弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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最近はとてもぐっすり眠れます。
22時くらいに眠くなって、横になるとすぐ眠りに就き、最終的に翌日の九時くらいに目覚めます。これが若さというものです。年齢不問にしたいです。いますぐ。
夏ですね。
想像以上にヒマです。ヒマすぎるというのも逆に困りものですな。昔のようにアホみたいな集中力があれば、一日中ゲームとかいう選択肢も無きにしもあらずだが、いかんせんそういう気質が失われつつある昨今なので、結構暇つぶしには苦戦。暇つぶし、そう暇つぶしになるとなかなかきつい。そういう意識だとちょっとね、なにか生についてちょっと悲しい世界観を抱かざるを得なくなる。

どうしてこんな見てすぐ分かる駄文、意味を成そうとする意思の見られない文章をつらつらと書いたかと言えば、ここは飾りみたいなもので、本当に載せたいものは【この記事の続き】というリンクの先に載せたいのである。そういうことである。
というのも、これから新しく小説の制作事業に着手するにあたって、そのプレ小説、いわばキャラクターの動作チェックみたいな(なんかこの言い方はすごい抵抗を感じるが)、そんな短編を書いたので、せっかくHDDが壊れるまで眠らせておくのももったいないから、ここに載せようかなって思ったのだ。
軽く書くつもりがなんかそれらしい感じになってしまって、文字数も8,000字オーバー。働き過ぎである。一文字1円だとしても8000円である。ワーキングプアーである。
それでは続きから。


 その年の春、気分は最悪だった。
 井代隼は放課後の空き教室で一人、ただ時間が過ぎるのを待つように椅子に座って、机に頬杖をついていた。入学したばかりの高校の教室は新鮮な匂いで満ちていて、自分が新しい環境に放り出されたことに実感が湧く。中学校のどこかゆるい空間とは違う、引き締まったような場。これこそ、隼が求めていたものだったが、その意識も今はすっかり吹っ飛んで、今は気持ちが沈むままにぼんやりとただその空気の中に漂っているだけだった。
 彼の幼馴染、時木衣桜が、交通事故に遭ったのは数週間前の事だ。彼女とその家族の乗っていた車が、交差点でトラックの陰から出てきたバイクに激突、運転手である父親はパニックに陥ってそのまま近くの角に車を激突させた。助手席に乗っていた彼女は重傷を負い、父親は死亡。近所ではかなりの騒ぎになり、新聞にも掲載された。
 事故と父親の死のショックで精神に傷を追った衣桜は、医者からの薦めであまり交通量の多くない地方へ療養のために引っ越すこととなった。彼女の将来を思えば、そうするのが良いとは隼も理解していた。だがこの一連の出来事は、一緒にこの高校を目指して通おうと約束した彼にとって、かなりきついものがあった。
 衣桜と隼は元々家が近かったこともあって、幼少の頃から一緒に遊んでいた。だが小学校中学年の時、隼は家の都合でしばらくこの地域を離れており、再会したのは中学校になって戻ってきた時だ。その時の衝撃を今でも覚えている。
 綺麗になった、と。
 あれがいわゆる恋に落ちた瞬間だったのかどうかは知らない。だから二人は今までと同じように、たまに家の近くで会い、たまに学校で会う、普通の幼馴染としての関係を続けていった。
 それが、瓦解した。
 隼はため息を吐いた。新入生が部活動を見て回れる時期になっているが、それに参加する気力が全く起こらない。あわよくば──衣桜が入りたいと言った所に入ることができれば、なんて思ったりもしていただけだから、元々興味のなかった物へわざわざこの重い気分を抱えたまま首を突っ込む気分になれるはずがなかった。
 この放課後の雰囲気は、黄昏れるにはぴったりだった。遠くから聞こえる運動部の喧騒や、吹奏楽部の管楽器の無秩序な音、それが現実との距離感を演出しているようで、この教室に自分一人だけでいるという実感を与えてくれた。
 隼は一人になりたかった──それで何が解決するわけでもないが、気分的にはそちらのほうが遥かにマシだった。
