弐つの遊戯卓

【五年目】 毎日頑張ってやりくりしていきてます。物書き、音ゲーと合唱やってます。最近DTMとか始めました

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Program 第九章

Program9
 夜はしんしんと更けていき、棒と化した足をひきずりながら、例の宿の自分の部屋の下へとたどり着く。部屋の窓からは、ゆらりと結ばれたシーツが垂れ下がっており、主を待っているかのように揺れている。
 ……武器は揃った。
 クラウスの観察眼が間違っていなければ、ガンディスが今の人間らしくなければ、この作戦はうまくいくはずなのだ。臆病、自己中、金に対する執着が強い。
 今日は普通に階段を上り、自分の部屋へと戻る。宿の主人はもちろんのごとく寝入っており、蝋燭の火も消されている。闇が具体化して、その空間を支配しているようだった。
 木の階段を上りながら、手に持っていた麻の袋を眺めた。もうこれの役目もおしまいだ。少し名残惜しいが……大丈夫だろう。
 ギシギシと軋みをあげる階段は、鋭い人間、もとい警戒心の強い人間なら近づいてくるだけで気付く。どんなに新しい木を使っても、この音は消せない。この音を消せる物質を持っている魔物がいるのなら別だが。
 自分の部屋に近づくにつれて、緊張が大きくなる。木の廊下は、何もはまっていない窓の外から差し込む一筋の月の光だけで、ぼんやりと照らされている。
 月の光……太陽の光の対の存在といわれ、闇の眷族を象徴している、と教会は説いている。近頃教会の動きが変だ。何故か活発に改宗を呼びかけている。何か良くないことが起きているのではないか……?
 ひんやりとした月の光を浴びながら、扉の前で立ち止まる。ここ半年間ずっとこの扉を外から見たことは無かった。木製で、無骨なノブがついているだけの簡素なつくりだ。半年前から変わっていない。
 クラウスがノブに手を伸ばすと、触れる前に扉が開く音がした。クラウスの心臓は休息という字を忘れてひたすら鼓動を続ける。
「お帰りなさいませ。夜の散歩は楽しかったですか?」
 クラウスは内心では笑いが止まらなかった。この勝ち誇った顔。滑稽すぎる。
「……。」
 怯えたように、下からガンディスのその偽りをどっぷり塗りつけた顔を睨む。半開きになった扉とガンディスの体の隙間から、クラウスが脱走した窓が見えており、ベッドの支柱には白い帯状のものが見える。しかし、それから垂れ下がったシーツはなかった。
 切り落としたのだ。こいつが。
 恐らくは、逃げたのを悟ったガンディスは、登ってくる途中のクラウスを脅すつもりだったのではないか。脅し文句はどうとあれ。登っている途中でひょっこりと顔を覗かせて、勝ち誇ったように、命が惜しいかとかなんとか訊くつもりだったのではないか。
 どうとあれ、あのシーツに気づいたと言う事は、もう買ったも同然。階段から、どんなレンジャーでも耳を澄まさないと聞こえないような微かに軋む音が聞こえてきて、クラウスは安堵した。
「……どうぞ。」
 ガンディスが扉からどいた。クラウスは彼を一瞥もせずにシーツのしかれていないベッドに寝転んだ。その隙に確認したが、仕掛けておいた皿は綺麗に割れていた。
「どういうことですか?」
 何か鋭利なものが空気を引き裂いている音がした。
「あれほど外には出るな、と」
 その音が近づいてくる。同時に足音も近くなる。クラウスは唇を噛み締めた。
「どうするんです。もしものことがあったら。」
 もしものことがあったら。それは。
「私が困るじゃないですか。」
 かかった。
「いつからですか?町内観光に出かけるようになったのは。」
「半年前からずっと。」
 クラウスは即答した。もちろん嘘だが。流し目でガンディスを見据えると、月明かりの中でその細い体がぐらついたのが見えた。
「半年……ですか。」
「半年。あのころからずっと。友達の商人さんも居るのよ。今はどこにいるかわからないけどね。」
 ガンディスの手に握っている物の回転速度が速くなった。容赦なく月のまばゆい光を切裂いている。動揺が手にとるようにわかる。
「よく今日の今日まで気づかなかったと思ってる。」
 影の動きが止まった。
「その商人とやらは今何処に?」
「だから何処にいるかわからないって。」
「嘘をつけ。」
 クラウスは眉をひそめた。思ったよりも早かった。それだけ心の余裕が無くなっていたというわけか……。
「なにを根拠に?」
「こんなところ、滅多に商人はこない。来たとしても夜に会えるはずが無い。」
 何処までも自分中心の男。愛想が完全に尽きた。
「だったらどうしてそんなに慌ててるの?」
「慌てるに決まってるだろうが。もしも姫がここに居ることがバレたらどうなると思ってるんだ。」
 クラウスは混乱していた。こいつが何が言いたいのかわからない。思惑とは大分外れているが、一応軌道には乗っている。
「だから……商人の知り合いは居ないって言ってるのに、どうしてそんなに慌ててるの?」

