弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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ノン・ノン・フィクション

筒井康隆とか読んでたら短編が描きたくなったので、かきました。
本当はこんなことしてる暇なかったんですけど、演習の発表がアレなんですけど、まあ、まだ大丈夫です。後輩から借りた伊坂幸太郎をずっと読んでます。
http://ncode.syosetu.com/n4394cj/
ここからでも読めますが、こちらにも全文はります。

ーーーーーーーーーーー
 私は物語を提供してきた。物語と一口に言っても、各々色々と思うところがあるはずだ。あらゆる距離感が消失したハードなサイエンスフィクションであったり、自尊心に指図されるがままに人を殺して自慢するような殺人者を描くミステリだったり、「君を愛してる」をいかに回りくどい方法で打ち明けるのかはらはらするようなラブストーリーであったりするだろう。
 私の物語はそういった『売れるための物語』と目的は一緒なのだが、本質はもっと根源に根ざしている。そう、それは紀元前に紡がれていた神話の類に近い。彼らは決して、商売のために物語を考えていたわけではなく、自分達が何者であるのかを確かめるために、集団としての正統性を説得するために物語を編んだ。その物語は、『事実』なのである。誰もが事実であると信じこみ、よってめいめいがその役割に敢えて準じ、数千年もの歴史を経験してきた。
 こう言うと、私の仕事を知るものは皆顔をしかめる。どの口でそんな綺麗事を──、と。
 私の仕事とは、プロットを提供することである。提供先はテレビ局や新聞といったマスメディアが大半だ。たまに、寂寥に耐え切れなくなった金持ちの年寄りを相手にしたりする。
 人間は皆、美談を好む。特にマスメディアに取り上げられる美談というのは、一層に箔が付くというもので、「情報なんて手に取るようにいくらでも手にはいる人達が紹介してくれる話なのだから、きっと厳選された逸話なのに違いがない」と人は無意識に思うようである。私は、その美談を提供する。
 もちろん、それらはフィクションだ。私の与えた話には何一つ本当のものはない。私のプロットを受け取ったテレビ局は、早速役者探しに出かける。舞台を探しに出かける。まあ、早い話が「ヤラセ」なのである。決してドラマやテレビ小説ではない。私は『事実』として物語を演出するのを得意としていたのだ。
 テレビはひっきりなしに美談を紹介する。何県在住のなになにさんは、苦労して起業して経営を軌道に乗せたが、その際お世話になった人は今は亡くなってしまった。いま、その人への想いを語ってもらう。アウトラインはありきたりだが、中身を工夫すれば──例えば時事問題に絡めるとかすれば──新鮮なものに見えたりする。窮地に陥った時、助けてくれた。自信が無くなった時に慰めてもらった。災害の時に命と引き換えに自分を守ってくれた。これだけのプロットを、感動的なオーケストラに乗せて流せば、皆、涙する。涙している人達に、「実は自分の体験を懐かしそうに語る彼らは金で雇われたエキストラで、話も全部嘘っぱちですよ」と囁くのは無粋というものだろう。感傷の前に、真偽などどうでも良い。マスメディアが『事実』として語る時、それらは視聴者の『事実』として吸収されていくのだ。
 私はこの手の話を三百は手がけてきた。二十ウン時間に渡って放映されるチャリティー番組へは、身体的にペナルティを負った人々についてのプロットも提供した。この時ばかりは流石にデタラメを並び立てるわけにもいかず、わざわざ病院に出向いて取材をして、「ちょっとしたスターになりたい人」を探した。私は彼と画策してひとつのプロットを作り上げ、納品した。大好きなプロ野球選手にホームランをお願いする難病の少年のエピソードをベースに、そこに「実在」という調味料をかけてやれば感動的な話はいくらでも作れる。私は大した達成感もなしに、いい額の報酬を受け取ることが出来た。
