弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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Program 第八章

Program8
 あれからだらだらと時間は過ぎていった。クラウスは常に、ここからどうやって脱出するかを考えていた。あまり公にしないように。ガンディスを騒がせないように。
 あの記事を見てから既に二日。未だに部屋から抜け出せないでいた。
 ガンディスは眠りこけている。無理も無い。今は月が真上に昇っている。真夜中なのだ。外からは(ふくろう)がないてる声が聞こえてくる。放浪者が、落ちてる金を捜し求めている。いつもと変わらない。変わったとすれば、それはクラウスの心構えだ。
 色々と考えた。今このまま逃げ出してしまうのも選択肢の一つだ。ベッドのシーツなどを使って窓から出れば逃げられないことも無い。でも、ガンディスに騒ぎ立てられては駄目なのだ。ガンディスとうまく契約決裂をできればいいのだ。

 色々と考えた。今このまま逃げ出してしまうのも選択肢の一つだ。ベッドのシーツなどを使って窓から出れば逃げられないことも無い。でも、ガンディスに騒ぎ立てられては駄目なのだ。ガンディスとうまく契約決裂をできればいいのだ。
 この男の性格はわかっている。自己中心的、臆病、欲が強い。特に金銭。だから、今国から支援されている以上の金を目の前でちらつかせれば、そちらに飛びつくと言う事だ。だがこれは実質不可能に近い。国からの援助は無尽蔵に近い。一ヶ月の援助だけで、細々暮らせば一年もつだけもらえるのだ。そんな大きな懐を持つものが居るはずが無い。
 これは頭脳戦だ。
 クラウスは、ベッドのシーツをはがし、窓に一番近いベッドの支柱に結びつけた。他に服などを破き、細長い布にして窓から垂らす。そして、その布を頼りに一階まで降りた。
 このまま逃げるわけではない。味方を探すのだ。
 頭の悪いが、権力を味方につけ勝ち誇っている男に、意味の無い束縛を受けている哀れな姫に味方してくれる人間を。
 
 夜が更けて、蝋燭の明かるさが増してきている。いつも、半年前までは夜の町で起こっていた喧騒も今では滅多に見られない。こんな大きな町で見られないのであれば、もう見ることはできないかもしれない。
 アリスは羽ペンをとり、羊皮紙に手紙を記していた。意識の戻らない戦友に。
 静かな闇に支配された部屋に羽ペンがインクを紙に染みつける音だけが響いている。この蝋燭は新しく開発された、通常より明るい蝋だ。燃えるときになる耳障りな音も立てないので、大人気だった。
 リゼルは人目を避ける為に、森の入り口でキャンプを張っている。リゼルが魔法を使うところを見た目撃情報が入り、教会が本格的に探し始めたのだ。最後の闇の眷族の撲滅。根絶やし。
 リゼルの話によれば、魔物を作り出したのは暇を持て余した神であり、その神は教会の崇拝の対象になっている。光の眷族とは、単に闇の眷族の対照の存在としてでっちあげられた虚像である。実在しない。
 アリスは、リゼルにそうきかされるまでは、光の眷族を信じていた。闇と相対した、伝説の英雄。その身もろとも闇を沈めた勇者。人の弱みにうまくつけこみ、完膚なきまで真実を隠しとおしている。
 人々は闇に恐怖心を抱いている。それはアリスも一緒だ。視界を遮り、不安を煽る。夜行性の凶暴な動物たちが覚醒し、その不安を募らせる。
 そんな闇を味方につけたものを誰が味方するのだろうか。それならば、その対照的な存在……自らを仰ぎたて、民衆を味方につける。なんとも狡猾な神だ。
 リゼルは、そんな風に姿が抽象的にでもあるものを味方にしたがるのだから、アリスもそう思っていたとしてもしょうがないといってくれた。それが、更に自分の迂闊さに自己嫌悪してならない。
 つらづらと、羊皮紙を十枚ほど使いなんとか手紙を完成させた。クリスの傷は深かったらしく医者によれば、今生きているのも不思議らしい。リゼルの魔法があるにせよないにせよ、アリスにはそれを不思議と判断する常識がクリスには通用しないと知っていた。確かに常人が喰らったら致命傷になるであろう傷だが、あの精神も肉体も屈強な男がそんな傷では死にはしない。そう分かっていた。それでも流石(さすが)に意識は戻らない。
 クリスが行動不能になるまでリゼルはアリスを助けられなかった。アリスはその事実の重さに未だに震えている。なんだかんだで助けてくれたが、こんな傷を負う前に助けることもできた……。アリスは、クリスはリゼルのことを信じると思った。でもリゼルはくリスのことをよく知らなかった。だから完璧に信用することができなかった。
