弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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【小説】嘘と恋のデジタル数値 7(2)

(……だとしたら、引っ掛けるしかないか)
 彼は上がった息を整えてから、騒音にならない程度の声で叫んだ。
「あっれ、ここで曲がったんじゃないのか」
 そして、足音を立てて角を曲がり、道から見えない位置で立ち止まって壁に背中から張り付いた。単純に、気付かずに行ったふりをしたのだ。二分ほどすると、行き止まりの道の方から人の気配がした。彼は息をひそめてその気配が寄ってくるのを待つ。
 やがて、ひょっこりと瑠子が角から姿を現した。すぐに彼の姿を認めて、愕然とする。
「よう、どこ行ってたんだ」
 彼がそう言うと同時に、また瑠子は駆け出した。
(なんでまた行き止まりの方に入っちゃうかね……、まあ、あいつらしいっちゃあいつらしいな)
 瑠子を追って行き止まりの道に入ると、彼は律儀に彼女の背中を追った。自然と、行き止まりへ追いつめることになる。瑠子は行き止まりを背に、悲嘆に暮れた顔を彼に向けた。
「何で逃げたんだよ」
 彼は声をかけた。瑠子は自分を殺そうとする殺し屋に命乞いするように応えた。
「だ、だって、……嘘部に入れって、とーたが言うから……」
「……やっぱり嫌だったのか。それなら、そうと言えば良かったじゃねえか」
「ぜ、絶対に強引にいれられると思ったんだもん……、でも絶対に嘘部なんて入りたく、なかったから……」
(こいつが全力でダッシュするほど、強烈に拒絶を示したのは初めて見た……、よほど入りたくないのか……)
 彼は、さっきの来楽奈の言葉を思い出す。『嘘部が、どんな目で見られているのか』。だから、来楽奈は確認してきたのだ。本当に彼が嘘部に入るのかどうか。あの質問は新島や夕子が示したような典型的な嘘部に対する軽蔑のまなざしに、耐えるだけの覚悟があるかどうかを確認したかったのだ。
(でも、俺にしたらそんな人様の意見なんざどうでもいい。大宮がたまたま居た部活に俺が入った……それだけだ。でも……こいつはそうはいかない)
 彼は泣き出しそうな瑠子の顔を見て思った。彼女が、それに耐えられるかどうか。
(いや……逆に考えろ。入ってやりたくなるような言葉をつきつけるんだ。悪い局面でアピールなんかできないからな……)
「何で、そんなに嘘部を拒むんだよ。なんか噂でも聞いたのか?」
「え……、だって、嘘を吐くんでしょ? 嘘を吐いて人を困らせるのが目的の部活なんでしょ……? そ、そんな部活……入りたいなんて思わないよ……」
「人を困らせる、ねえ。そいつは違うぞ」
「……そうなの?」
 瑠子は言った。どうやら話を聞いてくれるらしい、彼は安堵した。
「あそこが磨いてるのは、自分が騙されないようにするための技術なんだよ。人を困らせるためじゃない、自分が困らないようにするんだ。お前が思ってる嘘部のイメージは全くの誤解で、それがすっかり学校に浸透してる。そのおかげで嘘部は廃部寸前で、部長はただならない思いをしてる。わかるか?」
「……」
「なんとか自分が青春を捧げてる部活を存続させようと必死で頑張ってるんだ。嘘部が廃部にならないためには、次の公式戦で勝たなきゃいけないことになってる。でも、その公式戦に出るために三人必要なんだ。だが、今の嘘部は俺と部長しかいない。一人足りないんだ。このままじゃ、部長の努力も虚しいまま廃部になっちまう。だから、その空き枠に、お前に入ってほしい」
「で、でも……」
「周りの目のことならなら大丈夫だ。誰も口外しなければわかりっこない。活動もおもに部室でやるから、目撃されることもないしな。そのあたりは、うまく立ち回れば平気だ。……どうだ、協力してくれるか?」
「えぇ…………、うぅ……」
 瑠子はせわしなく視線を泳がせていた。それでも逃げ出そうとする気配はない。今、ここで答えを出そうと考えあぐねているのだ。彼は言いたかったことを言い尽くしてしまったので、ただ、その答えを待つほか無かった。
「えっと……、その……」
 やがて瑠子は何か言いたげに、だがその先がつながらないかのように言った。
「何だ?」
「あの……、け、兼部でも大丈夫なら……」
「兼部? お前、どっか部活入ってたか?」
「…………うんと、合唱部に……」