 そういうわけで、自称善良な人々に私はよくひどく批判を受けるのだが、私は単に需要に応えて仕事をしただけであり、プロットの用途には関知していない、というスタンスを貫いているし、それに私の物語を目撃した人間の多くは感動を覚えている。誹りを受ける義理もないし悪い事をしているのだ、という感慨もない。
 しかしながらとうとう先週、私は週刊誌の記者なる男に突っかかられた。
「あなたは人を騙して金を稼いでいますね、そのことについてどうお考えですか」
「騙して、だなんてとんでもない。私のもとには『騙された!』という問い合わせはありません」
「でもあなたの作ったウソに、大勢の人がウソの涙を流している。これを騙していると言わずして、何というのですか」
「私の物語に共感して出た涙はウソなんかじゃありませんよ」
「例えそうだとしても、あなたは人の感情を弄んで金を得ている。まるきり悪人だ」
「どうして私が悪人なんですかね……、例の下半身不随の子だって、私に感謝していたし、そのドキュメントを見た人は感動した! とメッセージを送ってきてくれた。テレビ局もネタ切れに困る心配はない。誰も損していないのに、どうして私が悪人呼ばわりされなければいけないのか分からないな」
 記者なる男はすっかり怒ってしまった。
「あれをドキュメントだと! いいでしょう、このことを記事にしますから、覚悟しておいてください」


 なるほど、今週の週刊誌にそのことが載ったらしい。私の本名は伏せられていたが、『デタラメ美談を売り歩く男』という見出しがついていた。そんなフィクションみたいな見出しをつけるから、週刊誌は信用されないんじゃないか、と私は苦笑いした。いくら内容が本物のことだったとしても、読者が「またゴシップ雑誌が何か言ってらあ」と笑い飛ばすのでは、ニセモノと変わらない。同じエンターテイメントでも扱い方でここまで差が生じてしまうのだ。
 私はあくまで苦笑して見過ごすつもりだったのだが、結果として、その記事のせいですっかり仕事が無くなってしまった。その三流週刊誌のインチキくさいエンタメ記事を信じこんで、テレビ局に本当かよ、と問い合わせる電話が相次いだらしい。むろん局の方はそれを否定して適当に応対したものの、そのあとも抜け抜けと私に仕事を依頼するような気分になれなかったのは、まあ自然な感情ではある。
 そういう意味では私の仕事は寿命に達していたのだろう。大勢の人の、せっかくの感動をぶち壊すような輩が出てくるのは時間の問題だったのだ。これからは、ますますマスメディア不信が旺盛になっていくことだろう。しかたがないことだ。
 仕事は無くとも当面の食い扶持はあるので、なんとなしに過ごしていた。もし金に困ったら、元の職場に戻ることになるだろう。美談提供者としての仕事が無くなった時のために、休職扱いにしておいてもらっておいてよかった。

 私はこれまでの人生で、よく散歩をした。古風な趣味だとは思うが、私の手がけた物語を用いた番組のDVDを懐に入れて歩いていると、ぽっとアイデアが出てくる。それは物語を仕事にしていた頃からの習慣であり、もうその仕事が無くなった今でも同じように歩いてしまう。昔の知識人はそれはもうとにかく散歩をしたらしいが、その気持はとてもよく分かるというものだ。
 今日は少し趣向を変えて、いつも歩いている道とは反対方向に向かってみた。よくぞまあ、何年も同じ道ばっか歩いてきたもんだ、と我ながら呆れてしまったのである。私の家は、住居がまとまってぽつぽつある地区の端にあり、いつもはその真中の方へとくりだしていたものだ。道をゆく人々の顔を見て「この人はこんな喜劇に似合いそうだなあ」とか考えていると、パッと話が浮かぶのだ。が、今の身の上では人の顔を見る必要もなくなった。今まで散々無視してきた道を歩んでも良いはずだ。