 そんな彼の空間に入ってきた男が居た。
「ん、井代?」
 と、声をかけて、大股で隼へ歩み寄っていくと、すぐ隣りの席に腰を掛けた。どうせあいつだろ、と隼は思い、ちらりと確認すると、果たしてそのとおりだった。
「英太か」
「よう、その調子だと放課後ずっとここに居たんだな」
「……まあな」
 そっけなく隼は答えた。下野英太は中学からの友達だ。隼は中学の途中から転入してきたこともあって、部活動に所属していなかった。その縁で同じく帰宅部だった英太と仲良くなった、というわけだ。
「お前は?」
「俺? 俺は部活巡りだよ、中学よりも文化部が充実しててなぁ、周りがいがあったぞ」
「ふぅん」
「興味無さそうだな。お前はどっか入らないのか?」
「どうも興味がな。とりあえず、高校でするとしたら、勉強くらいだろ」
「それは良くない」
 英太は大層驚いた風に言った。「高校に来て勉強する奴が有るか!」
「……いや、それは個人の勝手だろう……」
 力説することでもない。
「なんかやんないと気分は晴れないぞ。時木のことで落ち込んでるんだろ? いいじゃねえか、もう二度と会えないってわけじゃないんだからさ、そんな塞ぎこんでたら時木だって心配で身体治んねえぞ!」
 すごい正論に聞こえた。普段飄々としているくせに、油断していると良い奴になるからやりづらい。同じ中学でつるんでいたのだから、英太も衣桜のことを知っている。隼との関係も含めてだ。だから、こんな励ましをしてくれたのだが、いかんせんそういう言葉が飛び出すようなキャラでもないので、調子が狂う。
「……まぁ、そうだな」
 隼は反応に困ってそっぽを向く。どっと沈んでいた気分が幾分楽になったが、そんなことはおくびにも出さなかった。
 すると英太は底抜けに明るい声で言い放った。
「そういうわけだから、ウノでもやろうぜ!」
「……二人でか?」
「二人きりが恥ずかしいなら、一人でやっても良いぞ」
「逆だろ、人数増やすって選択肢は無いのかよ」
 隼の声が聞こえていない風に、英太はどっからか取り出したカードの山をシャッフルし始める。
「修学旅行の定番だよな」
「おいおい、俺はやると言ってないぞ」
「でもお前の心の声は今すぐやりたいよ~って声を上げてるぞ」
「仮に誰かの心の声を聞いたんだとしたら、それは俺のものじゃない、他の誰かさんの声だ」
「……はっ」
 英太は何かに気づいたように真顔になった。「これは俺のものか」
「くそ面倒くさいやつだな、お前は」
「俺の面倒くささはツマミで調節可能だ」
 そう言いながら、さっさとカードを配り始める。それを見て隼は顔をしかめた。
「おい、だからやんねえよ。二人でやって何が楽しいんだ」
「んー、ワガママ、なら何人か増やせば良いんだろ?」
 そういう問題じゃない、と隼が口を開く前に、英太はさっさと立ち上がって、廊下へ飛び出そうとした。だが、その直前に教室に入ってきた女子生徒が居た。
 ──まさか、おい、よせよ。
 隼が危惧したその直後、果たして英太はその女子生徒に声を掛けた。
「今、暇? 暇だったらウノやろうぜ」
「おい」
 よりによってそんな誘い方も無いだろう。思い切りナンパにしか見えなかった。隼は慌てて立ち上がって、英太を女子生徒から引き離そうとした。
 だが、彼女の反応は、少なくとも隼にとっては予想外のものだった。
「……丁度良かった。それ参加させてもらってもいい?」
「え……」
 隼は呆気にとられて足を止めた。この女、本気で言っているのか。
「よっしゃ、ついでにもう一人くらい居れば文句ないんだけど」
 英太の方はこれが当然というな調子で、廊下に顔を出してキョロキョロしている。数秒前に話しかけた女子生徒のことなどもう忘れているような様子だ。隼はため息をつき、彼女に近づいて言った。
「えっと、ごめん、あいつの言ったことは気にしないで──」
 だが、彼女はまたしても意表をつく行動にうつった。隼の言葉を無視して、廊下に顔を出す英太の襟首を掴んで教室へ引っ張りこんだのだ。
「うおっ!」
 突然引っ張られた英太は目を白黒させながら尻餅をつく。その眼前でその女子生徒は教室の扉を閉めた。なんだか焦っているようだった。隼はその一連の行動を半ば呆然と見ていたが、ああ、と声を漏らした。