 恥ずかしそうに瑠子はぼそりと言ったのを聞いて、彼は内心愕然とした。
(が、合唱……だと、こいつが……? 似合わない……なんて、このタイミングで言うのは絶対ダメだ、そういうのは後回しだ……)
「こちとら、兼部云々でとやかく言える状況でもねえ。平気だ」
 実際のところはどうだか知らないが、彼は断言した。
「な、なら……、……わ、わたしで良ければ……」
 瑠子はおずおずと、頷いてくれた。
(……まったく、お人好しだな。昔っから変わらない。ここまで素直だと、それを利用しただなんて思いたくないな……、実際そうなんだけどさ)
「そうか、ありがとな。もしも、キツくなったりマズくなったりしたら言えよ」
 そんな罪悪感を拭うように、彼は言った。瑠子は悪戯を許された子供のように、表情を和らげる。彼も釣られて安堵したが、すぐに校門のところで瑠子に逃げられた後、来楽奈に遭遇していたのを思い出した。
「えーっと、お前、今日は大丈夫か? できれば、これからまた学校に戻って手続きをして欲しいんだが……」
「…………うん、大丈夫、だよ……」
「……無理してないよな」
「し、してないよ! これから暇、だよ」
(……本当にコイツを嘘部に引き入れて大丈夫なのか……、なんて考えるのは今更遅いか……)
 二人は学校への道を引き返し始めた。どんな雑談をすれば良いのか彼は迷ったが、その前に瑠子の方から話しかけてきた。
「あのさ……、とーた、変わったよね」
「あぁ?」
 途方もなく意外な言葉だったので、彼は大きな疑問符を浮かべた。
「あっと……、だって……とーたって前から、他人にすごい無関心だったのに……、人のために嫌われてる部活に入るなんて……すごいね」
 照れるような笑顔で瑠子は言う。その純粋な表情に彼は思わずその笑顔から目を逸らした。
(……どっか勘違いしてるぞ。俺は一度も、大宮のために部活に入ったなんて言ってない……自分のためなんだがな……。まぁ、さっきこいつに言った内容を考えれば、そう勘違いしても無理はないか……)
「……あいつと俺の利害が一致しただけだよ。俺は別段、人助けのために入ったわけじゃないぞ」
「りがい? 人助けのためじゃないの……?」
「ああ。まぁ、お前は助っ人って感じだから、人助けでいいが……、俺の場合はちと違う。ま、いつか分かるだろ」
 彼は肝心なところをぼかして言った。瑠子はまるきり信じたのか、こくりと頷いてそれ以上言及して来なかった。
「それにしても」
 彼は話題を変えるべく言った。
「この辺の住宅街を見ると、昔を思い出すな」
「……うーん、わたしたちのほうが、もっと家の形は古かったと思うけど……、そうだね。懐かしい」
 彼らが小学生の頃は、ちょうど家庭用ゲーム機が普及し始めて、外で遊ぶ子供が減りつつある時代だった。だが、彼の幼馴染たちはバリバリのアウトドア好きで、しょっちゅう集まっては遊び歩いた。幼馴染たちといっても割と大きなグループになっていて、学年も関係なく男女合わせて十人を越していた。もちろん、毎回遊ぶ際は全員出席、なんてことはない。今考えると、柔軟に遊び回っていたものだ。
 彼と瑠子の縁もその頃からのものである。
「な、なんか、あれくらいはしゃいでたわたしたちは珍しいみたいだね……、周りの友達は女の子とかだけで固まって、家でばっか過ごしてた人も多いんだって。わたしが男の子と平気で話せるのもよくびっくりされるし……」
「ま、お前が割と社交的っていうのもびっくりされそうなもんだけどな」
「そ、そんな社交的じゃないよっ。で、でもそこまで人が苦手なふうに見えるかな……」
「口調が安定してないからな……おどおどしてるような感じで」
「こ、これは色々考えながら言ってるから……、その、こんなふうになるの……」
「あ、そういや、ハンドサインなんて考えたよな。五十音のひらがなそれぞれに、腕の形をあてただけのヤツだけど、お前、覚えてるか?」
「お、覚えてるよ、あれを最初にマスターしたの、わたしだもん……」
「そうだった、お前なんかやたらと記憶力が良いんだったな。よくつるんでた奴らの電話番号も全部覚えてたよな」
「うん、そうだね……よく、電話帳代わりにされてたよ……」
「しかも地理も覚えちまうから、他の女子と違って方向には強いしな。その記憶力を勉強に活かせりゃよかったのに」
「うーん……、日常生活に活かせないものは覚えられないのかも……」
