弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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情報を越えたひとつの記録として

 ハヤカワ書房『伊藤計劃記録Ⅰ・Ⅱ』を読んだ。ウェブに載せられた文章をまとめたもの(この文量で映画・SFに関わる一部らしい)なので編集の手が最低限しかかかっていないはずなのに、このクオリティはおかしいと思った。無論、記事の選別はあったろうけれども、4年間でふつうの文庫本二冊分の良質記事があることを考えると、7年かけてやっとここまで辿り着いた自分にとっては雲の上のような存在である。っていうか、もう七年かよ。来月で2008年から始めた当ブログは8年目を迎えます。5年目よりもアニバーサリー感が強いな、七年間て。子どもリンクが大人リンクになるのと同じだけの距離を歩いてきたけど、果たして時の勇者みたいな成長を遂げられたのやら。
 しかし、当の伊藤計劃は98年からWebで文章を書いているらしいので、亡くなる2009年までのおおよそ10年間はWebで物書きをやっていらしい。2006年には処女作とは思えない傑作『虐殺器官』を書き上げているけど、これは彼が文章を書き始めた8年目にあたる。つまり、僕も今年何かを書き上げられるだけのキャリアはある……んだけど、それがSF系の賞を総なめするだけの破壊力を持っているか、んなわけあるかーい。
 で、彼が作家デビューをしてすぐに小島監督直々にMGS4ノベライズの依頼があって、10日間で400枚を書くとかいう怪物ペースで『メタルギアソリッド ガンズオブザパトリオット』を上梓。抗癌治療で入院中、ヒマだったとはいえ、このペースはやっぱりおかしい。僕も一週間で250枚を書いたことがあるけど、頭がおかしくなるかと思った。それが憧れていた作品のノベライズとか考えると、やっぱりバケモノと言う他ない。彼の遺伝子から、最強のSF作家を生み出してもそのコストと見合いそうだ。
 その後に、苦労して『ハーモニー』を書いたらしい。これもまあほとんど病院で。病院という空間は、僕も祖父母の見舞いとかでよく行ったことがあるけど、日常的な非日常がその空気に溢れている。つまりまあ、別世界だというわけだ。ご飯を待って机に並んでいる老人たち、点滴のアレ(幸い健康な体を持って生まれてしまった身なので、医療機器の名称を全然知らない)をコロコロ転がして移動する人、看護師の異常なまでに清潔な出で立ち、そしてなんというか、患者のメンタルを和らげるために最大限の意匠を凝らした病院の内装は、何としてでも死の気配を追いだそうとしているが故に、死の気配を却って濃厚にしている。その中で、核戦争による終末の去った時代を書くというのは、、どういう気持なのか。自ら必死で生きている身であるのに、その中で自殺しようとする少女たちを描いた時、何を思っていたのだろうか。まぁ、そこまでいくと『想像ラジオ』的なアイデアであって、僕には今のところそれだけの勇気もないし、それをここでわざわざ文章化するまでも無いから、その先まで踏み込まないけど。
 で、『伊藤計劃記録』を読み通して思ったのは、僕は『ハーモニー』は書かれるべきではなかったんじゃないかということだった。いや、本当に間違いなく傑作で、アメリカではフィリップKディック賞とかいうバケモノみたいな賞を受賞しているし、この作品のラストは全SF作家に文字通りの震撼を与えたわけで、神林長平は三年後になってようやくこの作品に作品で呼応するという動揺ぶり(あの『批評』はホントに動揺にしか見えなかったんだよな)。
 それでも書かれるべきじゃなかったと思うのは、この作品の設定自体が彼自身の入院生活に根ざしているからだ。フーコーがあまりにも有名すぎて引用するのも野暮な例の著述で言ったように、病院っていうのは刑務所、学校に並べられる「権威」の機構であって、そこで人は自律的に他律的になるよう調教される。病院のような極度の親切を無条件に与えられる場(『死』を回避する機関なのだから当然なんだけど)に否応なく縛られていた身の上から、極端な「福祉社会」というアイデアが発したらしい。もともと核戦争の話が書きたかったらしく、しかし結果的に核戦争の後の話になったというが、僕は彼が病魔に蝕まれていなければ核戦争の話が書けたのではないかと思えてならない。文庫版『屍者の帝国』で円城塔さんが言っている風に、伊藤計劃はどこか病気ありきで語られる節があるけど、それは彼の作家としての才能と全く関係がないものだと思う。病気でなければ、もっと良い作品が書けた。『ハーモニー』は踏み台みたいな作品だったんだ。当たり前の話なんだけどさ、どこか彼に関する批評を読んでいても、「伊藤計劃は死を運命づけられた作家だった」みたいな見方が多い。それはそうで『虐殺器官』が書かれたのも、彼が自分の寿命を指折り数えた結果ではある。でもやっぱりそれは結果論なんだ。本来は『ハーモニー』なんて書かれずに、アメコミみたいなヒーロー物を書いてくれれば良かった。でも、これは感傷だなあ、やっぱり。僕は彼の作品の批評をしたくてたまらないんだけど、きっと半年かけてもムリだろうと思う。「そんなこと言われたら何も言えなくなっちゃうじゃん」ということを彼は言ってしまっている。それを剥ぎ取る覚悟が、半年でつくとは思えない。