「……誰かに追われてる?」
「よ、よく分かったね」
 彼女は少し驚いたようだった。
「廊下を気にしてるみたいだから」
 隼は事も無げに答える。
「……二人でウノをやってたの?」
「いや、俺は反対したんだけど──」
「少しだけまぜてくれない? その、追手を振り切るためなんだけど……」
「こらこらこらこら、俺を置いてけぼりにするなー!」
 さっきまでずっこけていた英太が立ち上がりながら叫んだ。「ウノで遊んでたら追手が諦めてくれるんなら、全国の指名手配犯は大挙としておもちゃ屋さんに押しかけるだろ!」
「……うん?」
 女子生徒は疑問符を浮かべた。また初対面の相手に面倒くさいことを言っている。隼は呆れつつも解説をしてやった。
「つまり何でウノで遊ぶことが追手を振り切ることになるかってこいつは質問してる」
「それは……、あとで分かるから。とりあえず、フリでも良いからお願いします」
 英太は遠慮がちに頭を掻いた。
「まぁそれならしかたない。三人でやるか」
「お前人の話を聞いてたか……?」
「おうよ。フリなんて言わないでちゃんとやろうぜ」
 三人はその辺りにあった机を組み合わせて、それを囲むように椅子へ腰掛けた。
「名前なんて言うの?」
 カードをシャッフルしながら英太は訊いた。
「佐々江知織。『ちしき』って漢字で書いて『しおり』。クラスはA組」
「お! クラス一緒じゃん! 俺は下野英太だ、漢字は思いついた漢字で良いから、よろしく!」
「……よろしく」
 知識はちらりと隼の方を見た。何となく助けを求めるような視線だった。
「俺は井代隼、クラスはE」
「……そう」
 クラスが違うことに、がっかりとしたような返答だった。別に隼への好意が云々の話ではなく、この下野英太という男を取り扱える知り合いが欲しかったのだろう。この男はとにかく、自分の感覚のままに生きているので、慣れるまでかなり対応に困る。
「よし、じゃあじゃんけんで順番を決めよう」
 英太がグーを突き出しながら言った。本当にやる気らしい。隼が渋々とそれに乗っかろうとしたところへ、知識がおずおずと言った。
「あの……あたしルール知らないんだけど」
「えっ、ホントに?」
 英太が愕然とした声を上げた。「修学旅行とか行った時何をして過ごしてたんだ!」
「周りはトランプくらいしかやってなかったし……」
「なにぃぃいい! そ、それでも高校生かー!」
「鬱陶しい」
 隼は突っぱねた。「まぁルールはそんなに難しくない。やりながら説明していくことにして、とりあえずジャンケンしよう」
「うん……」 
 知識はぎこちなく頷いた。
 ジャンケンの結果、順番は英太からになった。
「やったぜ!」
 もう勝負に勝ったような勢いで、英太が意気盛んに手札のカードとにらめっこを開始したその時、ガラリと教室のドアが開いた。隼は何気なく、知識はどこか緊張したような面持ちでそちらを見る。
 そこに立っていたのは、メガネを掛けた一人の男子生徒だった。その顔には驚愕の色が張り付いている。なんだこいつは、と隼はまずはっきりと思った。
「……悪いけど」
 と、知識が口を開いた。「この通りだから」
 なるほど。隼はそのセリフで合点がいった。追手というのはこの男のことらしい。そして、何を理由に知識のことを追っかけていたかと言えば、この男の顔に如実に現れている。浮気現場を目撃してしまった男のような顔、そんな表情を隼は今まで見たことが無かったが、なるほどな、と思えるほどの顔をしていた。
 やがて、その男性生徒は何も言わずに立ち去った。すると、ふーっと知識は安堵したような息を吐いた。
「良かった」
「……告白でもされたのか」
「……うん、まあね。何か、喰らいついてくるみたいに迫られるから怖くなって……」
「喰らいついてくるねえ……」
 隼はぼやいた。あの男子生徒がそこまで強硬な態度になったところが想像つかない。
「あいつと中学一緒だったから、知らない男子が苦手っていうこと知ってたんだ。だから……一緒に遊んでるところ見せれば、怖気づいて諦めてくれるかなって」
「そういうこと」