 そんな風に、久しぶりに会った幼馴染同士の会話をしていた。うっかりしているとこのまま自宅に帰ってしまいそうだ。彼は努めて学校へ戻る道を選んで歩いた。
(あと少しで学校だな)
 と、、彼が思った時、目の前にふらりと現れた人影があった。落ち着かない様子で、キョロキョロと辺りを見渡している。すぐにそれが来楽奈だと気づいて、彼はぎょっとした。
「な、何してんだよ、こんなところで」
「えっ……?」
 瑠子がきょとんした顔をする。
「な──何って……、あんたがどっかに行っちゃうから、散歩して暇つぶししてたのよ」
 来楽奈はそっぽを向いて言った。嘘部というステータスを差し引いても、彼は怪訝に思った。
「本当かよ……、もしかして俺を追って来ようとして、この辺で迷ってたんじゃ──」
「んなわけないでしょ!」
 思い切り彼の言葉をぶった切って来楽奈は吠えるように言った。
(どう見ても図星じゃねえか)
 彼は、ポーカーで自分を手玉にとった来楽奈が、さりげない苦手分野でここまで焦った様子を見せるのを面白く思った。
「まぁ、偶然出会えて良かった。ほら、話をつけてきたぞ」
「……本当に?」
 来楽奈の視線は瑠子の方を向いた。瑠子は、目に怯えの色を浮かべて怖気づいたように首をすくめる。
(そういうリアクションするんだもんな、非社交的に見られてもしょうがない……)
「兼部らしいけどな、手は貸してくれるらしいぞ」
「ね、ねぇ……この人が……、その、嘘部の部長さんなの?」
 瑠子は彼の腕をぐいと訊いて訊ねた。ひどくおどおどした顔をしていて、なんだか瑠子の父親になった気分だった。
「ああ、そうだ」
「え、えっと……よろしくおねがいします……、い、一年の平田瑠子です」
「二年の嘘部部長、大宮来楽奈よ。──ねえ、本当に嘘部に協力してくれるの?」
「ふえっ……、え、えと……、人が足りなくて困ってるって聞いたから……、そ、それで……入部しても、良いかなって……」
 もじもじと瑠子は言う。来楽奈は少し考えるように手で口を覆った。
「……入部の必要は無いわ。もう、柏座君がもう入部届を出して、正式に部員になってるの。公式戦に必要な正式部員数は三分の二……、あなたは助っ人として出ることができるから、入部までしなくていいのよ」
「まあ、当然、兼部もオッケーだよな?」
 彼は横から訊いた。来楽奈は即、首肯した。
「そうね。出席するのはできるだけで良いわ。できるだけ、私と柏座君で対戦相手に対応できるようにしておくわ。あなたは……そうね、最低限、嘘に振り回されない訓練が必要になるかしら」
(……まぁ、こんだけおどおどした様子を見れば、そう思うよな。まぁ、こいつのことを教えるのはまた後で良いか)
 そこで一旦、来楽奈は話を中断して辺りを見渡した。
「こんなところで立ち話もなんだし、部室に行きましょう。……平田さんに説明したいこともあるしね」
(試合のルールだとか、あの嘘発見器とかか……そういえば、ファインダー一個借りっぱなしだったな、後で返しておかないと)
 彼はそんなことを思いながら、来楽奈が歩き出すのを待ったが、一向に動き出す気配がなかった。彼は怪訝に思って言った。
「あれ、学校に戻るんじゃなかったっけ?」
「…………あんたが先に行ってよ」
「あれ? 散歩に来たんだから、道くらい分かるよな?」
「………………そういう気分じゃないの。お願いだから、さっさと先に行ってよ」
(あんまりからかうと後で倍返し以上にされそうだから、そろそろ『お願い』を聞いておくか)
「分かったよ。じゃあ、行くか」
(それにしても)
 学校までのそう遠くない道で、彼は女子二人を引き連れながらふと思った。
(瑠子のヤツ、ハンドサイン覚えてんのか……、……俺も勉強し直すか、アレ。確か、対応表も作ったよな──)

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  1. 2012/12/16(日) 14:03:52|
  2. フィクション小説(妄想)
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プロフィール

可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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