 ……彼はどう考え、言うだろうか。私が彼と共に旅に出る、と言ったら。アリスは予想がつかない。彼の性格は分かっていたはずなのに。
 長い手紙を綺麗に角をそろえ、高級な紐で束ねた。ゆらゆらと、蝋燭の火にあてられてきらきらと輝く粉が舞い落ちる。それをみてアリスは嘆息した。何もはまっていない窓から、無闇に嫉妬を煽る夜景が広がる。ところどころに、貴族の家の松明の明かりが見える。こんな時代にでも貴族はいるのだ。
 アリスは立ち上がって、乾かしていたメイド服を触った。随分汚れてしまたので洗っていたのだ。必然的に今は、備え付けの粗末な布を着ているのである。リゼルはこっちもいいと言ってくれたが、何故か落着かない。決して悪いわけではないのだが……。
 しっとりとした感触が手を撫でる。まだ乾かないみたいだ。これを構成する布は高級なので、水分を飛ばすのに時間が掛かるのだ。アリスは、予測していたので特に落胆もせずに、堅いベッドに腰をおろした。ギィ……と木のベッドが軋みをあげる。そのまま横になると、窓の外から月が見えた。無気味なくらい、神々しく輝いている月。リゼルの言っていた神と重なって見えて、むずむずとした気分になる。
 アリスは、窓を閉めた。空気を切る音と共に木製の窓が閉まった。月の光が入ってこなくなったので、部屋は一本の蝋燭の光の独壇場になる。魔物の体液から作り出した蝋によって、特殊な光を放っている蝋燭で、この部屋を照らすには十分すぎるようだ。
 アリスは、ゆらゆらと揺れながら燃えている火を吹き消した。途端に訪れる闇。視界を阻み、不安へと突き落とす闇。だが、アリスはこの闇が傍に居るのが心強いような気がした。
 相手が恐れるものがあるならば、その恐れるものを利用してやればいい。
 アリスの決心は揺るがなかった。
 夜は更けていく。

 教会勢力は大きく分けて二つ。創造主である神を信仰するもの。光の眷族を信仰するものとの二つに分かれている。誰がどちらを信じるのも完全に自由で、どちらを信じるかによって、教会も違ってくる。
 光の眷族は、神の使いとして崇められており、神の血で染めた優しい橙の服に白い外套。黒の眷族との対抗意識を隠そうともしていない。起源の方は、闇の眷族の方が先なのだ。そこに教会は否定こそはしない。
 闇の眷族にとって、敵となるのは光の眷族を信仰する者。実のところ、今神を信仰している者は少なく、他の教会は光の眷族を神と定義して教えを説いているのだ。
 五百年のうちに人々の意識は大分変わった。
 どこかで人間たちが営む生活を、何もせずに眺めている神よりも、自らの身を犠牲にして人類の敵を滅ぼした光の眷族のほうが、信仰の対象としては遥かにふさわしい。
 光の眷族の齎す光の刃は、悪を浄化し偽を戒める。制裁を加えるほうが悪で、存在を偽っていると知った人類はどうするのだろうか。改宗か。それとも、その事実を事実として認めず、頑なにその信仰を貫くのか。
 双方が発生するだろう。偽りの理念を貫くものと、自分の正義を求めるもの。真実を知る勇気があるもの。その考えの齟齬が、やがて争いを生む。
 人は脆い。信じる信じないを一徹に貫ける者とそうでない者が存在するのは、幼児の喧嘩ではあるまい、認めるほか無い。むしろ、それらの理念を一つの物に向けさせて、考えを纏めるというのは愚かな行為なのである。いつか必ずその信仰は途絶える。ひょんなことから。その束縛から開放された人間たちは、いつだってそうだった。自分の考えを無理に共有させようとする。それらの積み重なりが、戦争という悲劇を生む。
 今の所は教会が二つ存在してもなんら障害は無い。共存しているといってもよい。でも、どちらかが崩れれば、またたくまに人類は滅亡する。彼らの愚かな本能によって。平穏に見えるが、この世は不安定な天秤に載っているのだ。
 いつ崩れてもおかしくない。
 しかし、崩壊の手綱を握っている者がいると……誰が想像できるだろうか。その者がある人間に、あることを吹き込めば、あっという間に世界は崩壊する。原始に戻るのだ。
 その者は、人間を古くから見てきた。そうでなければ、そんな事を知りえない。利用することなど考えない。考えられないのだ。
 その者が世界を崩壊させる理由など只一つ。
 暇潰しだ。
 暇だ。暇なのだ。退屈なのだ。
 同じ事の繰り返し。壊しては作って作っては壊す。この永遠に終わらぬループをみてどう楽しめばよいのか。何が楽しい。なぜ我はこんな愚かなことをしている。何のために存在している。所詮偽りの信仰の対象になるだけに生まれてきたのか?