「……巻き込んでごめん」
「いや、こいつで二人で寂しくカードゲームなんて御免だったから、気にしなくていい」
「……ありがとう」
 知識は殊勝に礼を言った。隼はそれには応えずに頬杖をついた。
「……で、まだかよ」
「待てよ! 最初が肝心なんだって常日頃から言ってるだろ!」
 英太は未だに初手のカードをどれにするか迷っていた。そして、おそらくこの様子だとつい先ほど来客があったことにも気づいていないだろう。
 ──結局その後、三ゲームほどやって解散する運びになった。
「あたし、帰らなくちゃ」
 と、知識が腕時計を見ながら言ったからである。
「マジかー、それなら仕方がない」
「気をつけて」
 英太はゲームが終わることを惜しみながら、隼は淡々と手を振って教室から出て行く知識を見送った。
「楽しかったよ」
 と、知識は一言だけ残していった。
 教室には隼と英太だけが残される。窓の外では鮮やかな夕日が漆黒の町並みに沈んでいる。
「あーあ、もう一人いればもっと面白かったんだけどなあ」
 残念そうにカードを集めて箱に収める英太。
「何で」
「何事もゲームは四人が一番楽しいって相場が決まってるからな!」
「まぁ遊ぶ相手がいるだけ良いのかもしれないぞ」
 隼は頬杖をついて、ぼんやりと外の風景を眺めている。
「おっ、やっと俺という存在のありがたさに気づいたか!」
 英太が楽しげに言った。こういう発言が冗談に聞こえる彼の性分はある意味羨ましい。
 隼はかぶりをふった。
「違う。お前、さっきゲーム中に誰か来たの分かったか?」
「あー、なんか典型的なオタクみたいなヤツが来たな。俺は面倒だからほっといたが」
「……気づいてたのか」
 それを全力でスルーし続けるとはなかなか豪胆なやつだ。
「あぁ、俺からすればあれほど面倒なものはその時は無視に値する」
「あれって何だ」
「いや、よく分かんないけど。でも、ちょっと時間を於いてから、面倒を焼きたくなるのが俺という人間だ!」
「……」
「いやー、あの二人、仲直りさせる価値はあると思うぜ」
 英太はカードの箱をカバンに放り込んだ。そうして、それを担ぎあげて立ち上がる。
「そうすれば四人でウノができる」
 そう言ってニッと笑った。

 次の日の昼休みに、英太からメールが届いた。
「石地恭也、D組。頑張れ」
 実際に会うとあんなテンションなのに、文になるとその騒がしさはすっかりなりを潜め、絵文字の一つも無い男らしいと言えば男らしいメールだ。
 内容は「さり気なく知識から聞き出したあの見るからにオタクな男の名前」。
 他のクラスだ。面倒だが、どうせすぐ分かる。
 隼は腰を上げて、クラスメイトから来る昼飯の誘いを断りつつ、D組へ向かった。
 この時期の昼休みは皆、打ち解け始めた仲間との習慣が形勢され始め、どこを向いても会話が途絶えるということはほとんど無い。それは普通に過ごしていれば大したことではないが、そこに馴染めない者にとっては凄まじい騒音に聞こえる。
 石地恭也は教室で一人、昼食をとっていた。
「あー、ちょっといいかな」
 隼は少しためらったが、すぐに覚悟を決めてD組に入って行くと、声を掛けた。恭也はまず見るからに驚き、何事かといわんばかりの顔をこちらに向けた。隼はそんな反応は無視して近くにあった空いている椅子を引き寄せて座った。
「昨日佐々江とウノをやってたんだけど、覚えてる?」
 恭也は目を細めてじっと隼を見て、やがて首を振った。子どものような仕草だなと思った。
「まぁ、覚えてなくてもいい。ちょっと話したいことがあるから、放課後、誰もいなくなったら隣の教室に来てくれ、E組だ」
 それだけ告げて隼は立ち上がり、自分の教室へ戻った。教室はうるさかった。

「いらっしゃいませー」
「……どうも」
 約束通り、空き教室と化したE組に、恭也はやってきた。その小さな挨拶を以って、隼は初めて彼の声を聞いたことになる。見た目ほど声は高くないな、と思った。
「さぁどうぞ座って座ってー」
 英太が手をひらひらさせて着席を促す。恭也の不安げな視線がひしひしと英太にぶち当たっているのに、全く気づいていないらしい。今回は気づかないフリではなく、本気でそうなのだろう。英太という人間は相手の都合をそう深くまで斟酌しない。
