弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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愛憎ラリーとその結末

即興小説。制限時間30分。お題は「愛と憎しみのサーブ」


 僕という人間は、あまり人から褒められたことがなかった。それは、僕があまりにも社会に不適合であるとか、浮世離れしすぎていたからではなく、ただ単に、「僕という人間」が褒められたことがないということである。
 こういう話がある。ある人物がコップを持ったとしよう。その一連の動作について、彼の脳波について調べてみた時、彼がコップを持て、と命令するよりも前に、彼の手はコップを持つ動作を始めていた、という実験の話。僕達の意識というのは、動作に追随して後付される程度のものでしかない、という科学的証明の話。
 暗い話だ。ある作家はそれを逆手に取って、自らの意識をフィクション、物語であると語った。あらゆる物語は後付で語られる。「いま、ここ」の現実は、全く以て僕らの意識の範疇外に存在する。あらゆる現実は、全てが済んでしまった後に、ゼラチンが凝固するような具合でぽん、と言語に落とし込まれる。そうして、「僕」が生まれる。それは、僕ではない。故に、褒められる僕はいつだってフィクションだった。
 まあ、そんな唯脳論的なことを言っていても始まらない。これは映画ではない、僕というテキストの話である。
 僕は、とある男に声をかけられた。ひどい身なりをしていた。まるでスカイダイビングを楽しんでいたが、パラシュートが開かずにそのまま墜落してひどい目にあった、とでも言いたげな服装だ。
「おれは脱走してきたんだ」
 と、その男は言った。中途半端なヘリウムガスでも吸ったのような、甲高い声だった。
「どこからですか」
「決まってるだろう、留置所だよ」
 そう言って、彼は自分の手首を包み込む手錠を、僕にチラつかせてみせた。
「はあ」
「最近の警察は手錠の使い方も知らねえ。ところで俺の前科は三つあるんだが、一つでも当てられたらお前の願い事を叶えてやるよ」
「はあ」
 僕はこの男が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、そのひどい身なりを見ている内に可哀想になってきてしまって、結局その話に乗ることにした。
「ヒントは……」
「ヒント? 例えば、トロッコが走ってくるだろう」
「トロッコ」
「お前は分岐器の前に居る」
「分岐器」
「トロッコはそのまま直進したら、線路修復作業中の五人を轢き殺す。だが、お前は分岐器によってそのトロッコの進路をズラスことができるが、ズラした先にはお前の彼女が線路に括りつけられている」
「なんで」
「でも、お前は分岐器をズラす」
「なぜ」
「トロッコの両輪に巻かれて、彼女は死ぬ」
「どうして」
「どうしても何もない。それがヒントだ」
 男は不潔な前歯を晒しながら言った。僕はどうしようもない胸焼けを覚えた。
「殺し?」
「違う。もっと根源的なものだ」
「……盗み」
「違うよ」
「分からないよ」
 僕はあっさりと降参してみせた。だんだん、この男が心配になってきたからだ。だって、随分汚い身なりをしているし、警察から逃げてきたと言っている、こんな悠長に話している暇はないだろうに。
 すると男は不満そうに鼻を鳴らした。
「クソ、じゃあもっとヒントを与えてやるよ。彼女をお前は殺したことになるな」
「殺ってない」
「さっきの話の続きだ。五人を助ける代わりにお前は彼女を殺した。そしたら、お前はどうする?」
「泣く」
「泣く。そして?」
「……自責の念に苛まれる」
「その通り。で?」
「で……」
「簡単だろう。愛と、憎しみは不可分なんだ。愛と憎しみが、ちょうどテニスのラリーをするみたいな具合で、おれ達は笑ったり泣いたり怒ったり愉しんだりする。どっちが先にサーブしたのか知らんけどな」
「僕は、誰を憎む……」
「お前さん自身だよ」
 男の汚い右手の人差指が、僕の鼻先を指さした。僕はおずおずと頷いて、
「……一理ある」
「だからお前さん自身の手で決着をつけるんだよ。その、汚い両手でな」
 そう言って、男は僕の首を両手で掴んだ。予想外の行動に、僕はひえっ、と情けない声を上げてしまった。
 男はげらげらと笑った。
「お前は大した奴だぜ。誰にも褒められたことがない、誰にも貶されたことがない、ということに気がついている。だが、気をつけろよ。そういう奴は俺みたいになりやすい。だが、俺みたいに脱走することはできない。神様がいいぞって言うまで、人に踏まれ続けるんだ。お前はお前のものではないが、お前の身体はお前のものだ。忘れるなよ」
 僕はその出来事を、20分後に言語化できた。
 そして、男の正体を知った。だからといって、どうしようもなかった。
 僕は「僕」が嫌いだ。「僕」というソフトフェアにオペレートされる僕という存在も、嫌いだ。僕というハードウェアも嫌いだ。
 そういう時、フィクションたりうる僕は簡単に「それ」を実行できる。そのことを、あの男は教えてくれた。不可逆の可能性を大いに含むことも。
 ただ、今はあまりにも人が多すぎる頃合いだ。それは、今すべきことではない。
 愛と憎しみは不可分。僕達の営為は、彼らの織り成すラリー。どちらからサーブを切るのか。
 僕はどちらの側に立っているのか。どっちでもいいか。いま、僕は分岐器の前に立っているのだから。
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  1. 2015/08/13(木) 00:23:51|
  2. フィクション小説(妄想)
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可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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