 疑問を抱くものは誰であろうと、その答えを見つけようとする。そして、そのものは見つけた。自分の存在価値を。
 人間の真価……意地を作り出すのだ。我が。
 暇つぶし。退屈しのぎ。これほど面白いものは無い。
 黒幕は静かに笑った。

 日が昇り始める。街は、闇が徐々に取り除かれていくように明るくなっていく。光に反応し、覚醒した家畜が雄叫びを上げる。一日の始まり。月は裏側へまわり太陽は明るく自分たちを照らしつける。
 アリスは、そんな中病院の前に立っていた。小さな民家が集結したようなこの病院は、様々な分野での治療が可能なのである。
 白というイメージで統一された病院の中は、早朝である所以、静寂を保っている。待合室と思われる場所には、木製で革がしかれた椅子が、虚しく置いてあるだけだ。
 石造りの廊下は、うっすらとした白で覆われている。アリスの靴が地面を叩く音が、その白い廊下の静寂を切り裂いている。
 とある病室のまえで立ち止まった。宿の部屋のようではあるが、出入り口には戸がはまっていない。外から中がうかがえるのである。
「あら、どうされました?」
 看護婦らしき人物が、部屋のなかからアリスに気づき声を掛けてきた。アリスは、懐に持っていた、束ねた十枚の羊皮紙を差し出した。重さは軽いが、その存在意義は何よりも重い。重量でしか判断できずに、その貴重さを分からない人間がいるのは悲しいことだ。
「……渡しておいてください。」
 一つの病室に一つだけ置いてあるベッドには、見慣れた大柄の男が寝ている。一度死んだ、だが闇の魔法によって復活した、他者からしてみれば汚らわしき人間。
 看護婦の、了承の旨の返事を聞いたら、アリスはすぐさま踵を返して出口へと向かった。これ以上見ていても負担が重くなるだけ。自分は彼を見捨てた。自分にできることは、彼が意識を取り戻して、自分のことを覚えていてくれることを祈る。それだけでいい。彼もまた同じ。手紙にはその旨を記してある。
 外に出ると、街は完全に明るくなっていた。市場の方からはいつもの騒がしい音が聞こえてくる。商人らしき馬車が遠目で見える。
「やぁ待ったか?」
 清爽な声が聞こえてきて、アリスはそちらに目をやる。麻のコートを羽織った青年がいる。
「リゼル……様。」
 黒い外套のフードを頭から外して、コートを上から羽織ってしまえばいいとアリスは考えて、彼に渡しておいたのだ。外見だけ見てしまえば、学生に見えなくも無い。
 リゼルにアリスがそう提案したところ、その手があったかという顔をしたので、思わず笑ってしまった。こうして明快に最後に笑ったのはいつだっただろうか。あの出来事から、アリスは自分をどこか深い場所に封印してしまったのではないか。そして、その封印の鍵が彼だったのではないか。
「行きましょうか。」
「……いいのか?」
「はい。私の心の保険になりますから。」
 そう言うと、リゼルは黙りこんで歩き始めた。アリスもその後を追う。
 早朝が作り出す、西に向かって細長く伸びるリゼルの影を追いながら、これからどうするのかと考える。合流したのはいいが、教会に追われてる今、どうすればいいのか。
「王家はどうなってるんだ?」
 リゼルがそう言ってきたのを聞いて、アリスは首を捻った。
「さぁ……国の国家機密要項ですからね。あくまで一市民の私たちには干渉のしようがありませんね。」
 帝都が滅びて尚、帝国は存在しており、未だにその権力を保ちつづけている。帝王は、こういった危機の時の為に、いたるところに出張所なるものを設置しており、一番帝都から近く無事だった出張所が今、一番の権力を所持しているのだ。そういった帝王の慎重さが、今の世の中を作り出したのである。