「……」
 椅子に座ったものの、恭也は落ち着きが無い。
 なんとなく気の毒に思ったので、隼は英太のほうにアイコンタクトを送った。
「早速本題に入るけどね……、実は俺、佐々江と同じクラスなんだよ……?」
 英太はじろりと恭也を見やった。隼は手持ちに握りやすいものがあったら、それで問答無用に英太の頭をはたいてやりたかったが、残念ながら無かったので素手で叩きを入れた。
「あだっ」
「普通に喋れ」
「冷たいなあ。ま、そういうわけだからさ、昨日のこと聞き出したんだ。君と佐々江の間に何があったかをね。俺がね」
「……昨日、佐々江はお前からしつこく告白を受けたから逃げてきた、って言ってたんだ」
「そんな……」
 そんな馬鹿な、と言いたげに恭也は言った。
「まぁウソだって分かったよ。昨日のお前の様子を見ればな」
 浮気現場を見た男のような顔だな、と隼は思ったわけだが、あれは本当に告白を失敗したものがする表情ではない。好きに思っていた気持ちが裏切られた顔ではなく、信じていた者に裏切られた顔だ。天敵である狼と親しげにする同族を見た羊だったのだ。
「佐々江に聞いたらさー、実は君に話しかけられただけだったって。ひどい話だよな」
 珍しく結構真面目な顔を見せて、英太が言う。「中学でいじめられてたの? なんか佐々江は君が知らない男子のことが苦手って言っててなんか不自然に思ったんだよねえ、普通は異性じゃないの、って」
「えっ……、いや、いじめ……ではなくて……」
「まぁ俺の想像だけどな」
 しどろもどろになる恭也を隼は遮った。「男子から総スカンを食らってたんじゃないかなって。それで孤立してたけど、なんとか同期が誰もいない高校に来た。でもそのクセが残って男子に友達ができなかった。だから、同じ出身中でまだ話しやすい佐々江からまず交友を持とうとしたのか」
 しかし、同じ中学で彼の処遇を見てきた知識は、反射的に拒絶をしてしまった──。
「……概ねそれで正しい、よ」
 恭也は小さく言った。「……別に、拒絶されるのも慣れてるから、気にしないし……」
「んなわけあるかーーーーーーーーーーい!」
 英太が唐突に叫んで、どばっと盛大にカードの束を空中に放った。大量のカードが四散して、ぱらぱらと三人の頭上に降り注ぐ。
 その様をうっとりと眺めて英太はぼやいた。
「あー、こういうのいつかやってみたかったんだよなー」
「夢の成就おめでとう。さっさと後始末頼むぞ」
「……うい」
 そうして渋々と口を尖らせてカードを集め始める英太だった。
「ま、どうせそういう思考になってるだろうって思ったから、俺達が手を貸すってことで来てもらった」
「手を貸す……?」
「ここで俺達とお前が友達になっただけじゃ、お前がいじめで負ってきた傷は癒えないだろうと思ってね」
 隼は静かに言った。その時、ぽんっと机上に、英太が今まで集めていたカードの山を載せた。
「そういうこと」
「えっ……それってどういう……」
 恭也の顔に不安の色が浮かんだ、その時。
 ガラリ、と教室の引き戸が開いた。
「……」
 開かれた戸の前には、気まずい表情をした知識が立っていた。うっ、と恭也も小さな声を漏らす。正直、あまり気持ちの良くない対面だった。
 そんな雰囲気を気にも留めない男がここにいるが。
「よし四人揃った! ウノやろうぜ、ウノ!」
「え、ちょ、ちょっと……」
 英太は子どものようにはしゃいだ声を上げると、知識の背中を押して強引に予め用意しておいた席に座らせた。視線を落として沈黙する二人を差し置いて、隼はさっさとカードを振り分け、英太はゲーム開始の音頭をとる。
「じゃんけんとか面倒だから俺からね、時計回りで」
 昨日はあれだけ初手のカードに悩んでいたというのに、今日はさっさと一枚目を出した。間髪入れずに隼も次手を出す。次の順番は恭也。戸惑ったように視線を左右に彷徨わせていたが、やがて一枚、ぽんと出す。
「……」
 恭也の出したカードの上に、知識はなかなか次のカードを出せなかった。見様によっては恭也以上の戸惑いを見せて逡巡をしている。
 隼はじっとその様子を見ていたが、やがて口を開いた。