 家を出て、いつもと逆方向へ向かうとすぐに殺風景になる。人通りも少なっていき、ほどなくして背の低い草の生い茂った緩やかな丘が見えてくる。そのふもとを縫うように砂利道が通っていて、私はそこをのこのこと歩いて行く。昼過ぎの太陽はやや傾いて、丘の緑色を眩く照らしている。もし私に子どもが居たら、休みの日などにここへ連れてきてキャッチボールでもしたいものだ、とぼんやりと思った。結婚はしたくないが、子どもは欲しかった。そんな風に思う年齢に達してしまったのか、と静かに愕然としながら、蹴るように足を動かす。
 一時間ほどかけて丘をぐるりと周り、反対側に達したところで私はそれを発見した。……それは二階建ての粗末な小屋だった。砂利道に疎まれて追い出された憎まれっ子のように、繁茂する草に囲まれてぽつんと佇んでいる。しかし、意外なことに電線が通っており、新しめのエアコンの室外機が草に覆われながらも動作していた。誰かが住んでいるのだ。
 こんな辺鄙な場所に誰が、と私は半ば絶句しながら、なんとはなしにその小屋に近づいていってみた。木造でつくりはしっかりしているのだが、人に見せる気がゼロのようで外見には何の気も使われていない。そのせいで粗末に見えるのだった。
 私が呆然とその小屋を見上げていると、その建物の裏手からがさごそと音がした。「うっかり間違えて立ててしまったような」音だったので私は眉をひそめ、足音を忍ばせながら裏の方へと回ってみることにした。生い茂る草が音を立てないよう慎重に歩みを重ね、角を曲がろうとしたその時──、誰かと鉢合わせた。
「うああああああああ、わあああああ」
 そんな情けない声を出したのは私ではない。相手だ。こっちが驚く気を無くすほど、相手は驚いて腰を抜かしてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! だ、脱走なんて……しようとしたわけじゃないんですよ! く、空気が吸いたいなって! あ、ご、ごめんなさい」
 真っ青な顔でぶるぶると喚き出す。なんだこいつは。
「脱走って……何のことですか。あなたはここに閉じこめられてるんですか」
 私が訝りながらそう訊ねると、相手は目を点にして「へ?」と間の抜けた声を出した。
「あ……あなたは、ち、父からのお目付け役ではないのですか」
「何ですか、それは。私は通りすがりの……作家です」
 私はつい、少し見栄を張って言った。物語を仕事にしていた時、自分の職業を作家と語っていた時の癖がそのまま出てしまったのだ。
「……作家……?」
「ええ。あんまり表には出ませんがね。散歩してたら怪しげな物音がするから覗いてみただけです」
 私がそう告げると、相手はすっかり安堵したように息を漏らした。
「はああ、良かった……。逃げ出そうとしたことが父にバレたら、しょっぴかれるどころの騒ぎじゃないからな……」
「どういうことなんですか」
「ええと……少し事情が、ややこしいのです、うちは……」
 相手──明らかに運動が不得手なのだろと思われる、ひょろっとした体躯の少年は立ち上がって、身体にくっついた土を払った。
「早い話が、僕はここに閉じ込められています。父の新手の教育法なんです、こんな辺鄙な山奥に子どもを一人で暮らさせて、義務教育の垢をつけさせまいとしているんです。僕は小学校中学年からここに入れられて、八年くらいが経とうとしています」
「とんでもない話だ……」
 そんなことを淡々と語る少年に、私は未だ信じられない思いでいた。
「でしょ? 電気もネットも通じてるんで、それでオンデマンドでひたすら勉強をしています。テレビ電話で外国人と話したりさせられるので、一応コミュニケーション能力は保持できてるんですが……でも僕が話すことができるのは彼らだけで、しかも必要なこと以外は喋ってくれない。それ以外の外界との連絡は一週間に一回、トラックで食料の搬入があるくらいです」
 少年は訴えるような口調だった。そんな環境で八年もよく耐えてきたな、と私は素直に感心してしまう。
「なるほど、それで脱出しようとした、と。それは同情しますよ。じゃあ、私は見なかったことにするので、是非とも逃げてくださいよ」
