弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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【小説】嘘と恋のデジタル数値 2(1)

「きゃっ!」
 彼女は高い声を出して驚き、振り向いた。
(まずったな、思わず声をかけてしまった。相変わらず俺は思慮が浅いというか……)
 彼は驚愕に染まった彼女の顔を見て、背中に嫌な汗が湧いてくるのを感じた。──それと同時に、胸のあたりが疼くような感覚も覚える。
(今、俺ドキッとしたのか……)
 近くで見るといっそう、彼女の可愛らしさは際立って彼の目に映った。背丈は女子の平均くらいだろうか、自然と背の高い彼を彼女が見上げる形になる。そんな上目遣いに晒されて、この娘の前で失態を晒したくない、という思いが彼に勢いを与えた。
「あああっと、俺は別段全く怪しくもない、偶然帰宅途中に遭遇してしまった者なんだが、その、たまたま一部始終を目撃してしまってだな……えっと、思わず慰めの声をかけたくなってしまって……その、ドンマイ、ってことで」
「はぁ……それは親切にどうも……」
 彼女は警戒するような目で彼を見ながら、両手を背中に回した。
(印象悪くしたか? でもここで突撃してしまった以上、心象が悪くなるのは避けられないはずだ……俺はよくやったよ)
「今の、全部見てたの?」
 気を取り直すように、彼女は質問をしてきた。
「ま、まぁ行きずりで」
「どうしたらこんな人気のないところを通りすがれるのか不思議なんだけど……」
(……全くもって、その通りだな)
「まぁいいわ。──これだけは言っておくけど、くれぐれも口外しないで。相手もバカじゃないからベラベラ話すような人じゃない。この噂が広まってたら、あんたがバラしたって考えるから、そのつもりでいて」
「あ、あぁ……」
 彼は呆気に取られて頷いた。
(なんかフラれた割には全くこたえてなさそうだな……もしかして──)
「……そういえば、どこかで見た顔だと思ったら」
 彼の思索がとある可能性に行きつく直前で、彼女が彼の顔を凝視して言った。
「もしかして、あんたって柏座って言う人だったりする?」
「俺の名前を知ってるのか?」
 彼はひどく驚いて反問した。
「すごくバカそうに見えるのに実は頭が良いとかって評判じゃない」
「なんだよ、その評判は。初めて聞いた」
「本人が噂を知らないのは当然でしょ。噂なんだから。……まぁ、絡んだのはこれが初めてだけどね。よろしく」
「お、おう、よろしく……って、俺の方はあんたのことを知らないんだが」
 彼が言うと、彼女は一瞬だけ目を少し見張って、沈黙した。
(う、何か琴線に触れるようなこと言ったか? でも、あんまり心外そうでもないな。何か、ディスクがデータを読み込んでる最中みたいな、必然的な間って感じだ)
 沈黙はそう長く続かなかった。
「……私の名前は、堺洋子」
「堺さんか。クラスは?」
「クラス? クラスは、七組よ」
「七組、か」
(……どうりで知らないわけだ)
 彼は一組に属しているのだが、彼の行動範囲は二組までなので、それより先のクラスのことをよく知らないのである。──ちなみに、親友の新島は二組だ。
 ふと気がつくと、洋子がじっと彼の顔を見つめていることに気づいた。その視線に、彼はぐっと息がつまるような心地になる。
「な、何か?」
「何、って?」
 彼女は首をかしげた。
「……いや、そんな俺のことを見るから何かなーって」
「ごめんなさい。ちょっとしたクセなの。気にしないで。ところで、今の時間こんなところにいるってことは、あんたって部活してないの?」
「部活? やってない。あんたは?」
「……私もやってないわ。奇遇ね」
 洋子は薄い笑みを浮かべた。彼もつられて頬を緩める。
「まぁ、この学校じゃ珍しいことじゃないだろ」
「それもそうね。──ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、あんたって結構昼休み暇してるの?」
「ん?」
 彼はパッと、新島の顔を思い浮かべた。昼休みは大概、新島と過ごすことが多いからだ。
(でも、あいつの付き合いはお互いが暇だっていう前提で成り立ってるんだよな……。おい、今俺の目の前に居るのは、どういう人物なんだ? ……俺がもしかしたら一目惚れして、思わず尾行しちまった人物だぞ)
 彼の天秤は洋子の方に大きく傾いた。
「暇だ」
「そう。ちょっと込みいって話したいことがあるの。明日の昼にうちのクラスまで来てくれない?」
「話? 話って一体何の──」
「私は今、ここに長居したくないの。だから、仕切りなおして話がしたいわけ……、ダメ?」
(マジかよ。棚ボタってこういうことを言うのか……)
 彼は状況次第では小躍りを始めそうなほど、心中で歓喜していた。まさか、自分の軽率な行動がここまでの発展に至るとは思いもよらなかった。
(やっぱり人生、行動したモン勝ちなんだな)
 無論、そんな内面など微塵にも感じさせないように、彼は言った。
「あぁ……まぁ、構わないぞ。昼休みに、七組に行けばいいんだな?」
「そう。堺を呼んで、って誰かしらに言ってくれれば大丈夫よ」
「分かった」
「それじゃあ、また明日ね」
 洋子はさらりと別れの告げ、彼の脇を抜けて去っていった。そういえば、彼女は手ぶらだった。荷物をどこかに置きっぱなしにしてあって、それを取りに校舎へ戻るのだろうか。
(……帰るか)
 洋子が傍に居なくなって、徐々に興奮も冷めてきた。彼女を目撃してからの自分の一恋の行動を思い返すと、あれは、下心を否応なしに抱かせるようなアブセッションがそうさせたのだろうか。だとしたら、彼自身が定義したように、彼は洋子に恋心を抱いた、あるいは抱きかけているといってしまっていいのだろうか。
(……それにしても)
 彼はふっと、頭の中で話題を転換した。
(あいつと話してる最中、なんか時々違和感があったんだよなあ。なんだったのか、結局分からずじまいだったが……)
 言動、しぐさ、表情。できるだけ頭の中で再現してみたが、それでも違和感の正体ははっきりしない。
 彼は考えこんだが、少しすると合点がいく答えが見つかった。
(そうだ。失恋直後にしては、やけに普通だったんだ……飛び入り参加の俺にまで対応できるくらいの余裕がおかしい。確かに大人しそうではあったが、そこまで感情の起伏が薄いようには見えなかった。……明日、会ったら問いただしてみるか)