 で、『伊藤計劃記録』を読んだ時、先の記事で言ったけれど、彼の怒りというものがなんとも新鮮だった。先日、記事で言及した時はまだそんなに読み進めていなかったから、滲み出る怒りについての言及だったけど、もっと露骨な怒りがあった。解説で塩澤さんも指摘していたので、みんなびっくりするところなんだな、と。
 というのも、ネットに転がる映画評についてのエントリー。題して「誰も信じるな」。
 要するに、「このワードを使って映画評をしている奴は、もれなくバカ」という、僕の大好きなことを言っている記事なのですね。一部抜粋する。

・ストーリーが読めてしまうからよくない。
・エンタメとしてすばらしい。
・芸術としてすばらしい。
・人物描写が深くて良い/浅くてダメ。
・テーマが深くて良い/浅くてダメ。
・登場人物に感情移入できないのでよくない。

 伊藤計劃曰く、こういう観点で論じる奴はもれなくバカである、と。映画評を読んで、これらのワード(もっと挙げてるけど)が出てきたら、すぐにブラウザを閉じなさい、と。僕が言ったんじゃなくて、伊藤さんが言ったのよ。皆さんも気をつけましょうね。映画に限らず、あらゆるジャンルの作品について、こういうことを言っちゃう人がいるので。
 で、更に絞って「深い/浅い」、そして「薄い」を要注意ワードにあげている。これらは、「責任とか自分とかいったものからものすごく遠い単語です」。それと、「感情移入」。これについては「最悪バカワード」と言ってて笑ってしまった。何故か、映画という機能上、観客に登場人物に感情移入をさせる必要が全くないから、と言っている。僕にとっては、映画に限らず物語作品においては当たり前オブ当たり前のことなんですけど、どうもそうではない人がいるらしい。そういう人が恋愛面で、「あの子が何を考えているのかわからない……」って思い悩むんじゃないかと邪推する。で、その後フォローとして、俺はこのキャラが好きなんだうおおおお!という熱い思いがあることはあるが、本当にそのキャラに情熱を抱いているのであれば、こんなワードは使わない、と一蹴している。本当に、一蹴。惚れ惚れしてしまった。ちなみにこれは僕の作品について「感情移入できない」と言われたから、その反撃として掲げているわけじゃないです。たぶん。
 まあ、こういうエントリーをすると必ず現れるタイプの弁士がいる。

 「ブログは何を書いても、別に個人の自由」

 アレか、小学校からはじめにゃいかんか。いや、僕が書いたんじゃなくて、伊藤さんが今みたいに書いたのよ。
 ネットを見ていると、こういう主張にはいくらでもブチ当たる。というか、まあ実際ネットという空間はそうなのである。というか、ネットに限らず現実という空間はそうなんである。というか、人間である以上そうだわあ。公共の福祉とかいうこともあるけれど、これは実際学校とか法律とかいう権威によって(或いは共同体的想像力によって)我々に刷り込まれたものに過ぎないのだから、まあやろうと思えばなんだってやっていいんだよ。おう、ガードレールにプリクラ貼るのでも、夜中にバイクでパラリラするのだって構わんよ。
 でも、こういう手合に、伊藤計劃はブチ切れている。本当に怒っている、この人。
 「「個人の自由だと思います」とか抜かしてる間は何も変わりゃしねえ。いい言葉だな「個人の自由」って。たいそうなこった。くたばれ」
 サイコーだ。僕の好きなタイプの文士なんだけど、なるべく身近に居てほしくないな。というか、こんな日本語圏最大のSF作家がうろついている空間で、文章書きたくない。あの人に見られるんだ……って、こういうブログを書くのにもビクビクするなんて。いや、俺はそれでも書くけど。小島監督も、伊藤計劃を意識してゲーム作りしているらしいし、MGSⅤのPVを見た後輩が「虐殺器官ぽい」と言ってたから、もはやプロジェクト・イトーの名は呪いである。ビックボスである。(僕はMGSファンを自称するくせにその辺のフットワークが重いのでまだPVすら観ていない。買うけど)
 で、彼はこの主張をぶちのめして何を言ったか。