「全く問題ないよ。ここはもう高校なんだし」
「……」
「恭也が中学でどんな扱いを受けてたのか俺達は知らないし、ここに知ってる人もいない。誰の目を気にする必要はない……自分で選んでくれ」
 それだけしか隼に言うことは許されていなかった。それ以上言ったら、この二人の関係は純粋なものとなり得ない。隼はぼんやりと、だが少し緊張しながら次の展開を待った。
 しかし、なかなか進展しない。知識は黙ったまま、頭のなかで行ったり来たりを繰り返しているようだった。
「まだー?」
 そこへ水を差したのは、英太だった。その打ち合わせにない発言に、隼は冷や汗をかいた。
「これは俺の独り言だけどさ、俺がもし恭也の立場だったら相当ヤバイよ。だって、ずーっと孤立しててさ、やっと辿り着いたこの環境だけど、また最初は孤立してるんだぜ。孤立が習慣みたいな感じになってるのに、それを敢えて抜け出したいって、異性に最初に声をかけるなんて、俺には絶対無理だな、これは」
 椅子をがくがくと揺らしながら、英太はそんなことを言った。
 隼はその時、恭也のメガネの奥にある眼光が、少し輝いたのを見た気がした。そんな風に理解してくれるのは、生まれて初めての経験だ、とでも言うかのように。
 それを見たからなのか分からないが、ついに知識が手札の一枚を切った。
「……なんて言ったらいいのか分からないけど……、ごめんなさい」
 そして謝った。「……何となく、怖くって。別に、石地君が嫌いっていうわけじゃないんだけど……、その……」
「いじめっていうのはそういうことだよ」
 英太は手早く次のカードを場に出しながら言った。「いじめられっ子はなんか知らないけど、よくわからない怪物にされちゃうんだよ。フランケンシュタインみたいにな」
「……なんか高校に入ってから、お前真面目になったな」
 隼も次の手を出しつつ、感心した。「でもフランケンシュタインは怪物の方じゃなくて、怪物を作った創りだした博士の方だぞ」
「細かいな……小姑か、お前は!」
「この程度で小姑なら、お前はプロの小姑にいびり殺されるぞ」
「うわー、いやな死因だね」
「ぴったりといえばぴったりだ」
「俺が健気に社畜の夫と鬼姑のために働き続ける嫁に見えるのか!」
「見えない」
「それはそれでショックだ……、ん、どうした?」
 知識と恭也はぽかんとした風に、隼と英太の会話を聞いていた。英太の疑問に、ようやく口を開く権限が与えられた、といった風に知識が言った。
「……随分、仲が良いなって」
「これで仲良く見えるって?」
 隼は顔をしかめた。「……これが平常運転だから覚えておくといい」
「君等もこれくらいの友情が持てるといいね!」
 英太が思い切り親指を突き立てた。なんともくさいな、と隼は思った。だがまぁ、これはこれで良い。
「友情って……」
 知識はちらりと恭也の方を見やった。するとぎょっとした風に恭也は視線を逸らす。
「まだ慣れないだろうけど、少しずつ慣れていけば良い」
 隼は言った。「人との付き合いは難しいけど、皆無なんていうほど辛いものはない」
「何で……僕なんかを……?」
 恭也は落ち着かない目をして、隼に訊いた。隼は咄嗟に言葉が出なかった。自分から状況を打破しようとする気力がこの男にあったところを垣間見た、だからその手助けをしたに過ぎないのだが、それをどう言葉にするか──。
「何ゆってんだよ!」
 その結論が出る前に、英太が笑い飛ばした。「ゲームは四人でやるほうが楽しいって相場が決まってるんだよ! だから早くカード出して!」
「あ、うん……ごめん」
 慌てて恭也は自分のカードを場に出す。知識はまた少しだけ恭也の方を見やってから、今度はすぐにカードを出した。そうしてゲームは回り始めた。いちいち英太がヤジを飛ばすので、そこそこに賑やかな雰囲気で進められていき、最終的には皆の口数は多くなっていった。
「あ……、もう帰らなきゃ」
 3ゲーム行ったところで、知識が腕時計を見て言った。
「そりゃあ、仕方がないな、それじゃあ解散するかあ」
 英太がカードを集め始める。隼はそれを手伝わずに背もたれに深く凭れて眺めながら、知識に訊ねた。
「門限なのか?」
「うん……うち、厳しくてさ。家も遠いから早めに帰らなきゃ」