 彼と出会ったのは二日前。町の外れでキャンプを張っていた。
 一人旅をしているレンジャー。エダと名乗った。南の出身らしい。南の地方のものらしい碧のローブが特徴的である。
 自分の身分を明かすわけには行かないので、ある程度のぼかしを入れて自分の立場を説明した。前は複数の人間がいたが、今はそいつ一人になってしまい、最後の命令と称して、自分を監禁して不正に利益をあげている。何か打開策は無いか。
 実のところ言うと、町の中での協力者を手に入れることができなかったのだ。キャンプを張っている者がいるという噂を耳にしたので、藁にもすがる思いで赴いてみたのだったが。
 意外にも事情を話すと、あっさり了承してくれた。不気味に思えるくらいあっさりと。
「そんなのは簡単。契約を向こうから破棄してしまえばいい話。」
 口端をゆがめて、面白そうに言ったのを覚えている。
「その言うに及ばない自尊心を傷つけてしまえばいい。臆病な人間ほど、追い込まれた時、動かせやすくなる人間はいない。」
 そこまでは、クラウスも何も疑わずに頷いていけた。要するに、単純な作戦。尻を叩いて、袋に詰め込むのだ。
 だが、次の言葉を聞いた瞬間、血の気が引いた。
「ところで……貴方は王家の方かな?」
どこかで間違って何かまずいことを口走ってしまったのではないかと、咄嗟に今までの会話を反芻しつつ、そう言って不敵に微笑む彼の顔を見た。目は紫に神々しく光っている。焚き木の燃える火が、彼の顔を明るく照らしつけているのだ。
「もしそうならば、少し確かめたいことがあるんだ。付き合ってくれるかな?」
 もし断れば、もうあのこじんまりとした部屋から二度と抜け出せないかもしれない。もしそうなったのであれば、いつかあの部屋の窓から身を投げ出しかねない。
 クラウスは頷くしかなかった。