 私がそう言ってすっと道を開けてやると、少年は少し驚いたように目を見開き、やがて困ったように視線をきょときょとと動かし始めた。
「え……いや……、その」
「どうしたんです?」
「……なんだか、あなたに見つかって、すっかり逃げる気力が無くなってしまいました……。僕にとってはこの建物から出るだけでも、大冒険だったものですから」
 少年はそう言って、しみじみと小屋を見上げる。小屋の二階部分の窓が開いていて、そこからシーツのようなものがぺろんとはみ出ている。さしずめ、部屋の中でベッドか何かに結び付けられていて、ロープ代わりに降りてきたんだろう。二階程度なら、飛び降りてもよさそうなものなのだが。そして、この程度で大冒険というのならば、私の家から片道一時間程度の道は天竺への道並の厳しさになるだろうな、と思った。
「はあ、それなら別にいいんですけど。じゃあ、私はもう少し散歩をするんで、此のへんで」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 少年は立ち去ろうとする私を慌てて呼び止める。妙な奴と関わってしまったな、という感情が今のところ強い。父親も父親だが、この少年もこの少年で、意志の弱さが尋常じゃない。たかだが、この程度で挫かれるような意志なら、きっと彼が街に辿り着くのは数十年先のことだろう。
「ぼ、僕ここに来る前はすごい本とか好きだったんですけど、此処に来てからは全然読ませてもらえないんです……、あ、あの、もし良ければ……先生の本を分けてもらえないでしょうか?」
 おやおや……、私はそう口に出そうになるのをこらえた。少年は必死だった。どう人にものを頼めばいいのかよく分かっていないらしい。それもそうだ、学校というのは人間関係を練習する場所でもあるのに、こんな辺鄙な(といっても車で一五分程度だろうが)ところに閉じこもっていては、そんなこと学びようがあるまい。
 私はむろん、断るつもりだった。先生などと呼ばれたところで、そういうニュアンスの必要な作家ではないので、ほらよ、ポン、と差し出せる単行本なんて書いたことはない。
 だが、そう告げようと口を開きかけたところで、少年は言った。
「いくらでも、お金はあるので……」
「なんですって?」
 私はつい問い返した。何故か少年は照れくさそうにしている。
「お金はあるんです。こんなところにいるのに、何故か父はお小遣いをくれます」
「意味が分からないですね。お父さんは本当に、君のことを考えてるのかどうか甚だ疑問だ」
「か、考えてくれてると思います。だって、食料をきちんと届けてくれるしね」
 呆れた。少年の世界は呆れるほどに狭かったのだ。メシを食わせてやるだけで親身に考えていると思ってくれる息子や娘だらけだったら、大変だ。
 まあ、でも金をくれるというのはありがたい話だ。職のあてはあるが、あれほど儲けた後だと働くのも億劫だ。少しでも収入があるに越したことはない。
「実は私はただの作家ではなくて、こういうのを作る仕事をしている」
 私はそう言って、数年来の癖でずっと持ち歩いているDVDを取り出した。それを見た少年は目を丸くする。
「え、番組を作ってるんですか?」
「まあ、そんなようなもんだね。これは番組のスタッフが全国の尋ね人チラシを集めてきて探してあげる、って趣旨のものなんだ──、今日はたまたまこれを持ってたんだが、どうだい、見るかい?」
 訊ねると、世間知らずの少年はかくかくと頷いた。テレビ番組というものを知っては居るが、見たことは無いから是非見たいんだ、という熱意が伝わってきた。
 私は小屋にあげてもらったのだが、一筋縄ではいかなかった。玄関には監視カメラがついており、そこから入ると父親に私が彼と接触したことがバレてしまうらしい。
 なので、二階の窓からはみ出たシーツをロープ代わりにして侵入するほかなかった。だが、仕方がない、金のためだ。