翌日の昼休み、彼は真っ先に七組の教室へ向かった。
どこのクラスも同じ様に教室内は昼食陣形になっていて、七組も例外ではなかった。そんな他者を締め出すような空気を感じないかのように、彼は教室の入口に立って付近の適当な男子生徒に話しかけた。
「ちょっと、堺さんを呼んでくれないか」
 すると、その生徒は怪訝そうに顔をしかめた。
「ん? サカイ?」
「あぁ、堺洋子って女子がいるはずだ」
「……そんな女子、うちのクラスにいたっけ?」
 その生徒は隣の生徒に訊ねる。質問を受けた方の生徒も反応は鈍かった。
「いないと思うけど……」
「そんなハズがあるか。そいつ本人が、ここに来いって言ったんだぞ」
「そんなこと言ったって、いないもんはいないし……」
 その二人は困ったように顔を見合わせた。
(どうせこいつらは知らないだけなんだろう。俺だって、クラスの女子はどれも同じ顔に見えるからな。だとしたら、誰か女子に聞けるのが一番良いんだが……)
 そう彼が考えた矢先に、声がかけられた。
「あれ、柏座君、何してるの?」
「ん? あぁ、横坂か」
 振り向いた先には横坂夕子が佇んでいた。小さな体躯とぱっちりとした瞳が、小動物の様な印象を抱かせる少女だ。そして、可憐という形容がふさわしいかも知れない。件の恋人ができたことによって、何故かこの学校内で有名になりつつある当人である。もっとも、彼はその相手の名前も容姿も知らないのだが。
「こんなとこで何してんだ?」
「何してるって、ここわたしのクラスなんだけど」
「マジでか! それは知らなんだな」
「今まで知らなかったの? 流石、柏座君だね」
(流石ってな……)
 彼は堺洋子の「すごくバカそうに見える」という発言を思い出す。
(本当に俺はバカキャラとして認識されてんのか?)
「それで、こんなとこで何してるの?」
 夕子は彼の言ったセリフをそのまま返してきた。
「あぁ、俺か……俺はクラスの奴に用があってきたんだ──あ、そうだ、お前さ、そいつを俺のとこに呼んできてくれないか?」
「ふぅん、いいよ。誰を呼べばいいの?」
「堺洋子って奴なんだが」
「サカイヨウコちゃん?」
 語尾にあからさまな疑問符がついていた。それを聞いて、彼の頭にパッととある良くない可能性が浮かんだ。その悪い予感を押し流すような勢いで慌てて彼は口を開く。
「ほら、いるだろ、髪が長くってちょっと生意気そうな顔した女子が」
「えぇ……、でも、うちのクラスにはいないよ。その子がここって言ってたの?」
「あぁ、間違いない」
「……んー、いないって証拠見せないとダメみたいだね。ちょっと待ってて」
 意固地に主張する彼に、夕子はいささか呆れたような素振りを見せて教室へ駆けていった。彼一人がそこに残される。周囲にいる生徒たちの大半はそんな彼の様子を遠巻きながらに眺めていた。その視線に耐えるように、そしてじれったく思いながら彼は待った。
 夕子はすぐに戻ってきた。
「はい、コレ見ていいよ」
 そう言って手渡してきたのは『七組』と書かれた名簿。彼はすぐさまそれを開いて、ずらりと並んだ名前に目を走らせていった。
 だが、どこにも堺洋子の名前は載っていなかった。
「……い、いい加減諦めなよ」
 と、夕子になだめられるまで、十分あまり彼はその名簿を睨みつけていた。
「と、すると……俺はハメられたのか……」
「ねえ、その、堺さんっていう人がどうしたの?」
 落胆しているところへ夕子が訊ねてきたので、彼は素直に事情を話した。
「うーん、きっと、柏座君に因縁付けられたと思ってその場凌ぎで偽名を使ったんだよ」
「そうか、確かにあの状況を振り返って見れば、俺は突然絡んできた謎の男だもんな。よく分からない変人だと思われて、咄嗟に嘘を……」
(なるほど、それならあいつが早々に話を切り上げようとしていたのも頷ける)
「残念だったね。割と楽しみにしてたんでしょ?」
 夕子のイタズラっぽい上目遣いに、彼は目を丸くした。
「な、何を言うかっ。俺は頼まれたから仕方なく来てやったわけで──」
「その割にはすごいがっかりしてるみたいだし……、少なくとも嫌じゃなかったんでしょ?」
「……まぁな」
 彼は恥じらいを隠すように、ぽつりと言った。