「そもそも、西が暖かいのは、帝都の南西、すなわちトール海で発生した海流によって生じた偏西風が、帝国からみて南西、ラストル王国の暖かい風を運んできているからです。実を言うと、トール海は海ではなく、元々大きな湖だったところを、開拓兵が弄繰り回したところ、海から水が大量に流れ込んできたのです。どうやら、海面の方が高さが高かったようです。そして、その周囲の街は瞬く間に水没してしまいます。そして、その街の名を引き継いで、その海はトール海と呼ばれています。今もトール海は面積を増しつつあり、今後百年以内に大西洋と合流してしまうようです。
そうしてですね。こんなにも西と北との境界線がくっきりしているかといいますと、北が寒いのはこの惑星の都合上、回転軸の根元部分。所謂「極」と、呼ばれる部分ですが、そこに日の光が差し込みにくいことが起因となっています。単純にその寒気が猛烈な勢力を持って流れ込んできているわけです。そして、この北と西の勢力がぶつかりあう、この地点が一番大気が安定しなくてですね、こうして苦戦を強いられていると……」
 あたりは、草原しかなかった。草原と言えるかどうかも分からないが、とにかく原っぱが広がっていた。それだけならまだ良かったかもしれない。と、リゼルは下唇を噛んだ。
 アリスの言い訳めいた説明を受けて、感じたことはただ一つ。準備が足りなかった。それだけ。
 だが、あの時のアリスの渦巻いた心境のままあの町に少しでも滞在させるのは心に負担がかかるだろうと踏んだのだ。事実それは間違ってもいないかもしれない。こうしてこんな過酷な状況でも尚話し掛けてくるのは、寂しさを紛らわすためかもしれない。
 強風が吹き荒れている。先ほどようやく一番勢力の強い中心部を抜けたらしく、一歩踏み出すたびに風が弱まってくるように感じる。
 大気の乱れ。気圧の違いは強風を召還する。それだけならまだいいのだ。だが、その大気の違いを作り出すのは、それぞれの猛烈な対となるもの。冷気と暖気。普段ならそれぞれ上と下、絶妙な位置にいてバランスを保っているものが、それぞれ正面衝突して互いに引けをとらないというのだから、困り者。しかも、このあたりの空気の流れは特殊らしい。
 なんと熱波と寒波がそれぞれ一定間隔ごとに訪れるのだ。
 つまり、ある程度の熱波に耐えると、寒波が襲ってくる次第である。我慢すればなんともない、と思ってしまうかもしれないが、急激な温度差に耐えられるように人間の体は作られていないらしい。アリスが慌ててそんな事を言い出したので、リゼルは困ってしまった。
 ……そして、今の状況はというと、左手でアリスの脇のあたりを抱きながらコートに包み込み、必死でそれぞれに見合った温度を生じさせて、中和させながら進んでいた。てっきり、前人未踏というものの原因というのは、魔物の存在が大きく影響していると思っていたが、魔物はおろか植物ですら生息しているかも怪しいこの地域の特徴が大きく影響していたようだ。
「んで……その説明から得られる意味というのは何なんだ?」
「頑張ってください。」
 リゼルは思わず嘆息した。でも先ほど中心地点と思われる不安定な場所は通り抜けたのであとは、抜けるまで進んでいけば良い。徐々に寒波の訪れている時間の方が長くなってきている。
「なぁ。」
「はい?」
「たった二、三日だ。たったそれだけしか一緒にいなかったのに、どうして俺にそんなに執着したんだ?」
 ぴったり寄り添って離さないといった様子のアリスにそう訊くと、アリスは楽しそうに言った。
「私のご主人様だからですー。」
 ふんわりとした匂いが容赦なく鼻腔に入り込んできて、思わず笑みを浮かべそうになる、歯が浮きそうなセリフだ。
#<2、becouse you are my master.  … orz
 腕に巻かれていた腕の力が少し強くなった。リゼルは思わず足を止めてアリスを見下ろしていた。 
「一目惚れってしたことないですか?」
 何かを懇願するような、かすれた声で訊いてきた。
「……ない。」
「悪いことじゃないです。」
「そうか。」
 寒波しか訪れなくなった。徐々に草木も増え初めて、空も少し灰色を残しながらも太陽が顔を覗かせている。
 燦然と燃える太陽を目を細めて見たが、黒眼には少しきつい日差しだった。まるで、太陽が自分を威嚇するかのように感じる。
「北の土地は来るのが初めてですが、比較的思ってたよりも暖かいですね。」
「……あぁ。」
 アリスは、異常気象地帯を抜けても尚、腕をがっちり組んで離さない。もしかしたら、寒いと思わないのは、こうしてコートの下で体をくっつけあってるからかもしれない。
 服が汗で蒸れているのを感じて、リゼルは苦笑いを浮かべた。

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  1. 2008/09/12(金) 20:48:45|
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可児 珊士

Author:可児 珊士
大学生。
元音楽(合唱)部員。旧BASS。
ギターが欲しい年頃。
作家志望。
本陣:埼玉
カラオケ行くと声的な意味で別人化。

アイコンは柊氏より頂きましたΣd(゚∀゚d)

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