弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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【お前ら】2000HIT御礼短編小説 休日模擬診療<前編>【待たせたな!】

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置き逃げ。
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 その日は五月で最後の休日だった。
 中間テストとかいう鬼門を何とか潜り抜けてようやく辿り付いた、牛タン並に貴重な日だ。このままさっさと夏休みに駆け込み乗車をして欲しいものである。
 あの日から、毎日断続的に来るようになった姫翠からのメールも、今日に限ってはほとんど来なかった。とはいえ、あれが来てると半日をその返信に費やすことになるので、こちらとしては大歓迎なんだが。
 部屋を出ると、居間を経由して台所へと向かう。
 居間に差し掛かったところで、いつも自分の部屋で寝ずにソファで失敗した餅の様にでろんと横たわって寝ているはずの美里の姿が見られなかった。そのでろんとした身体を床に叩きつけるのが、唯一のストレス解消だったが、今日はそれが望めないらしい。
 まぁ、きちんと部屋で寝るようになったのは人類が火を使ったことに匹敵する進歩といえるので、俺とて嬉しくないわけではない。
 なんとなく嬉々として台所に差し掛かったところで、その嬉々はくしゃみをもろに喰らったティッシュの様に、無様に散った。
 美里が台所の床で丸まって寝ていた。ベタッと張り付くように倒れているその様は、行き倒れの様に見えなくも無かったが、生憎と俺にはそこまでこいつに対して寛容にはなれないな。
 俺はすぐさま引き返すと洗面所まで赴き再び舞い戻ってくると、熟睡に勤しむ美里の鼻先に洗面所から拝借してきた電動歯ブラシのスイッチを入れ、定期的にゆれる鼻先に押し付けた。
「…………ん……?」
 二十秒ほど鼻を振動させると、美里はかたつむりに吊り上げられているかのようにゆっくりと大儀そうに瞼を開いた。
「何処で寝てんだ」
「ぅ…………お腹空いた……」
 親父に突っ撥ねられた腹いせに山に篭りやがったこいつが帰ってきてそろそろ二ヶ月が経過するが、その悪癖は直る傾向が全く見られずに、腹ばいで滑り台を下りるようにずるずると、某無職街道に突っ走っている。そろそろ飯を抜きにしなければ、本気でニートになりかねん。
 なんとも呆れたことに、バイトをしていたとかいうのは全くのデタラメで、家に不在だった時間のほとんどを例の作戦に費やしていたんだとか。馬鹿らしいというか、その才能を別の方面で使って欲しかった。才能の無駄遣いとはまた違うんだがな……、究極の暇人というか。
 その行動の根本的な理由は俺にあったようだが。
 鬱陶しいから切れと命じたのにも関わらず、相変わらず不精に伸ばした髪を暖簾の様に掻き分けて、のっそりと美里が身体を起こした。とはいっても、起きているのは本能だけのようで、目は半分閉じている上、瞳は薄い輪っかを作って虚空を凝視している。
 俺は溜息をついた。こうなっては、頬を恋愛ドラマの現実逃避者への平手打ちよろしくぶん殴ろうが、こっちが風邪がひきそうなほどの冷水を頭から垂れ流そうが、引きこもり犯ですら涙する説得をしようが、全て「ふぁ……」で一蹴される。
 こういう時は、要求に応えるのが一番効果的だ。媚を売るのは癪に触るが、興奮状態にあるテロリストよりも物分りの悪い美里には、これぐらいしか対処法はない。放置という手があるが、生憎と自律という単語がこいつの脳内から消失を遂げた今、一週間後に人間であるかどうかの確率はネコが一匹で月にたどり着く可能性に等しい。仮にでも肉親なのだから、それだけは勘弁して欲しい。
 腹が減ったといっていたから、即席で何かを拵えてやるとする。
 得意の料理癖もカラスの行水並に素早い鎮火を迎えた。お陰で、最近は俺の手料理が多い。元々の生活スタイルにアルファが加わっただけと思えば別に苦でもない。そのアルファにとんでもない指数がついていることに目を瞑ることができるならな。
