弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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ひとりに佇む薄暮

昨日の夜、「即興小説トレーニング」(http://sokkyo-shosetsu.com/)で書いたものです。
制限時間は60分。お題は「穏やかな絵画 」。



 そのジジイは孤独だった。
 俺も孤独だったので、すぐさまシンパシーを覚えた。俺が中学二年生の頃だ。まあ、いわば厨二病だったわけで、それでも俺の孤独は一級品だった。なにせ、友達はおらず、グループにも所属せず、家族とはおざなりな挨拶だけしかかわさない人間だったからだ。そして、そういうオタク人間にありがちな、ネットでのコミュニティにも所属していない。大地震とかが来て、俺だけが瓦礫に閉じ込められても、きっと俺は助けを呼べない。だから、そういう時はひっそりと死んでいくんだ、とか思っていた。
 そういう病を抱え込んでいた俺に、そのジジイが会いに来た。もちろん、あのジジイにそんな意思は無かっただろうし、俺も素直に会ってやる気持ちなんて無かった。
 土曜日の午前中、両親不在のうちの庭に、そのジジイが唐突にのそのそと入り込んできたのだ。それから、脇に抱えていたカンバスを置き、その正面に木製の折りたたみ椅子を開き、恐る恐るという風に座り込むと、画材を取り出して絵を書き始めた。
 あのじいさん、頭がおかしい。俺はすぐにそう判断した。けれども、何もしなかった。俺は孤立無援の一匹狼であって、噛み付いた相手が猛獣であったらひとたまりもないクソザコ狼である。喧嘩にふさわしい体力とか地位があったら、すぐさま噛み付きに行っただろうが、俺は精神的にもぼっちだったから、部屋にたてこもってそのジジイを観察していた。
 俺は絵を描くことに知識がなかったから、そのジジイの手つきがすごいのかヘタなのかよく分からなかった。ただ、一点の迷いなく、点線をなぞるように描いていく流暢な手つきはやけに目に残った。そのジジイはうちの庭にない風景をカンバスに描きつけていた。真っ暗な夜の町並みを、遠くの高台から眺めているような構図で、上には流れ星のように幾多もの黄色い線が引かれていた。俺は小学生の時に買ってもらった双眼鏡から目を離して、その絵の難解さに首を傾げた。
 そのジジイはうちの親が居ない日に、毎回来た。きっと、大人二人でこの家に住んでいると、あのジジイは思っているに違いない。俺はじっと、双眼鏡越しにジジイの絵を眺めていた。ジジイはたまに物思いに耽るように、ぼーっと遠方を眺めて、それから不意にスイッチが入ったように筆を動かし始める。夜の町並みがカンバスに出現する。夜空には赤い線が引かれる。或いは青い線が引かれる。それか、黄色い線が引かれる。だいたいその3色のローテーション。
 あまりにも親の不在を周到に狙って現れるものだから、俺は必然的にジジイに漂う孤独を嗅ぎとった。あれは、ひとりぼっちなのだ。俺とおんなじように。
 だから、俺もその孤独を模倣し始めた。絵を描き始めたのだ。夜の町並み、そして上空に迸る黄色い線。何なんだろう、これは。よくわからないが、描く。こうすることで、俺は更に孤独の深みに入り込んでいけるような気がした。孤独に耽って、それからどうしようなどとは考えていない。俺は厨二病だったから、孤独の味を知ってみたかったのだ。それからというもの、俺とジジイのコミュニケーションは一方的に、カンバスを通して行われた。
 中学三年生になった。俺の模写は相当上手くなっていて、ほとんどあのジジイの筆致に劣るところは無かったと思う。というか、あのジジイは絵心の欠片もなかったものだから、中坊である俺にも用意にトレースができたんだろう。
 俺はこの絵画の持つ意味を読み取ろうとしていた。他人の家の庭を訪れて、一日一枚、同じような絵を書いていくのだから、それなりに意味があるに決まっている。暗い町並みの上空に光る、赤、青、黄の筋。ジジイの、この光の筋の書き方は綿密で、毎回淀みがない。まるで、そうと決まっているものを当たり前のように出力しているような。
 フラッシュバック、という単語を知ったその日、俺は遂に合点がいった。
 あのジジイは、空襲に遭ったことがあるんじゃないかと。あの光の筋は曳光弾だったり、焼夷弾だったり、或いは原子爆弾だったりするんじゃないかと。そのトラウマが網膜に張り付いて離れず、その光景を、ひたすらカンバスにぶちまけているんじゃないか、と。