「……待ってたわ」
「…………」
 彼は唖然として立ち止まった。目の前に現れたのは他でもない、あの堺洋子だったからだ。ただ、昨日と同じく大人しい風のように下校しようとして、通りかかった校門の陰から彼女がぬっと出てきたのだ。
(これで驚かないのは無理ってもんだぞ……、もう二度と会うことなんて無いと思ったのに、あっちから会いに来てくれるとは……)
「な、何の用だ」
 彼はなんとか口を開いた。洋子の顔を目の前にしてしまうと、騙されたことを毒づこうという気すら起こらない。
 彼の質問に彼女は素っ気なく答えた。
「昼休み、本当に七組に行ったそうね」
 彼はぐっと喉に何かが詰まるような心地がした。
「あぁ、まんまと騙されてやったぜ──、って何でそんなこと知ってんだよ!」
「噂で聞いたの。昼休みに、あの横坂夕子に詰め寄ってた輩がいたって話題になってたわ。彼女は七組だから、十中八九、あんたのことだろうと思った」
(別に詰め寄った覚えはないんだが……)
 彼は心のうちで弁明した。
「それで、成功したドッキリのターゲットの前に、何しに来たんだ? バカにしにきたのか?」
「そうよ、バカにしにきたの」
 さらりと彼女は答えたので、却って彼の方が困惑した。
「は、はぁ? あ、あんたも暇だねえ」
「……嘘に決まってるでしょ。どこまで単純なのあんたは……」
(クソ、なんなんだよこいつは……)
 思えば初対面であんなひどい偽情報を掴ませてきた相手なのだから、その言葉を鵜呑みにするのは愚かしいというものだ。
(見た目どストライクだからすごく惜しいが、ここはさっさと逃げるが得策だな……)
「本気で冷やかしに来ただけなら、帰るぞ俺は」
 彼はそう宣言して、彼女の脇を通りすぎようとした。すると、彼女は半ば慌てたように彼の腕を掴んだ。二の腕に制服の上から少しの温もりと共に圧力がかかる。
「なっ──」
「待って」
 彼女はそのまま彼をぐいと引き寄せた。急に彼女の顔が近づいてきて、彼は息が詰まる。
「昨日、私が色々と嘘を吐いたのは分かる?」
「あ、あぁ、昼休みの件だけで嫌というほど分かった」
「今になって、あれが嘘だって分かるのは当然よ。問題は、昨日私と話してる時点で、私が嘘を吐いてるって少しでも思った?」
「……いや、お、思ったら七組なんかに行ってないだろ」
「本当に? 少しでもおかしい、とか思わなかったの?」
「だから思ってないって──いや、ちょっと待て……」
 彼は、昨日彼女と別れた直後に覚えた僅かな違和感を思い出した。未完成のパズルをそのままゴミに出してしまったような、もやもやとした感覚が仄かに彼の胸の中に芽生えていた。
「かなり微妙にだが……違和感はあった」
「そう、良かった。それはそうよ、私は意図的に嘘を吐いた部分を不自然に仕立てたんだもの」
「……は?」
 彼が綺麗な疑問符を浮かべたところで、彼女は彼の腕を離して言った。
「今、暇なんでしょ? 部活やってないんだから」
「……まぁな」
「ちょっと、来て欲しいところがあるの。一緒に来てくれない? ……ダメ?」
 少し首を傾げて伺うような目付きで彼のことを見る。
(こういう頼みごとをする場面で、いきなり引いてくるあたりが狡いっ……)
 彼はほとんど二つ返事で了承した。まだ、さっき掴まれた二の腕に温もりが残っているような気分だった。

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  1. 2012/11/11(日) 20:03:24|
  2. フィクション小説(妄想)
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プロフィール

可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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