 そして、その帝王は行方不明なのである。魔物が出現したあの日、帝王自ら国の南で行われていた戦争に身を投じていたのである。そして、魔物が出現した直後から消息を絶ったのである。
 またそれと同時に、国家機密という制度が導入されて、市民が知ることのできる国に関する情報が制限されたのだ。意図はわからないものの、国の権限に逆らうことが出来ずに、結局今もその制度は生きつづけている。
 そして、王家の眷族達の消息も、その国家機密の一つである。こういった意図が底知れない情報の制限もされているのだ。
 リゼルにそう訊かれて、アリスはクラウスのことが気になり始めてきてた。今までアリスは、リゼルを追い求めて旅をしてきた。しかし、クラウス周囲の情報がもれてきたことは無かった。アリスも訊こうとは思わなかったし、訊いたとしても誰も話さないだろう。
 町の東側に位置する門に辿り付いた。外には、草原が広がっており、開拓されて舗装された道が一本、獣道の様に伸びている。
「この先を行くと、帝都だ。帝都を通って、最短距離で北へ向かおう。」
「北、ですか……。」
「あぁ。北は教会勢力がどちらかというと、創造主の神の方が多いんだ。」
 基本的に、闇の眷族が敵だと思われるのは、光の眷族の対の存在だからだ。正の対は負。悪。障害だ。人々はそう思い込んでいる。
 それと違って、創造主である神を信仰している人々は、中立の立場である神を信仰している所以、闇の眷族と聞いても、そこまで露骨に嫌な顔を見せない。
「それに、噂の広がりも鈍いだろうしな。」
「……リゼル様は、クラウス様をお探しになるつもりですか?」
 アリスがそう呟くように訊くと、リゼルは顔を引きつらせた。
「……バレてたか。」
「どうして北だと?」
 アリスが尋ねると、リゼルは肩をすくめて、草原に目をやった。瞳には、見るものを不安にさせる光が灯っている。
「ここから直接北へ開拓された道は伸びていない。太陽の位置を頼りに行くのが精一杯だ。それに、近い距離ではないから、野宿をする必要があるし、夜は魔物がうろついていて危険だ。だからといって、開拓された道を通ろうとすれば、東を通っていくことになり、大きく迂回することになる。また東に行くには、帝都を通るか南から迂回するかしかない
。そして、南への道は危険が多い。西は土地が広く町が多い。」
 アリスは、瞳に困惑の色をリゼルを見た。横顔は以前に会ったときから全く変わっていないように見える。麻のコートのフードの部分が風になびいて様になっている。
「つまり……噂が人口の多い方に漏れにくいのが北というわけですか。」
「いくら国家機密だろうが、どこかで必ず穴が空くんだ。それなら穴が空いて情報が落ちたとしても、その量が少ない方がいい。そうすると北は適所なんだ。わざわざ北に行く者も、情報だけ持って帰ってくるものも少ない。せいぜい長距離移動する商人くらいだ。」
「で、でも私たちはどうするんですか?」
 アリスが訊くと、リゼルは微笑んだ。そしてアリスの頭に手を載せて言った。
「アリスは、騎士だったんだろ?それなら主を守ってくれ。」
 アリスは顔が赤くなって、思わず俯いてしまった。面と向かってそんな冗談を言われると、立つ瀬がない。
 舵が決まった。自分たちが初の直接北に赴く者だ。


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  1. 2008/09/07(日) 21:01:43|
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可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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