 俺は模倣を続ける。暗い町並みに、死の臭いが漂い始める。空には、無数の爆撃機が、無数の投擲された火薬が、ぷかぷかと浮かんでいる。爆弾は、永遠に街へ落ちることがない。そこに住む人々を、睥睨し、監視し続ける。
 次に俺が思い至ったのは、どうしてうちの庭でそんな風景を再生するんだろうか、という問題。
 うちの家の歴史など知らないから、ここら辺が空襲で焼けたことがあるかなんて、知らなかった。俺は図書館に行ってこの土地の歴史を調べてみたが、空襲にあったような記述はなかった。それとなく親に訊いたが、土地自体に問題があるわけでも無い。そこで俺は学校から帰って、家に入る前にいつもジジイが居座る場所に立ってみた。なんてことはなく、塀越しに近所の風景が見えるだけだった。
 ジジイがまた庭に来た。今日こそ、今すぐ庭へ出て行って、どうしてうちの庭なのか、訊いてみようじゃないか、と思ったが、どうしても足が動かなかった。ただ手だけが動き、今日も同じ絵を模写し続ける。
 ……親に進路のことを訊かれて適当な公立高校の名前を挙げた頃から、そのジジイは庭に来なくなった。大体、月に二回程度で来ていたに過ぎないから、その間隔が広まっただけかと思っていたが、俺が高校に合格するまでついぞ、そのジジイは現れなかったから、その後もうちの庭を訪れることはなかったんだろう。
 俺は俗に言う高校デビューを果たした。勇気を出したらクラスでは友達ができ、美術部に入ることによって活動すべきグループが生まれた。そこで1から絵の書き方を学んで、あのジジイが相当ハチャメチャな筆致をしていたことを思い知る。街を描くことと、流線を綺麗に描けることが取り柄の普通の美術部員として、二年間を過ごした。
 野心が働いて、三年目の最後のコンクールに出店する作品を、例のジジイが描いていた絵画にしてみた。俺は中学時代の絵を引っ張りだして、それを今の俺の技術を以ってして、カンバスに模写してみせた。まあ、それはパクリなのであって、あのジジイがあの暗い街並みの絵をどこかに出品していたのなら問題になるだろうが、そのことによってジジイと会うことができるのなら、それはそれでいい気がしたから。
 出来上がった暗い街並みと、黄色の筋は、どこか穏やかだった。なんというか、ここに帰ってくるために、俺は高校生活を送っていたんじゃないかと思える、ふるさとのような絵画が出来上がった。
「コンクールに出すやつ、出来上がったぞ」
 そう言って、俺は部員たちにその絵画を見せた。すると、誰もがビクリと身を震わせてこの絵を眺めた後、恐る恐る俺の方を見て、言うのだ。
「なんだよ、コレ……」
「なにコレ……」
「なんですか、コレ……」
「何をモチーフにするかは個人の自由だが」
 顧問は困った顔で俺の絵を見て、「何なんだ、これは一体」
 困惑の嵐をくぐり抜けた俺は、うちへ帰る道すがら、あのジジイのことを思い出していた。あのジジイは、確かに孤独だった。だから、孤独だった俺はあのジジイを身近に感じることが出来たんだ。シンパシーを抱くことができたんだ。
 でもそれは思い違いだった。中学生の時の俺は、孤独なんかじゃなかった。だって、ジジイと一緒に居たじゃないか。ずっと一緒に絵を描いてきた。でも、今の俺は違う。ジジイを失って、本当に孤独になっちまった。あの絵が本当に俺のルーツだとしても、あれを見たところで誰も共感なんかしてくれない。誰も、俺の描いた絵を見ようとはしてくれない……。
 唐突に、孤独の冷たさを喉元に突きつけられたようで、寒気がした。
 学校を出る頃は薄暮だった空も、今では暗い色に沈んでいる。近所の町並みも、等しく闇に溶けている。その上空に飛び散る星の群れ。そこを、赤い光を放つ飛行機が通り過ぎて行く。遠くに一筋、光線が宇宙へと伸びていく。
 そんな、本物の孤独の前に俺は立ち竦んでしまった。
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  1. 2015/06/21(日) 12:14:18|
  2. フィクション小説(妄想)
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可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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