「……同じ中学なんだから、恭也と地元一緒なんだろ? 一緒に帰ったらどうだ」
 隼は何気なく提案した。すると、知識はえっ、と少し意外そうな反応をしただけだったが、恭也の方は目を見開いて顔は真っ赤になり、何かを訴えたいのか口元がガクガクとさせ始めた。
 英太は恭也のそんな様子を面白がった。
「そんな緊張することないっしょー、むしろドキドキしろよ、少年!」
「緊張しないでドキドキしろってどういうことなの……」
 知識が困惑するように柔らかなツッコミを入れる。
「わ、わ、分かった……一緒に帰ろう……」
 恭也が震える声で言った。元はといえば、自分から交流を持とうとしたくせに、成功して次の段階に進んでからここまで緊張しだすのは、なんとなく順序が逆なような気がしなくもない。
「うん、いいよ。それじゃあ」
 知識はあっさりと頷いて、カバンを肩にかけて立ち上がった。「また、やろうね」
「おうよー! ゲームは四人でやるものだからなー!」
「……」
 二人を見送ってから、隼と英太は椅子と机を元の位置に戻した。
 達成感があったかどうかと訊かれたら、ほとんどないと言ったら嘘になる。だが、それよりも自分が救われた気分の方が大きかった。英太の方からあの二人の引き合わせは提案されたのだが、そうでなくても隼は自分から切り出すつもりだった。
 隼は幼馴染の時木衣桜と別れてしまった。その穴を埋め合わせるために、ほとんど素性を知らない二人を引きあわせた。
 結局はそんなところだった。自分の気分を紛らわすための、たったそれだけのことだったが。
「いやーまぁ、楽しかったなぁ」
 英太がニヤニヤだかニコニコだか判別しにくい表情で言った。
「……お前、どうして恭也に手を貸そうと思ったんだ」
「ん? さっき言ったけど、頑張る芽をほっとくわけにはいかないだろ。それにあいつ、かなりの逸材だぜ、コミュ障のままほうっておくのはかなりもったいない」
「ふぅん……お前らしいな」
 隼は淡白な反応を返した。結構、こう見えて英太はなかなかに打算的だ。反して、隼は気分屋でもあると自覚している。やはり目的は違ったようだ。
「ま、一番の目的はゲームの頭合わせだけどな! これで安定して四人でウノができる!」
 英太は心底嬉しそうな調子で言った。どうせこっちのほうが大きな動機なんだろうな、と隼は思った。
 ──俺もそうだ、なんて隼は口が裂けても言えない。この気持ちは墓まで持って行こう、と心に決めた。




これ、書くのに一ヶ月くらいかけたんだってことを思い出しました。
別に一日一行とかそういうわけじゃなくて、冒頭を7月頭に、それ以外をさっき書いたので、なんか前後で文脈の齟齬があるかもしれないな、って思ったけど、まぁ別にいいや、って思ったので、そのまま載せました。

これから本編につながります。本編はこれの一年後からスタートする。
これだけ読むとふつうの学園モノになりそうですけど、これは二年前に書いたマイリビングライセンスなる小説のセルフアレンジになるので、まぁつまりゴシックアクションになります。行き当たりばったりな感じだった展開を色々といじくって、色々な感じにします。
設定は全く同じだけど、パラレルな続編みたいな気分で味わってもらえればいいのかな~~っていう。
いやまぁこの対象となる読者は正確には皆様ではないのですが。新人賞向けなのですが。
とにかく書かないと始まらないということが分かったので、今夏はもう一本、プロットをなんか書こうと思ってます。何も考えてないのでたぶん成就しないと思いますけど。怠け者なので。
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  1. 2013/08/02(金) 21:06:35|
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可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

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