 小屋の中は普通の一軒家にも引けをとらないほどしっかりしていて、なんと居間には立派な暖炉が備え付けられているのだから閉口した。確かに冬にはそこそこ寒くなるが、それでも年に二、三度雪が降れば良い方なところだから、こんな設備は要らない。さしづめ、この家をくれてやった父親もこの少年と同じような世間知らず教育を受けてきたに違いない。だがなるほど、電話の類はほとんどなく外部が連絡がとれるようにはなっていない。
「テレビはあるんですが、電波を受け取れるようになってないんです」
 なるほど、大きな薄型テレビにはごたごたとした機械がついているが、地上波を受け取れる機構はないようだった。右上にカメラがついていて、それでその教育者である外国人たちと対話をするのだろうが、そのいかつい出で立ちはまるで監視カメラのようだった。
 少年は私からディスクを受け取って、プレイヤーに入れた。その傍らに大量の白いラベルのDVDが積まれている。「英語」「数学」「科学」「物理」「日本史」「地理」と書かれ、番号がふられている。ここまでくるとオンデマンドと言っていいのかどうか分からない。
 液晶テレビはタイトルを映しだした。懐かしい、これは確か初めての仕事だった。私は大学時代、趣味で短編小説などを書いていたのだが、社会人になってからテレビ局に入った友人がそのことを知っていて、この話を持ちかけてきたのだ。今では私と関係ない番組でディレクターなどをやっているはずだが、仕事の斡旋などをしてくれるのはそいつだったので、私の恩人といっても差支えはない。私が物語るようなお涙頂戴の恩人とはまた違うが。
 生きるためとはいえ、よくこんなフィクションを本物めかして語ることができたと我ながら感心してしまう。今、画面では生き別れていた母娘が様々な人の助けを得て、なんとか再会を果たしている場面だった。おいおいと泣きながら、ありがとうありがとうと娘が言っている。大した演技だ、と私は冷めた目でそれを見るが、少年には悟られないようにしなければならなかった。
 ふと、私は少年の顔色を窺ってみた。私の物語への反応は、ほとんど投書でしか知らなかったので、リアルタイムで鑑賞している人の表情というものを見たことがなかったのだ。
 ……彼は泣いていた。幼さの残る瞳から、ぽろぽろとスポイトで落とすように輝く涙を零している。うぐっ、と息を飲み込む音がする。鼻水がだらしなく垂れてきている。私の視線には気づかず、一心に画面に食いついている。
 スタッフロールが流れだす。横向きに流れているのは、私の狂言の共犯者達の名簿だ。私の名前も流れているが、あたかも黒子のような位置づけがされている。
「す、スゴイです……感動しました……、外の世界には、こんな……優しさが……、あるんですね」
 少年は顔面から溢れてくる涙や水をぐしぐしと拭って、熱っぽく語ってきた。
「まあ……ね。信じている限り、世界は暖かい」
 私は当事者のような顔をして、そう言うほかなかった。信じている限り。君が、そう信じている限り。この話が、事実であると、信じている限り、君の中の世界は暖かいんだ。
「こ、これ……うけどっでください……」
 少年は一万円札を差し出してきた。私は流石に一回り年下の少年から万札を受け取ることに抵抗を覚えて拒否したが、どうしても、どうしてもと無理やりに私のポケットにねじ込んできた。
「あなたが、作ったのはこれだけなのですか?」
 少年はDVDのパッケージを見ながら訊ねてくる。他にないのか? と問うているのだ。
「いや、何年かやっていたから。結構ある」
「ほ、本当ですか……。その……も、もっと見たいのですが……!」
 それにしても、本当に頼み方が下手くそだった。感極まっているのだから仕方がないのだろうが──、私は苦笑して頷いた。
「じゃあ明日持ってきてあげようか」
「あ、ありがとうございます!」
 少年は土下座をした。ごん、と額を床に打ち付ける音がする。私はその仰々しさに、呆気に取られてしまう。