 朝の定番、目玉焼きを即行で作り上げると、それを飯を盛った茶碗に放りこみ、流しの傍らに放置。ナマケモノ並の行動意欲しかないのであれば、放置プレイにするのが好ましいとは、ここ一ヶ月で得た教訓である。
 俺は俺で新たな朝食を拵えて、さっさと胃袋に放り込む。
 今日は暇だ。部活も無ければ趣味も無い。姫翠からの連絡もなし。──他の連中のほとんどはインドアだから、連絡したところで特に赴くところもなし。
 ソファに身を沈めて、今日という日の無意義さを知る。まぁ、何も無い一日というのも良いものだろうよ。テレビでも眺めて怠惰に貪るか──。
 と思った矢先、ガッチャーン、と寝床でやられたら心臓麻痺で逝っちまいそうなヒステリック効果音が台所から響いてきた。
「あっ!」
 間抜けな声も。
 休日に買い物に勤しむのも悪くないな。

 泣き喚き錯乱して抱きついてくる美里を口先で黙らせて仕事探しに向かわせてから一時間。
 阿鼻叫喚の様となった台所の始末を終えて、ようやく休日ならではの暇な時間が訪れた。いくら休日でも、この時間が無ければ平日と同義だ──とは、親父談。年中暇なくせに。
 再びソファに身を沈めて、テレビを見る。大して面白くもないが、少なくとも姫翠に連れられて意味の分からん場所に連行されるのよりは遥かに休養効果は高い。
 ──とはいっても、無闇に暇なのも疲れるな。
 生憎と旅番組は俺の趣味範囲に入っていないので、テレビを消すと自分の部屋に戻り、クローゼットの奥から木製の板を取り出した。将棋盤だ。
 一応、馬鹿でも阿呆でも腰抜けでも俺は将棋部の部員である。未経験の一年生にも勝利を収めたことの無いがな。ここまでも弱いと、却って清々しい。
 清々しいとはいえ、流石にここら辺で一勝でも挙げておかんと、伝説になりかねないので、ちょいとまぁ、詰め将棋でもやってみようかと思ったわけだ。──本番で咄嗟にそんな秀逸な策が浮かぶとも思えないが。
 ──と、思ったものの、何故か肝心の駒が無い。
 そんな致命的な欠陥の発覚に、どうしてか急に萎えてきて将棋に身を没すのも中止。盤をクローゼットの奥に放りこむと、居間に戻った。
 再びソファに座ると、テレビをつけて、番組の吟味に取り掛かる。やはり、これしかないか。ちょいとオヤジ臭いが、することが無いのであればしょうがない。
 と、そんな友達の居ない休日を淡々と過ごしていた俺の耳に、場違いな情報が舞い込んできた。
 ピンポーン、と。
 どっかの気違いと違って、一回だけの常識的なチャイムだ。
 誰だ、だなんて逡巡しない。うちに訪ねてくるような暇人なんざ、誰もいやしない。どうせ宅配便かそこらだろう。
 俺は立ち上がると、さっさと玄関まで行ってドアを開いたあたりで悟った。世界は広いってな。
「よう!」
 そんな快活な声が響いた。俺はその明朗な笑顔に顔を顰める。
「……お前か、何の用だ」
 玄関口に立っていたのは、この前発狂してクラスのまん前で激白宣言をして見事に四散した緑川だった。あれからまだ一週間しか経ってないのに、さてもまぁ、立ち直りが早いこと。
「今日、お前家にいる?」
「あ? まぁ、いることは居るが」
 なんだ、こいつ。家出してきたから匿え、っていうんだったら、他を当たるんだな。図書館なら、トイレに引きこもって一夜明かせるぜ。
「家出なんて小学生なことするわけないだろう、俺が」
「別にお前に限ったことじゃねぇよ」
「んで、さ。俺これから東京に行くんだ」
「へぇ、まぁ、そりゃあ悠長なことで」
 テスト明けだから別に違和感は無いが。
「何しに行くんだ?」
 俺がそう訊くと緑川は一瞬だけ気まずそうに視線を逸らした。
「──俺のダチの葬式だ」
「え……マジでか?」
「うっそ」
 素っ気無く抜かしやがる。やっぱり、こいつ感受性がどうかしてやがる。
「いやー、テストも終わったことだし、遊んでこようぜーっ、て話が部活で持ち上がってさぁ。十一時集合なんだ」
「──だから何だよ」
 うちが暇なのかどうかを訊いた意味は何だったんだ? 話を円滑にするための布石か?
