを神様に確約されたような気分だった。
少しばかりすると、彼が居る反対側の角から男子生徒が現れた。あの女子よりも頭一つ分背が高い。百八十センチ以上ありそうだ。顔は細く少し彫りが深い。制服から判断するに、学年は彼と同じ。遠目で観察できる特徴といえばその程度だった。
(まぁ、割とイケてる顔だな……)
 彼はぼんやりと思った。
 やがて、女子生徒の方から何かを切り出した。彼の居る位置からでは何を言っているのか分からない。
「問題ない。それで、用というのは?」
 男子生徒の方が言った。声の主が彼の方向を向いている上に、元々声が大きいのだろう、聞き耳を立てずとも聞き取ることが出来た。
(用……女子の方が呼び出したのか)
 彼はなんとなく緊張した。これから何が始まるのか、大体察しがついてしまった。
第三者の彼が硬くなっているのに、当事者二人には緊張している様子が無かった。
女子生徒が何かを言った。少しばかり長いセリフだった。言い終わってからの沈黙も少しばかり長かった。
やがて男が返答をした。
「悪いがそれはできない。俺は君のことを少しは知っているが実際に会話したのは初めてだ。よく知らないままに付き合うというのは、俺の中ではタブーだ」
(知らないままに……付き合う?)
 彼は呆然とした。本当に、これは告白の場面だったらしい。そう確信すると同時に、彼は自分が安堵している事に気づいた。
(……何でほっとしてるんだ、俺は)
 男子生徒の答えが『否定』だったからだろうか。
 現場では、女子生徒は肩を落として何かを言っていた。ごめんなさい、といったことだろうか。男子生徒は「悪いな」とだけ返し、背中を向けて去っていった。
 その場には女子生徒だけが残される。うつむいて立ちすくんでいた。
(あいつ、フラれたのか……)
 そう考えると、あの後ろ姿がひどく不憫なものに思えてきた。実際に会話したことがないのに懸想し続け、いざ告白に踏み切ろうとするのに、どれほどの勇気を要するのか。罰ゲームでも断固お断りなのに、ましてや本気ともなるとそれは凄まじい意志が必要になるだろう。
(それが、あんなあっさりフラれたら……)
 気の毒に感じた直後には、彼の身体は動いていた。
 彼はずんずんと歩み寄っていき、彼女の肩に手を置いて言った。
「ドンマイ」

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  1. 2012/11/08(木) 22:51:31|
  2. フィクション小説(妄想)
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可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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