 それから数ヶ月間、私はこの小屋に通ってはDVDを売りつけた。問答無用で一枚一万円で買ってくれるので、自然私が遊んでいられる時間は増えた。せっかくだから、この期間に小説でも書いて賞に応募してやろう、と少しずつ書き始めることにした。人間関係が絡まりつつ、最終的に暖かいエンドに向かう物語だ。メディアに売りつけるプロットと違い、キャラクターが少し突飛でも許されるので、楽な気持ちで書くことが出来た。
 少年は勉強する以外の時間を、ほとんど私のDVD鑑賞にあてたようだ。気に入ったものは、何度も何度も見返したらしい。彼は涙を流しながら言う。故障した電車の下に閉じ込められた子どもを助けるために、乗客全員が諦めずに立ち向かった話は本当に素晴らしかった。僕は、見ず知らずの女の子の夢を叶えるために駆け回った男性みたいになりたい。こんな風に、テレビに出なくたっていいんだ。僕は誰かに助けられ、助ける存在になりたい。こういう人達になりたい。
 私がこれらのプロットを作る点で留意しているのは、本当に悪い人を書かない、という点だ。嫌な人は確かに居るが、彼らは自分が登場人物たちに与える影響をあまり自覚していない。故に、どこかこじれて歪になって、観客にプレッシャーを与える。しかし、最後の方になってそのこじれが解消されると、大きなカタルシスが生まれる。本当に頭が悪く、害しかなさないような人物は、この歪さを決して解消させない。故に、私はそれを書かなかった。少年はそのことに気づいているのだろうか。きっと、ムリだろう。
 少年は私の作品を全て鑑賞し終えた。いや……厳密に言うと、あの週刊誌が私の最後の作品であるので、全てとは言えない。これらのDVDの盛大なオチとして、あの週刊誌は存在するのだ。むろん、私は彼にそれを手渡したりはしない。
「これで全部だよ。本当にありがとう」
 最後のDVDを渡す時、私は彼に本心からそう告げた。君のお陰で当分の間、お金に困らなかったよ、ありがとう。人は私を軽蔑するだろう。だが私の基本スタンスは、「生きるため」だ。生きるため、つまりは金のために、私は美談を作っていた。今更、それを覆せない。視聴者が涙を流して素晴らしかった、と私の手を握るたびに、「では次の作品も買ってくれよ」と言うのをこらえていたのだ。
 それに、確かに私はフィクションをノンフィクションと騙って見せるように仕向けてきたが、あの週刊誌の記者に向かって言った言葉は真実だと思っている。私の物語に共感して出た涙はウソなんかじゃない。私の『美談』を通じて湧きでてきた感情は、本人にとっては紛れも無く本物だろう? それが人間らしさというものだろう? 私の事業に敏感なものが、どうして物語を批判するのかよく分からない。物語は物語でしか無い。それを通じた人間に生じる感情は、虚構とか事実とか、そういう次元で語るものではない、と私は思う。
 私はそれで金をもらう。感情を弄んで金をもらっているなんて論はバカバカしい。私は物語を提供して金をもらっている。感情など、対価として求めていない。それで責められるのは私ではない。物語を感情を煽り立てる材料として使う、マスメディアのほうが責められるべきなのだ。
「僕、もっと勉強します。そして、いつか、ここからこっそりと立ち去るつもりです」
 少年は毅然として言った。初めて出会った時みたいな、井戸の中だけの大冒険で終わることは無いだろう。私は、彼の姿を見て確信した。
「そうか。そしたら、私達はもう二度と会うことはないだろう」
「そうですね……でも、僕、きっと自分が役に立てる場所を探しますから。僕はあなたと会えて、本当に良かった」
「ああ、私もだ」
 私は本心からそう言った。幼さの残っていた少年の目は、希望の光が宿る青年の目へと、成長していた。
 私はその後、小説で新人賞を受賞した。若者の熟しきらない感情が、時に絡み合い傷つけ合い離別し、懊悩してやがてひとつの暖かい場所へと向かう、そんな長編小説だ。あの小屋から少年が居なくなってから書き始めたものだ。この小説にはあの少年をモデルにした人物が居る。部屋に立てこもって、ゲームばかりしている少年。ゲームが伝える哲学を信奉して、我武者羅に突っ走っていく──。