「そんで、うちの親は仕事で居ないわけ、家に」
「だから何だよ。留守番でも頼みたいのか?」
「留守番というか……どうなんだろうな……まぁ、いいや、用件話せば一番早いっしょ」
 困ったように緑川が首を竦めると、後ろを見るように顎をしゃくった。
 不覚だが、無意識にその動作に誘導されて緑川の背後を見ると──一人の少女がおどおどとした様子で立っていた。

「妹でさ。一歳違いの。俺とおんなじ学校なんでさ、お前も一度くらい見かけたことあるかも知れんな。そんで、今日こいつが風邪を拵えちまってな。親も居ないし、俺も部活の都合で家に居られない。下手にこの時期インフルエンザに掛かっちまったら……ん、今は夏か。まー、こじらせたら怖いだろう? ただでさえ、体弱いのにさ。でも、親は融通利かんし、俺だって絶対に断れない部活のイベントがあってな、かなり困ってたんだ。そしたら、お前にどういうことか白羽の矢が立ったわけなんだが、まぁよろしく頼むぞ」
 意味が分からん。どうして俺なんだ? 白羽の矢ってなんだ、おい。というか。せめて病院くらい行かせてやれば良かったんじゃねえのか? お前もこんな兄でいいのかよ…………。
 緑川はそれだけ言うと、妹だけを残してさっさと行ってしまった。──まぁ、美里に比べりゃ格段にマシだがな。歳の離れた弟を放り出して一人家出とは、いい度胸だ。
「とりあえず、上がれ」
 兄に比べたら、随分とおっとりとした子らしい。玄関で壊れたレコードの様にじっと突っ立ってるから、そう声を掛けてやると、ぎこちなく靴を抜いで上がってきた。
 コートを羽織って、手にはボストンバックと、道ですれ違ったら「どこに旅行ですか?」と訊ねたくなるようなスタイルだった。
 が、そのコートを脱がせて見るとそんな了見は一蹴。只単に寝巻の上からコートを羽織っただけらしい。控えめな色合いのパジャマに身を包んでいた。──まぁ、ボロボロのワンピースよりは十の七乗倍ほどマシだ。
「……」
 そして、じっと虚空を見据えたまま寡黙を守っている。──緑川の家がどこにあるのか知らんが、歩きで来たようだったから、結構な運動をして気分でも害したのだろうか。奴も随分鬼畜に使役するな。本当に心配してんのか?
 とにかく、疲弊してるなら、休ませるのが一番良い。
「ちょっとこっちこい」
 居間でぽーっと突っ立ってる彼女を手招きで呼ぶと、母親の部屋に案内した。
 放置された中では一番新しい部屋である。お陰で、家具から衣類まで全て揃っている。
 ベッドに近寄ると、良い匂いのする掛け布団を剥ぎ取ってから、妹の方に向き直って言った。
「どっから来たか知らんけど、疲れてるだろ。寝とけ」
「…………いいの?」
 首を少し傾けて訊き返してきた。頷いてみせると、少し逡巡した後、俺の脇を抜けてベッドの中にもぐりこんでいった。その上に掛け布団をドサっと掛けてやる。
 その後、電気を消して部屋から出た。
 ──寡黙だったのは、少しばかりパイプの内側の錆みたいな突っ掛かりがあったからだ。
 ……彼女と、どっかで会ったような気がするんだが……気のせいか。

⇒to be continued
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  1. 2009/01/25(日) 22:06:02|
  2. 明日は明日で暴風雨
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可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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