「おれは世界を変える気で書いてるんだよ、大袈裟に言えば。いや大袈裟じゃないか、ホントの話だからな。スルーされない何人かに届いて、その人間が面白い文章をはてなで書こうとしてくれりゃおれにとっては大勝利なんだ。おれは明日死ぬかもしれないし、そういう「個人の自由ですから」なんておためごかしに付き合っているほど暇じゃねーんだ。もっともっとおれにとって面白くて興味のある文章が読みたくてたまらないんだよ。「個人の自由」んな前提以前の文言をわざわざはてブに書き込むなっつーの」

 これを、癌と闘病している者が言うのは、本当にズルい。あざとい。故に、僕の嫌いな、そして恐らく計劃自身嫌っているであろう物語に収斂しかねない、しかし真っ当な怒りである。
 彼は「ダークナイト」という映画を、恍惚とも言えるレベルで愛好している。バットマン。これについて、前述の塩澤さんは「伊藤さんの命に間に合ってよかった」と言っている。この映画の公開は2008年。彼の死は2009年だから、本当にギリギリだ。間に合ってなかったらどうなっていたのか、恐らく『ハーモニー』は無かったんじゃないかな。ギリギリ過ぎる。
 伊藤計劃は、自身が書くことによって、こういう作品が増えることを期待していたのだ。それが「世界を変える」ことだと言って憚らない。世界を変える、なんて言ってしまうと、「厨二病くさいしインチキ臭くて胡散臭い~」なんて思う人がいるだろうが、そういう人は一生調教されて無難に一生を終えて死んでいけばいい。彼はそんなことを微塵にも考えていなかった。だって現に「ダークナイト」というテキストは伊藤計劃の世界を変え、そして彼は『ハーモニー』というテキストを書き、そして、『ハーモニー』は僕らの世界を変えたじゃないか! 世界が変わっていないとか思ってる人は、さっさと『ハーモニー』を読みなさい。感情移入を嫌った伊藤計劃が、究極の技法で表現した登場人物たちの感情を目の当たりにするがいい、そしてその感情の表現を要請した「世界」の有り様を目撃するがいい! ほら、感情移入しやがれ! そして、彼の残した、あまりにも巨大に、むごたらしく立ちふさがる、しかし避けては通れない、絶対に目を背けることのできない、その『問い』に直面するがいい!
 彼が告げているのはそういうことなんだ。とことん。最後の最後まで。

 『ハーモニー』を書き上げた彼が、インタビューに答えて曰く、
「今回はここまで」
 なんだよ学校の授業かよ。それだけ言って、そのままどこかへ消えやがって、あのオッサン。
 ちなみに、僕は伊藤計劃を在命中に知らなかった。というか、知ったのは去年のことである。丁度一年前だね。「The Indifference Engine」について言及した記事が2014年6月か7月にある。どうしてそれまでの間知らなかったのか、本当に謎でしょうがない。僕が知ったのは、本当にすべてが終わった後だった。僕は目撃者にすらなれなかったのだ。ただ、伝え聞いた話から、伊藤計劃という物語を再生しただけに過ぎない。
 それなのに、考えざるをえない。彼の死が2009年で、僕のブログが始まったのが2008年。
 まるで世代交代である。いや、まっっっったく彼の存在など知らないで始めたわけだし、そんなところで俺が後継者だ、だなんて豪語するつもりは一切ない、毛頭ない、そんなの恐れ多くて不可能なワザである。
 でも、今、それに気づいてしまった以上は、俺も世界を変えたい。
 よく分からんけど、あの『ハーモニー』とかいうやつをぶちのめせばいいんだろ? 
 よく分からんけど、あの『屍者の帝国』を滅ぼせばいいんだろ?
 そういうことだ。
 ありがとうございました。
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  1. 2015/06/19(金) 19:28:29|
  2. 尋常の日記・雑記
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プロフィール

可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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