 何度も言うが、私は金のためにこの小説を書いた。そして、新人賞を受賞した。もう元の職場には戻らないだろう。私はもう、物語を売って生きていくしか無い。どんなに人を喜ばせ、感動せしめ、或いは傷つけ、怒らせたところで、私には関係はない。そんな『事実』はどうでもいいのだ。私が必要とするのは、生きていくための『虚構』なのだから。

 ──数年の後、少年と再会することになるとは思わなかった。
「お久しぶりです!」
 夕方、私はこれから本屋大賞の受賞披露宴へ出かけるところだった。昨年出した本がどういうことか、その座を取ってしまったのだ。今までのと違って取材にでかけて行って書いたものだったのだが、それはかの下半身不随の子のプロットを描き上げるのと大して変わらない労力をかけたのみだったので、あまり達成感はなかった。それだけに拍子抜けだった。
 で、今や売れっ子の作家である私に声をかけてきたのは、なんとあの時の少年だった。いや、もうすっかり青年といっても良い。もう、彼は大人になっていた。
 しかし、私は一瞬彼が誰だか分からなかった。二秒ほど、彼の顔を凝視してようやく合点がいった。
「ああ、君か!」
 何故、すぐにピンと来なかったか、と言えば彼は随分と痩せこけていたからだ。まるで奴隷船に乗せられてきたばかりのようだった。最後に見た時には希望で満ちていたはずの目には、家畜の脂で燃やしているような光を宿している。
「あの小屋を脱出してから身を立てるのが大変でした! でも、今ではこうして立派な会社に努めております」
 私は彼から名刺を受け取ると、そこには誰もが知っている会社の名前が書かれていた。──労働環境が苛烈なことで、誰もが知っている会社の名前、だ。
「やっと、ここで自分の場所を見つけることができたんです! そして同時に、働くことの意義、大切さを知りました。『労働は人を自由にする』って、誰が言ったのか知りませんが、昔の人の格言だそうですね。そのとおりだと思います! 僕はこれほどまで、人のために役立っていることを実感している時はありませんでしたよ……!」
 私は絶句してしまった。もはや、なんと言っていいのか、さっぱり分からずに無理に地面へ差し込まれた棒のように佇んでいた。私を動かしていたあらゆる色の砂がさぁっ、と身体から漏れだしていくような心地がした。
「さて、僕はそろそろ失礼します! これから夜通しで店番をしなくてはいけないのです。働く人が少なくて、ちょっと困ってます。これも若い人がテレビを見なくなったからでしょうね……。それじゃあ、また! お身体にお気をつけて!」
「お、おう……」
 彼はすたすたと足早に立ち去った。その細くなっていく後ろ姿を見ていて、私はすごく泣きたい気分になってきた。生まれて初めて、こんな罪悪感を感じた。自分の歩いてきた道が、ふいに恐ろしくなった。
 私はそのまま踵を返して、家へ帰った。布団にくるまって、目を固く瞑った。電話が幾度か鳴ったが、黙殺した。
 このまま夜が、永遠に続くような気がした。

ーーーーーーーーーーーーーー
これ、どんな感じで受け取られるのか気になるので、感想ぜひください。なければそれはよいですが……。
授業のコメントペーパーとか、自分すごい書くのが苦手なので、アレなのです……、いつも早く帰りたいと思いながら、教室に居残って書いてます。とても悲しいのだ。
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  1. 2014/11/09(日) 20:28:33|
  2. 尋常の日記・雑記
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可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

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